介護現場におけるリスクマネジメントとは?考え方と基本ステップを解説!
介護現場のリスクマネジメントは、利用者様の安全な生活のために欠かせません。
特に高齢者施設では、転倒の事故をはじめ、誤嚥や窒息といった命に関わる事故のリスクも大変高くなっています。
本記事では、介護現場におけるリスクマネジメントの基本的な考え方と、現場で実践できる基本ステップをご紹介します。
介護におけるリスクマネジメントとは
介護現場でのリスクマネジメントは、簡単に言うと以下の2つです。
- 実際に起きた事故を分析し、再発防止策を実践すること
- これから起きるであろう事故を予測し、予防策を考え実践すること
利用者様の安全はもちろん、介護職員が伸び伸びと働くためにも、介護のリスクマネジメントは必要と言えます。
リスクマネジメントの重要性
介護現場でのリスクマネジメントが重要な理由は、そこで暮らす高齢者の特徴から紐解くことができます。
高齢者は身体機能が低下し、十分な日常生活を送るのが困難になってきています。
また、介護施設での暮らしという新しい環境で、精神的にも不安定になりやすく、転倒などの事故も起きやすい状態です。
介護現場では、こういった高齢者の特徴を理解した上で、どういった事故につながるかを想定する必要があります。
そして、どのような関わり方が利用者様一人一人にとって最適なのかを、職員同士で共有しながら、リスクマネジメントに取り組むことが非常に重要と言えます。
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ケアきょう求人・転職の無料相談リスクマネジメントの目的
介護現場でのリスクマネジメントの目的は、主に以下の3つです。
- 利用者様の安全・安心を確保する
- 高額訴訟から事業所を守る
- 現場の介護職員を守る
それでは、一つずつ分かりやすく解説していきます。
利用者の安全・安心を確保する
介護施設で暮らす利用者様は、心身機能の低下によって事故につながるリスクが高くなっています。
だからこそ、細心の注意を払って介護サービスを提供する必要があります。
利用者様一人一人の介護における安全の確保を保つことは、リスクマネジメントの大きな目的の一つです。
高額訴訟から事業所を守る
介護現場では、事故が原因で家族から訴訟を起こされるといった事例があります。
中には、高額な賠償金の支払いを命じられるケースも見られています。
また、訴訟を起こされることで施設の信頼性は崩れ、今後の施設経営にも大きなダメージを与えることになるので、リスクマネジメントによって、訴訟問題への発展を防ぐことが重要です。
現場の介護職員を守る
介護職をしてる方なら分かると思いますが、介護事故は職員のメンタルに大きな影響を与えます。
事故を完全に防げないことを理解はしてるものの、目の前で起きた事故に対して自責の念にかられる職員は多くいます。
しかし、介護事故の原因は、手すりの不足や適切な福祉用具の不備など、環境面も大きく関わってきます。
現場の介護職員を守り安心して働けるためにも、リスクマネジメントは大切であることを理解しておきましょう。
よくある介護事故・ヒヤリハット
介護のリスクマネジメントにおいて、実際の介護現場でよくある介護事故やヒヤリハットを知ることが大切です。
ヒヤリハットとは、事故にはならなかったものの、事故になる可能性があり「ヒヤリ」としたり「ハッと」するような出来事を指します。
ここでは、よくある介護事故、ヒヤリハットを知ることで、介護現場のリスクマネジメントに活かしてみましょう。
介護現場での介護事故の事例
以下、介護現場でよくある介護事故の事例です。
- 食事の準備中に「バタン!」という音がして振り向くと、利用者様が転倒していた
- 利用者様がトイレに座ってる間にパットを取りに行き、戻ると床に転倒していた
- 入浴介助中、石鹸で濡れた床に滑り転倒してしまう
- 夜間巡視へ行くと、トイレ前の床に倒れている利用者様を発見
- 車椅子の移動介助中、肘がテーブル角に当たり皮膚がめくれ出血した
- 車椅子に座っていたが、ずり落ちてそのまま床に転落した
- ミキサー食の方に普通食を提供、誤嚥し窒息しかけた
- トロミが必要な利用者様にそのまま水分を提供し激しくむせた
