【看取り介護】終末期にみる死の兆候とは

介護職あるある
2022/10/13

超高齢社会を迎えている日本。
高齢者が増えるにつれ、看取りを行う機会も増えてきました。
さらに、介護施設での看取り加算が導入されたことで介護施設での看取りの機会も増加しています。

看取りに立ち会う時はどのように介護職は対応したら良いのでしょうか?
死を迎える前にどの様な兆候があるのか、事前に知っておくことで落ち着いて対応できるようになります。
今回は、亡くなる前にみられる変化と、介護職の対応について紹介します。

亡くなる前の利用者に起きる8つの変化とその対応

看取り期の利用者には、身体的、精神的に8つの変化がみられます。
呼吸状態の変化があったり、熱が出たり、尿が出なくなったりと徐々に変化がみられ、死を迎えます。

このような変化を事前に知っておくことで、利用者の看取りの段階を把握して対応することができます。

それでは、どのような変化が起こるのか1つずつみていきましょう。
また、ケアきょうの記事やYouTubeで看取りの段階について紹介しているので、詳しく知りたい方は合わせてご覧ください。

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亡くなる前の利用者に起きる8つの変化
  • 発熱
  • 排便障害と褥瘡の発生
  • 排尿量の低下による浮腫
  • 不安定な呼吸状態やチアノーゼの出現
  • 脈拍の変化
  • 血圧の低下
  • 意識レベルの低下によるせん妄やお迎え現象
  • 食事量や水分摂取量の減少

終末期の変化①

食事量や水分摂取量の減少

亡くなる1ヶ月前ほどから、食事量や水分摂取量は徐々に減っていきます。
利用者も空腹感や喉の乾きを感じなくなっています。

この時に大切なことは、無理に食事をさせないことです。
利用者の好きなものを、好きな時に、好きな分だけ食べさせてあげましょう。
飲み込む機能も低下しているため、無理な食事は誤嚥(飲み込んだ食べ物や唾液が気管に入ること)に繋がります。

個人差はありますが、亡くなる1週間前ほどになると、ほとんど食事や水分を口から摂れなくなります。
水分摂取はできなくても、口腔内が乾燥して汚れやすいため、口腔ケア用のスポンジなどで口腔内を綺麗にしてあげましょう。

終末期の変化②

意識レベルの低下によるせん妄やお迎え現象

亡くなる1ヶ月前ごろには、意識レベルが低下し、眠っている時間が増えていきます
1日中ウトウトして、夢と現実の間のような不意義な幻覚を見ることもあります。
「死んだ父さんが迎えに来た。」というような「お迎え現象」と呼ばれる話が聞かれることも多いです。

医学的には、呼吸が弱くなり、酸素が取り入れられなくなったことで引き起こされる現象と言われています。
脳に行き渡る酸素が少なくなっているため、脳に酸素を送ろうとあくびを頻回にする様子も見られます。

個人差はありますが、亡くなる1週間前には目を閉じている時間が長くなります。
声をかけても開眼するのみで声を出さない状態が多くなります。
亡くなる数日前には昏睡状態となり、声をかけても開眼せず、痛みにも反応しなくなります。

終末期の変化③

血圧の低下

死期が近くなった人は、体外の環境が変化しても体内を一定に保つ力(恒常性)が低下し、血圧が大きく変動することが多くなります。

亡くなる1ヶ月前ごろになると、心肺機能も低下してきます。
心臓が血液を送り出すことができなくなり、血圧が徐々に低下してきます。
血圧低下の影響で、暑くなくても冷や汗が出て、皮膚がしっとりすることがあります。

亡くなる数日前から数時間前になると、血圧が測れなくなります。
血圧が低下すると、手首の親指側にある橈骨動脈で脈拍を測ることができなくなります。
橈骨動脈で拍動を感じる時は、上の血圧が80mmHgあると言われています。
脈拍が感じられなくなると、もっと血圧が下がっている、ということになります。

終末期の変化④

脈拍の変化

脈拍にも変化が見られます。
血圧が低下する一方で、脈拍数が増える現象が起こります。

心臓のポンプ機能が低下し、1回の拍動で送れる血液の量は少なくなります。
その代わりに拍動の回数を増やして血流を確保しようとするためです。

亡くなる数日前には、脈拍数が30〜40回ほどに低下してきます。
脈拍数が低下すると、血流が確保できなくなるため、より一層血圧が低くなります。

上記で触れたように、血圧が低下すると橈骨動脈での拍動を感じることができなくなります。
橈骨動脈で脈拍が測れないときは、首の横にある頸動脈で測ります。
頸動脈でも脈拍を測れなくなると、血液循環がほぼない状態ということであり、死期が近いと判断できます。

