介護職による殺人事件はなぜ起こるのか?介護現場の現状や課題から考える【介護福祉士監修】

ストレス・メンタル対策
2023/01/23

介護職による殺人事件はなぜ起きるのでしょうか?
そこには幾つもの要因が潜んでおり、介護職個人の責任だけで済む問題ではありません。

本記事では、介護職による殺人事件の背景にある介護現場が抱える問題を、これまでの事件をもとに解説していきます。

自分自身が働く職場と照らし合わせながら、環境改善の参考にしてみてください。

介護職による殺人事件はなぜ起こるのか?

実際に殺人事件には至ってないものの、そこには虐待と密接な関係があると考えられます。
虐待の発生要因を見ながら、介護職がなぜ殺人事件を起こすまでに発展したのかを考えていきます。

参考:厚生労働省「令和2年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果」

介護職の性格や人格は?

虐待の発生要因としてまず挙げられるのが、虐待者の「性格や人格(に基づく言動)」で全体の57.9%を占めています。

ここで考えてほしいのは、短気や怒りやすい性格の人が虐待するのか、そして衝動的に殺人事件にまで発展するのかという点です。

人は誰しもイライラしたりカッとなる場面があります。
特に介護の現場では、認知症対応などで上手く対応できず、苛立ちが言動に表れることもあるでしょう。

ここで大切なのは、イライラしないことではなく感情をコントロールできるかということです。

以上のことを考えると、性格や人格よりも、自分がどういった人間なのかを自分自身が理解しておくことが重要でしょう。

利用者様に関する情報や知識不足は?

虐待の発生要因として2番目に多いのが、被虐待者の「認知症の症状」で全体の52.9%となっています。
また、そのほかの要因として、虐待者の「理解力の不足や低下」(43.1%)、虐待者の「知識や情報の不足」(42.6%)という結果が出ています。

以上のことから、認知症対応をはじめとした不適切なケアが、利用者様を不安定な状態にさせ、結果として介護職の精神状態が不安定になっていると考えられます。

利用者様の状態を把握し適切なケアが分かっていれば、介護職も余裕を持って対応しやすくなります。
しかし、利用者様に関する情報や介護のスキルが乏しければ、余裕がなくなり感情的にもイライラしやすくなるでしょう。

虐待防止、そしてその延長にある殺人事件を防ぐためにも、利用者様に関する情報共有の徹底と、適切な介護スキルを維持できる教育環境が重要となってきます。

仕事上のストレスは?

虐待の発生要因として2番目に多いのが、虐待者の「介護疲れ・介護ストレス」で全体の50%という結果が出ています。
さらに「被虐待者との虐待発生までの人間関係」(46.5%)、虐待者の「精神状態が安定していない」(46.1%)などの要因もあります。

介護職は感情労働と言われ、感情のコントロールや我慢が必要な仕事です。そのため、ストレスをゼロにするのは難しいでしょう。

大切なのは、介護業務以外でのストレスを最小限にすることと、ストレスを溜めない習慣を作ることです。
例えば、介護職同士の人間関係を良好に保つことや、プライベートでリラックスできる趣味や運動習慣などを持つといいでしょう。

ストレスをなくすのではなく、ストレスとどう向き合い適切に発散することが大切です。
またどんな時にストレスを感じるのか、自分自身のことを把握することも重要でしょう。

介護職による殺人事件のニュースを紹介

続いて、以下の施設でこれまでに起きた介護職による殺人事件を振り返っていきましょう。

  • 特別養護老人ホーム「浮間こひつじ園」
  • 特別養護老人ホーム「つつじの里」
  • 介護老人保健施設「けやきの舎(いえ)」
  • 障害者施設「津久井やまゆり園」
  • 有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」

それぞれどのような背景があったかを知り、介護業界の課題を見つける参考にしてみてください。

特別養護老人ホーム「浮間こひつじ園」

まず一つ目は、ケアきょうでも取り上げた東京都北区浮間の特別養護老人ホーム「浮間こひつじ園」で起きた事件です。

概要は、2022年9月15日の夜から16日未明にかけて、入居中の山野辺陽子さん(当時92)が、施設で働く介護職員の菊池隆容疑者(当時50)によって殺害された。
容疑者の供述によると、山野辺さんから「痛いところがある」と相談されたが発見できず「バカ」と言われ、カッとなり暴行に至ったとのこと。

メディアの情報などから、利用者様と介護職員の関係性の悪化が、事件の要因になったのではと推測できます。
関係の悪化については、介護職員の記録から読み取れる部分もあったため、早い段階で担当部署を変更し、利用者様と介護職員の関わりを減らすといった対応が必要だったでしょう。