- 誤って違う利用者様の薬を飲ませてしまった
- 利用者様の補聴器がポケットに入っていることに気づかず、そのまま選択してしまう
介護現場で最も多い事故が「転倒」ですが、その他にも誤嚥や誤薬などは命の危険が伴う事故となります。
食事の際や、服薬介助する際は十分に注意しましょう。
以下の記事では、事故報告書の書き方を事例別に解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
介護現場でのヒヤリハットの事例
以下、介護現場でよくあるヒヤリハットの事例です。
- 歩行が不安定な利用者様が立ち上がり、フラフラ歩きながらご自分でトイレに向かう
- 付き添い歩行の介助中、利用者様の足がつまずき転倒しそうになる
- 食事前に入れ歯の確認をすると付けておらず、ティッシュに包んでポケットに入れていた
- 車椅子のブレーキをかけずに立ち上がろうとして転倒しそうになる
- オムツ交換の後、ベッド柵を付け忘れており転落の危険性があった
- 入浴介助時、水温を確認せず誤って熱湯をかけてしまい火傷しそうになる
- 自立度の高い利用者様が、他の利用者様の車椅子を押してトイレ誘導しようとしている
- 朝食後薬のつもりで提供しようとしたが、表記を確認すると昼食後薬になっていた
- 薬を提供したつもりが錠剤が一つ残っており、後で気が付く
- 廊下で利用者様同士が口論になり、1人は叩こうとされていた
「ハインリッヒの法則」という「1件の重大事故の裏には29件の軽微な事故と300件の怪我に至らない事故がある」というものがあります。
この300件の怪我に至らない事故がヒヤリハットを指しています。
それだけヒヤリハットは介護現場に多く存在するということ。
日頃から、よくあるヒヤリハットを理解し、介護現場におけるリスクマネジメントに活かしていきましょう。
介護現場でリスクマネジメントの基本ステップ
介護現場でのリスクマネジメントにおいては、リスクの特定から分析、その後の対応などといった一つ一つのステップを踏むことが大切です。
ここでは、介護現場におけるリスクマネジメントの基本的な流れを解説していきます。
リスクの特定
まずはリスクの特定です。
介護事故の場合は、「利用者様」「介護職員」「施設環境」それぞれにリスクが潜んでいることを理解しましょう。
▼参考元
介護労働安定センター
リスクの特定については、先ほどご紹介した「ヒヤリハット」の活用が有効です。
以下の記事で、ヒヤリハットに関する事例と報告書の書き方を解説しているので、参考にしてみてください。
リスクの分析・評価(リスクアセスメント)
リスクの特定の次は、分析と評価になります。
まずは「いつ」「どこで」「誰が」「どのように」「なぜ?」といったリスクの概要を把握しましょう。そこから、問題点と解決法を考えていきます。
分析する際は、以下の4つの視点から考えましょう。
- 人的要因
- 設備的要因
- 作業環境的要因
- 管理的要因
これら4つの視点から「夜間巡視時に居室トイレ前で転倒していた」という事例を分析してみましょう。
人的要因 | 利用者様の歩行状態が不安定、職員の巡視の時間が普段より遅れていた |
---|---|
設備的要因 | ベッドからトイレまでの導線に手すりなど掴まるところが少なかった |
作業環境的要因 | 他の利用者様の救急対応で普段より職員が不足していた |
管理的要因 | 昨夜もトイレ前までご自分で歩かれ転倒の危険性があったが、情報の共有ができていなかった |
リスクへの対応マニュアルの作成
続いて、リスクへの対応マニュアルの作成です。
介護現場の事故は、高齢者ということもあり、場合によって命の危険性があるため、迅速な対応が必要です。
まずは、以下のような事故が発生した場合は、自治体への報告が必要です。
- ケガ・死亡事故
- 食中毒・感染症
- 職員の不祥事・コンプライアンス違反により起きた事故
- 災害による重大な事故
また、各自治体によって、報告が求められる事故があるので、事前に事業所内で確認しておきましょう。
以上のことを考慮した上で、リスクへの対応マニュアルの作成をする必要があります。
実際に作成するに当たっては、事故の内容によって対応方法や手順が異なるため、事故の種別ごとにそれぞれマニュアルを作成しておくのがいいでしょう。