終末期の変化⑤

不安定な呼吸状態やチアノーゼの出現

終末期には、呼吸回数が不安定になります。
速い呼吸からゆっくりな呼吸になり、数秒呼吸が止まり(無呼吸)、数秒後にまた速い呼吸を繰り返す時もあります。

亡くなる数日前〜数時間前には、ほとんどの方に下顎のみを動かし空気を飲み込むような「下顎呼吸」が見られます。

上記のような呼吸の変化が出る時は、肺の機能が低下しており、十分に酸素を取り込むことができません。
よって体の酸素が不足します。
血液中の酸素が不足すると、手足の指や足底が紫色になるチアノーゼが見られるようになります。

意識が無い状態では、喉の奥にコロコロと痰が絡んだような音やいびき様の音が鳴ることもあります。
唾液を飲み込む力がなくなり、喉の奥に唾液や痰が溜まることで起こります。
本人は苦しさを感じていないと言われています。

終末期の変化⑥

排尿量の低下による浮腫

終末期には、排尿量の減少が見られるようになります。

12時間で出る尿量が100ml未満になると亡くなる時が近いと言われています。
徐々に尿量が減少し、亡くなる数日〜数時間前には尿が全く無くなる「無尿」となります。

内臓や腎臓の機能が低下する事で、尿を作り体外に出すことができなくなります。
尿を体外に出せないと、老廃物や毒素が体内に溜まる「尿毒症」という状態になります。

毒素が脳に回ると、睡眠障害や痙攣を起こしたり、やがては呼吸状態の悪化を招くこともあります。
水分も体内に溜まるため、全身に浮腫が出ます。
行き場を失った水分が肺に溜まることもあります。

終末期の変化⑦

排便障害と褥瘡の発生

終末期になると、肛門の筋肉が緩むことで、便がだらだらと出続ける様になります。
拭いても拭いてもすぐに出てきてしまうため、清潔を保つことは中々難しいですが、褥瘡(床ずれ)を予防するためにも出来るだけ清潔を保つよう心がけましょう。

終末期では十分な栄養が取れていないため、皮膚も弱くなっています。
便などで汚染された状態が継続するとかぶれなどの炎症を起こし、褥瘡につながります。

また、終末期の人は自分で体を動かす力も残っていません。
そのため、同じ部分が長い時間圧迫されてしまい、褥瘡を起こすので注意が必要です。
栄養不足の状態では体が傷を治す力がないため、褥瘡が発生すると中々治りません。
傷ですので痛みを伴います。
利用者の苦痛を軽減させるためにも、褥瘡の予防は重要です。

終末期の変化⑧

発熱

感染症やがんなどにより発熱することがあります。
食事ができず、栄養不足となっている利用者は、免疫力も低下しています。
尿道口や傷口からの感染、肺炎などを起こすと発熱が見られます。

また、がんを患っている場合は、がん細胞が産生する発熱物質により発熱することもあります。

終末期の発熱は、利用者が発熱による苦痛を感じているかによって対応が異なります。
苦痛を感じている様であれば、アイスノンなどで首元を冷やしてあげたり、状況によっては解熱剤を使用することもあります。
寒さを感じているようであれば、掛物を増やしたり、部屋の温度を調整してあげるといいでしょう。

感染症に対しては、抗生物質で治療を行うことが一般的ですが、死期の近い方では治療を受けない選択をする方もいます。

終末期の点滴は必ずしも良いとは限らない

ご飯が食べられなくなると、栄養を取れるようにと点滴を導入することがあります。
ところが、終末期になると、体の各臓器の機能が低下しています。

今までのように体が機能してないところに点滴を行うことで、逆に状態を悪化させてしまうことがあります。
点滴を行った方がいいのかどうかは、利用者の状態をよく観察し、医師に相談しながら見極める必要があります。

点滴を行う時には、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。次にまとめました。

点滴によるメリット

看取り期に点滴を行うメリットはずばり「余命が伸びる」ということです。

点滴とは、血管に針を留置して水分や栄養分、その場に応じた治療薬を投与する医療処置です。
口から食事や水分摂取ができない状態でも、栄養や水分を補うことができます。
つまり、食事をしなくても生きている期間が延びるということです。
家族が利用者の死を受容する時間が作れるのは大きなメリットと言えるでしょう。

終末期であっても、尿量が減少してきたときに点滴を行うことで、尿量が改善し状態が安定することもあります。

ただし、見極めは難しいものとなるため、次の項目のデメリットも考慮しながら選択する必要があります。

点滴によるデメリット

看取り期には全身の臓器の機能低下が起こっています。
点滴で栄養や水分を補っても、体が処理しきれず状態が悪化することもしばしばあります。
尿量の部分で触れましたが、点滴をしても尿量が増えなければ体内に水分が溜まり続けます。