以下の記事では、この事件に対する介護職の声も紹介しているのでご覧ください。

参考記事

特別養護老人ホーム「つつじの里」

2つ目は、福島県の特別養護老人ホーム「つつじの里」で起きた事件です。

概要は、2022年10月9日午前5時ごろ、夜勤中だった施設で働く介護職員の冨沢容疑者(当時41歳)が「個室のベッドで女性が亡くなっている」と施設の看護師に電話で報告。
施設主治医の診断で女性入居者(当時94)は当初老衰とされたが、不審に思った関係者が10日警察に通報した。
女性の上半身などには複数のあざがあり詳しく調べた結果、死因は外傷性の出血性ショックだったことが判明した。

この施設では、過去に介護職員による暴力行為や虐待などの報告はなかったが、冨沢容疑者の担当していた入居者の腕に、あざが見つかった事例があった。

亡くなった入居者も、身体に複数のあざが発見されており、その時点で虐待の可能性を検討し第三者の介入をすべきだったと考えられるでしょう。

また施設がユニット型であることから、利用者様と介護職員の距離が近くなりすぎるため、定期的に職員をユニット間で異動するなどの取り組みも、虐待防止の観点から有効と言えます。

参考:福島民友新運「94歳入所者殺害疑い、介護福祉士を逮捕 小野の特養、殺意は否認」

介護老人保健施設「けやきの舎(いえ)」

3つ目は、茨城県の介護老人保健施設「けやきの舎(いえ)」で発生した事件です。

概要は、2020年の5月と7月に、当時施設で介護職員として勤務していた赤間容疑者(当時36歳)が、入居中の鈴木さん(当時84歳)と吉田さん(当時76歳)に対して、点滴チューブからシリンジ(注射筒)を使い空気を注入する同様の手口で殺害された疑いがある。

動機は明らかにされていませんが、赤間容疑者は殺人事件を起こす以前に、万引きによる逮捕歴があります。
その他、プライベートでも家族とトラブルがあったという報道もされています。

この事件は、介護職の性格や人格が大きく関係しているのではないかと考えられます。
さまざまな介護事業所が行なっている、採用前の虐待危険度チェック心理テストなどが適切に実施されていたか疑問に残るでしょう。

参考:FRIDAY『介護施設で大量殺害か 36歳女性「事件前に犯した驚愕トラブル」』

障害者施設「津久井やまゆり園」

4つ目は、神奈川県の障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた、19人殺害事件です。

概要は、2016年7月26日未明、施設の元職員である植松容疑者(当時26歳)が、刃物で入居者を次々と刺し19人を殺害、また職員を含む26名が重軽傷を負った。

植松容疑者は逮捕直後から、「障害者は不幸しか作らない」「意思疎通できない障害者は殺そうと思った」などと差別的な主張を繰り返していた。
事件後、当施設を運営する社会福祉法人「かながわ共同会」は、県の有識者による検証で一部の見守りが困難な利用者様に対して、外から施錠し個室に長時間拘束させるといった不適切なケアがあり改善を求められました。

高齢者介護とは異なる障害者支援ですが、不適切なケアや職員の知識不足によって虐待に発展する可能性を考えると、職場全体の教育体制を見直すことが重要と言えるでしょう。

参考:NHK首都圏ナビ『相模原 障害者施設19人殺害事件6年 「誰もが生きやすい社会に」』

有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」

最後に紹介するのは、神奈川県の有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で起きた事件です。

概要は、2014年11月4日未明に、今井隼人容疑者(当時21歳)が、男性利用者(当時84歳)の身体を抱えて転落させ殺害した。
また同年の11月と12月にも、2名の女性利用者を転落死させており、合計3名を殺害した。

事件を起こした今井容疑者は、事件後に施設で窃盗をした疑いもあり逮捕されていることから、介護職の性格や人格に問題があったことは明らかです。

また、当施設では徹底した効率的な介護を目指していたため、少ない人員で合理的に運営していました。
そのため、介護職のスケジュールは分単位で管理され、手を抜く暇がなかったという状況が、当時いた職員の証言から明らかになっています。

施設の上層部の入れ替わりが頻繁だったこともあり、運営体制や職員の人員配置などが適切だったのかを、介護業界全体で考えていく必要があるでしょう。

参考:現代ビジネス『川崎老人ホーム連続殺人犯の元同僚が証言「私が見た”闇”の実態」』

介護職による殺人事件をなくすために必要なことは?