マニュアル作成に関しては、以下の福岡県庁が公開している内容が分かりやすいので、添付しておきます。
(事故の種別ごとの個別対応指針やチェックリストもあり)
また、マニュアルを作成したら、事故発生時にすぐに対応できるよう、職員への定期的な研修も合わせて実施しましょう。
対応マニュアルの実行(リスクコントロール)
マニュアルが作成されたら、実際に運用できるようシステム化していきます。
これを「リスクコントロール」と言います。
具体的には、業務マニュアルの整備や決定事項の対応、定期的な職員研修なども含まれます。
リスクコントロールでは、リスク対応で決めたマニュアルに従って、職員全体で取り組んでいきます。
ただ、簡単なことではなく、継続的に時間をかける必要があります。
そのため、システム化をして継続的にリスクマニュアルを運用するために「安全管理委員会」を設けることが効果的です。
安全管理委員会の開催に当たっては、以下のことを参考にしてみてください。
- 管理職(施設長)
- 介護職
- 相談員
- ケアマネ
- 看護師
- リハビリ職など
- ヒヤリハットや事故報告の集計・分析
- リスクマニュアルの検討や決定
- 定期的な評価(モニタリング)
- 家族との適度な情報交換
- 定期的な研修会の開催
以上のようなことを参考にして、安全管理委員会が定期的なリスクマネジメントに取り組める環境づくりが非常に大切です。
リスクマネジメント対応は定期的な見直しを
リスクマネジメントは構築して終わりではありません。
特に介護の現場では、利用者様の状態は日々変化します。
それによって、リスク対応も変化してきます。したがって、リスク対応マニュアルに関しても、定期的な見直しが必要になります。
その時に役に立つのが「PDCAサイクルの実施」です。
上の図で示したように、「リスク特定」→「リスク対応」→「リスク評価・分析」→「リスクコントロール」といった流れで、PDCAサイクルを実施し、定期的リスクマネジメントを見直すことで、継続的な改善が期待できます。
安全管理委員会を中心とした、リスクマネジメントの改善・見直しが、介護現場のリスク管理をより安定的なものにしていくでしょう。
「利用者の保護」と「職員・事業所の保護」の両方を意識する!
介護現場におけるリスクマネジメントでは、利用者様だけでなく、職員や事業所の保護も大切です。
ここでは「利用者の保護」「職員・事業所の保護」の2つの観点から、リスクマネジメントの実践を解説していきます。
「利用者の保護」からみたリスクマネジメント
利用者様の安全で安心な生活のためには、利用者様の保護を考えながら、施設運営や介護サービスを提供していく必要があります。
その中で「ヒヤリハットの活用」が非常に効果的と言えます。
なぜなら、大きなリスクは、すべてヒヤリハットの中に隠されているからです。
さらには、利用者様一人一人の特性を把握し、職員間で情報共有を強めることで、個別サービスの提供が実現し、利用者様の満足度向上にもつながりやすくなります。
ただ、安全な生活を重視するあまり、利用者様の行動を制限(身体拘束など)してしまうと、利用者様の尊厳を傷付けるなど、返ってリスクを高めてしまう危険性があるので注意しましょう。
「職員・事業所の保護」からみたリスクマネジメント
介護事故の中には、訴訟問題になり多額の損害賠償を請求されるケースもあります。
例えば、嚥下状態が良くないことを分かっていながら、利用者様本人が刺身を食べたいということで提供し、詰まらせてしまい死亡に至るといったケース。
結果的に家族からの訴訟に発展し、事業所側に数百万円の賠償金を命じられました。
こういった場合、基本的に責任を負うのは事業所ですが、事故の内容が故意または悪質である場合は、事業所は責任を負わず、介護職員個人が損害賠償を負担しなければいけないケースもあります。
以上のような問題に発展させないためにも、日頃から事故報告やヒヤリハットを活用して、適切なリスク対応を浸透させていくとともに、マニュアルを逸脱した行為などが事故になることで、訴訟などの大きな問題に発展する危険性を理解しておくことも必要です。
介護現場では防げない事故もある!