その結果、手足だけではなく、肺や腹部などの臓器にも浮腫を引き起こします。

水分が増え、血管内の血流が増えることで、心臓に負荷がかかり不整脈を起こす心不全を引き起こします。
心不全になると、心臓のポンプがうまく動かないため血液を送り出す量が減少し、血管内で血液が渋滞(うっ血)します。
すると、水分は血管の外に移動し、臓器にも浮腫が起きるのです。

胸に水が溜まると、肺でのガス交換(酸素を取り入れ、二酸化炭素を排出すること)ができず、溺れた様な状態となり呼吸困難が悪化します。
さらに、気道内に痰が増加します。
当然、気道が塞がれて苦しくなるため、頻回に吸引の処置を行うことになります。
この吸引の処置も苦しさを伴うものであるため、利用者に辛い思いをさせてしまいます。

この様に、点滴をすることで利用者に苦しい思いをさせてしまう可能性もあります。
止むを得ずに使うとしても、看取り期の点滴は最小限にすることをお勧めします。

終末期の看取り介護で介護職ができること

終末期に利用者の体におこる変化を見てきましたが、この時期に介護職ができることは何があるのでしょうか。

「医療の知識もないのに、何ができるの?」と不安に思うかもしれません。
大丈夫です。
利用者や家族の身近にいる介護職だからこそできることがあります。

ケアきょうのYouTubeにも動画があるので、ぜひ合わせてご覧下さい。

▼関連動画

病状や今後の経過についての情報提供を行う

これは、ご家族に対して行うことが多いと思います。
ご家族は、自身の大事な家族に死期が迫っていることを受容できないことも多いです。

中には、終末期の利用者を避けてしまうご家族もいます。
必要時は医師や看護師と連携し、病状や今後の経過についての情報を共有してもらえるよう調整するのも、介護職ができることの一つです。

利用者やご家族の不安を取り除く

利用者は体が徐々に弱り、動かなくなっていく状況で不安を抱いています。
声かけやタッチング(体に優しく触れること)を行うことで、不安を和らげることができます。
ご家族に対しては、現状を情報提供する他、不安の気持ちを傾聴したり、利用者と過ごす時間を作ることで不安を取り除けるようにサポートすることが大切です。

ケアきょうのサイトにも詳しくまとめてあるので、合わせてご覧ください。

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終末期の利用者にご家族ができる事

利用者とご家族が過ごす最後の期間です。
「もっとこうしてあげたらよかった」という後悔が残らない様に、ご家族がやってあげたいと思うことができる様に、介護職が積極的にサポートしましょう。

乾燥する皮膚を保湿してあげる

利用者は脱水状態となっているため、皮膚や唇などに強く乾燥が見られる様になります。
ご家族からも、「クリームを塗ってあげてもいいですか?」と聞かれることがありますが、是非やってあげるのがいいでしょう。

唇は、乾燥で切れて出血することもあるため、リップクリームで保湿してあげると苦痛緩和にもなるでしょう。

体の向きを変えたりさすったりしてあげる

利用者は、体力が落ちて自分で体を動かすことが出来ない事が多いです。
少しでも楽な体勢になるよう、体の向きを変えたり、クッションをあてがうのもいいでしょう。

優しく体をさすってあげると、苦痛が緩和したり、家族の存在を身近に感じて安心感を得る事が出来ます。
手を握って、寄り添うだけでも十分です。

話しかけたり、好きな歌を歌ってあげる

死が迫り、声掛けにも反応が乏しくなっても、聴力は最後まで残ると言われています。
話しかけるとご家族や介護職のことを認識し、話を聞いてくれています。
話しかけたり、利用者の好きな歌を歌ってあげたりすると、表情が動き、涙を流すこともあるようです。
声をかけ続けることで誰かがそばにいることを伝え、利用者の精神的・身体的な苦痛を緩和させることができます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
いざという時、「利用者さんが亡くなってしまう」「どうしたらいいのか分からない」と焦ってしまう介護職も多いと思います。

そんな時、終末期にどんな変化が起こるのかを知ることで、今後の経過を予測し冷静に対応することが大切です。
もちろん、人が亡くなる場面に立ち会うのですから、不安や焦り・悲しみなどの感情を抱くことは当たり前のことです。
一人で抱え込まず、周りの人に相談しましょう。

利用者の最期の時間をその人らしく過ごせるように、また、ご家族が悔いなく利用者を送り出せるように、それぞれに寄り添った介護を提供できるといいですね。

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