では、介護職による殺人事件を起こさないために必要なことは何なのでしょうか?
ここでは、以下3つの観点から考えていきます。

  • 給与などの待遇改善
  • 労働環境の見直し
  • 業務の透明性

それでは、一つずつ解説していきます。

給料などの待遇改善

ケアきょうが行なった調査では、83.7%の介護職の方が給料に対して不満を持っています

参考記事

介護職の給料は毎年増加傾向にあるものの、介護報酬に依存していることや施設の規模による資金の違いから、昇給や賞与なども含め事業所間での差が大きいという現状があります。

参考:厚生労働省「令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」

給料以外にも、有給休暇が取れず申請しても理由によって却下されたり、業務時間外でも連絡を強要されるといった労働基準法違反にあたるような事例も見られています。

参考記事

このような待遇を改善することで、職場全体の満足度が向上し、介護職一人一人のストレス緩和にもつながるでしょう。

労働環境の見直し

待遇改善とともに、労働環境の見直しも大切です。
例えば、以下のような問題点はすぐに改善していきましょう。

  • 休憩が十分に取れていない
  • 人員配置が適切でない
  • 勤務形態がハードすぎる
  • 毎日のように残業がある
  • サービス残業が当たり前になっている

休憩については、日勤であれば1時間しっかり取るべきですし、夜勤中であれば仮眠できる程度(2時間ほど)は必要でしょう。

特に一人体制のワンオペ夜勤は注意が必要です。
対応する利用者様の人数が少ない反面、確実に休憩時間を確保できる保証はありません。

また、連続勤務が多かったり、夜勤明けの翌日に出勤することが多いなど、勤務形態がハードになっている場合も、職員の負担を蓄積することにつながるので、見直しが必要と言えるでしょう。

業務の透明性

介護は個室での排泄介助や浴室での入浴介助など、密室で行われることが多くあります。
そのため、介護職と利用者様だけの場面が多く存在し、第三者の目が届きにくくなっています。

またユニット型や小規模な施設の場合は、介護職と利用者様の関係性が近くなりすぎる傾向にあり、お互いをよく知れるというメリットがある反面、関係性が悪くなると虐待などのリスクが高まるというデメリットもあります。

密室で第三者の目が届きにくい環境だからこそ、現場のリーダー職や管理職は、介護職一人一人と利用者様との関係性や、適切なケアが提供できているかを、定期的に面談等をして確認する機会が必要と言えるでしょう。

介護職が感じる介護現場のストレス3選

最後に、実際に介護の仕事をしていて感じたストレスを、以下の3つに分けて紹介します。

  • 長時間労働
  • 不適切なケア
  • 人間関係

ストレス軽減の対策なども解説しているので、ご自身の経験と照らし合わせながら参考にしてみてください。

長時間労働

まずは長時間労働です。
夜勤明けの残業や書類作成のサービス残業が介護職では起きがちです。

夜勤明けで、毎回昼過ぎまで入浴介助をして約20時間ほど働くなど心身ともに疲れ切った状態になってしまいます。

また、リーダー職やケアマネを兼務している場合は、書類作成が勤務時間内で行なえず自主的にサービス残業をして対応することもあるでしょう。

このような状況を変えるには、職場を変える以外に方法がないことも多いです。
同様の悩みを抱えている方は、転職を検討してみるといいでしょう。

不適切なケア

不適切なケアによるストレスは、新人がよく経験します。
特に認知症の方への対応では「どうしてこちらの言うことをわかってくれないんだろう?」という疑問があり、相手が納得してくれないストレスを感じがちです。

知識や情報不足は不適切なケアにつながります。
特に新人の頃はわからないことばかりなので、先輩に質問したり書籍や動画で学ぶなど、積極的に介護を学ぶ姿勢が大切になるでしょう。

人間関係

人間関係は介護職に限らず、どんな仕事においてもストレスの要因となり得ます。
「人間の幸福度は人間関係に左右される」と言われるくらい、働く上で非常に重要なポイントです。

介護職同士でも利用者様に対しても、適度な距離を保ちながら接することで、関係性を崩さず関わりやすくなります。

また、相手の良い部分に目を向ける意識を継続すると、それが習慣化されポジティブな感情で関わることができるので、日頃の積み重ねを大切にしてみるといいでしょう。

参考記事

まとめ

今回は「介護職による殺人事件はなぜ起こるのか?」というテーマについて、過去に起きた介護職による殺人事件を振り返りながら解説しました。

また、虐待がエスカレートしたことで殺人に至るケースもあり、虐待の要因である介護職のストレスや職場環境などについても、改善策を含めて考えてみました。

介護職による殺人事件はあってはならないことです。
過去の事件から介護職一人一人が自分ごととして考え、今後の介護業界の改善に活かされることを願っています。

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