介護現場では防げない事故もあります。
もちろん、リスクの特定や再発予防などの対策をしっかり行うことは大切です。
リスクマネジメントにおいて、継続的な原因追求、分析、情報共有の徹底は必要不可欠です。
しかし、どれだけ頑張っても防げない事故があるのも事実です。
日本老年医学会と全国老人保健施設協会が2021年6月に、2年間の検討を踏まえて意見書を公表しました。
この中で「転倒全てが過失による事故ではない」としており、対策を徹底していても、一定の確率で転倒は発生すると発表しています。
介護現場の防げない事故に関する解説は、以下の動画も参考になるので、ぜひチェックしてみてください。
▼ケアきょう関連動画
行き過ぎた事故予防は利用者の行動制限になることも
防げる事故に関しては、情報共有、リスクの特定、対策の立案と実行を確実に実施していくことは大切です。
しかし、防げない事故を無理に防ごうとすることで、問題が生じる場合があります。
例えば、転倒リスクが高いからといって、「利用者様を立たせない」「絶対に1人で歩かせない」「ベッドから降りさせない」といったふうにするのは、利用者様の行動を過度に制限することに繋がりかねません。
(これらが身体拘束に該当することも理解しましょう)
そのため、事業所内で「事故=絶対に防げるもの」と捉えるのではなく、「事故のリスクを少しでも減らす努力」をしていきましょう。
実際に介護事故が起きたときの対応方法
介護現場では、事故は必ず起こるといってもいいでしょう。
では、事故が発生したときはどのような対応方法を取ればいいのでしょうか?
利用者様、家族、関係各所など、それぞれの対応方法を解説していきます。
利用者への対応
事故が発生した際は、まず第一に利用者様の安全が最優先です。
事故状況を把握し、必要であれば応急処置を行うことも大切です。
大量出血をしている、呼吸をしていないなど、明らかに緊急事態であると判断した場合は、すぐに同僚、看護師、管理者などに報告し助けを求めましょう。
場合によっては、自分ですぐに救急車を呼び、心臓マッサージを開始するということも考えられます。
家族への対応
事故が発生した場合は、事業所の管理者や担当職員が家族に謝罪します。
このとき、可能であれば事故発生当日に連絡し、早い段階で事故の内容と利用者様の状態を説明するようにしましょう。
事故が起きた利用者様への家族には、迅速かつ丁寧に報告し、誠心誠意謝罪することで、その後の家族からのクレームにも繋がりにくいので、初期対応には十分に注意しましょう。
関係各所への連絡
事故の内容によっては、関係各所に連絡する必要があります。
- 事故全般…保険者(市町村)
- 死亡事故…警察
- 食中毒や感染症など…保健所
自治体によって報告義務の内容が多少異なるので、事業所の管轄で自治体に事前に確認しておくといいでしょう。
介護事故の記録と原因調査
事故発生後は、事故内容や対応方法を記録し、カンファレンスを通して原因調査から再発防止策の立案などを考えていきましょう。
ここで重要なのは、事故を発見した個人の責任の追求ではなく、事業所全体で再発防止に取り組む姿勢です。
事故は絶対に防げるものではないことを理解し、一人一人が協力し合って、事業所のリスクマネジメントを追求していきましょう。
まとめ
リスクマネジメントは、ただ単に事故を減らしたり防ぐことで利用者の安全を守るだけでなく、事業所や職員を守るという観点からも非常に重要です。
そのためには、介護職員だけが頑張るのではなく、安全管理委員会の設置など、多職種連携の下、事業所全体でリスクマネジメントに向き合う必要があります。
一人一人がリスクマネジメントの重要性を理解することで、事故に関する情報共有がしやすく風通しの良い雰囲気になっていくでしょう。
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