介護現場のヒヤリハットとは?事例20選と報告書の書き方【動画付き】

業務支援
2022/05/27

介護現場では、「ヒヤリハット」がとても重要な役割を持っています。

ではこのヒヤリハットとはどのようなものなのか?
実際に現場で働いていると分からないことが多くあるのではないでしょうか?

本記事は、介護現場で事故を未然に防ぐために重要なヒヤリハットの事例や報告書の書き方など、実際の現場で活かせる内容になっています。

なぜヒヤリハットが事故を未然に防ぐことに繋がるのか?
報告書はどうやって書けばいいのか?等、一つ一つの疑問に丁寧に答えていきます。

介護現場のヒヤリハットとは?

介護現場ではヒヤリハットが重要な役割を持っていると述べましたが、なぜ重要なのか?
介護現場でのヒヤリハットの定義や、利用者様の安全を守るリスクマネジメントの観点から解説していきます。

介護現場のヒヤリハットの定義

介護現場では、事故にはならなかったものの「ヒヤッと」したり「ハッと」する状況があります。
そういった状況を指して「ヒヤリハット」と呼ぶようになりました。

では「ヒヤリハット」と「事故」の違いは何でしょうか?

介護現場での分かりやすい例と言えば、利用者様が歩いていたときにつまずき転倒しそうになったが、近くに手すりがあったため転倒せずに済んだ、といった状況です。

また「ハインリッヒの法則」と言って「1件の重大事故の裏には29件の軽微な事故と300件の怪我に至らない事故がある」というものがあります。
ハインリッヒの法則は労働災害における怪我の程度を分類し、その比率を表しています。

そして、この300件の怪我に至らない事故がヒヤリハットを指しています。

介護職の75%が介護事故を経験している

では介護事故の実態はどうなっているでしょうか?
実は介護施設で働く75%の職員が、業務中に何かしらの介護事故を経験しています。

参考元:全国労働組合連合会の「介護労働実態調査」
事故の内容は以下のようなものがあります。

  • 第1位:目の届かないところでの転倒・転落/誤嚥(63.7%)
  • 第2位:利用者同士のトラブル(24.3%)
  • 第3位:介助中の事故(23.1%)
  • 第4位:誤嚥などの薬に関わる事故(18.9%)

それではこういった事故の原因を、現場の介護職員たちはどのように考えているのでしょうか?

介護職が考える事故の原因
  • 現場の忙しさ・人員不足(78.7%)
  • 知識や技術の未熟さ(37.3%)
  • 職種内・職種間の連絡・連携の不備(31.5%)

この結果から分かるように、多くの介護職の方が事故の原因を人員不足と考えているようです。

【関連動画】介護職の75%が経験!実は多い介護事故 傾向と対策

それではリスクマネジメントの観点から、どのような工夫をすれば事故を減らせるのでしょうか?

リスクマネジメントの観点から重要

事故を減らす工夫としては、以下の3点が挙げられます。

  1. 人員を増やしたり人員配置を見直すなど、環境を変える方法
  2. 注意する利用者さんの共有など、少ない人数で対応する方法
  3. ヒヤリハットを共有し、事故から学ぶ活用方法

今回はこの中でも、3つ目のヒヤリハットの活用方法に注目して解説していきます。

ヒヤリハットの共有によるリスクマネジメントは、多くの施設が取り組んでいることです。
しかし、未だ事故が減らない原因はなぜでしょうか?

理由としては以下のようなことが挙げられます。

  • 事故を見つけても隠してしまう
  • 事故の原因を決めつけてしまう
  • 報告書を書くのが面倒

ヒヤリハットや事故は決して喜ばしいものではありません。
しかし、重大な介護事故を起こさせないためにも、発見したらすぐに報告し、原因と対策を分析することが重要になってきます。

ヒヤリハットの共有はリスクマネジメントの観点からも重要です。
職員間で事故を防ぐための貴重な情報として、施設内で積極的に報告し合える環境作りが必要になってきます。
また、定期的に勉強会を開催したり、介護以外の異業種のリスクマネジメント研修に参加するなど、リスクマネジメントを学ぶ機会を作っていきましょう。

【関連記事】75%が経験!介護事故の原因と減らす3つの方法

介護現場のヒヤリハットの事例20選

介護現場での事故を減らすためには、実際に現場で発生する事故を予測する力が必要になってきます。
介護現場でどんな事故が起こりやすいのかを知ることで、今まで見えなかったヒヤリハットにも気付くことが可能になります。

ここでは、介護事故を防ぐ観察力や予測する力を養うために、介護現場でのヒヤリハット事例をご紹介していきます。

介護現場のヒヤリハット事例1【転倒・転落】

【事例】歩行介助中によろけて……

手引き歩行で利用者様をお部屋から食堂までご案内していたが、途中で利用者様の足元がよろけて転倒しそうになった。

【対策】

この状況は、利用者様と職員の意思疎通が上手くできていなかったり、利用者様の足の筋肉の低下により、途中で膝折れするなどの可能性が考えられます。
その他、靴のマジックテープや紐が緩んでいることなども可能性としてあります。

このような介助歩行をする利用者様の場合、その日の体調を聞いたり、靴がしっかり履けているか等、歩行前のチェックをしっかりとしておきましょう。

介護現場のヒヤリハット事例2【転倒・転落】

【事例】車椅子のブレーキをかけ忘れてしまい……

車椅子で自走される利用者様がご自分でベッドへ移動される際、車椅子のブレーキがかかっていなかったために転倒しそうになった。

【対策】

これは介護現場でよく見られるヒヤリハットの事例です。
この場合、利用者様に立つ際はブレーキを忘れないようにお声かけするか、それが難しい場合は立ち上がると自動でブレーキがかかる車椅子もあるので、そういった車椅子の変更も検討してみましょう。

介護現場のヒヤリハット事例3【転倒・転落】

【事例】オムツ交換後にベッド柵を付け忘れており……

いつものようにオムツ交換をして退室し、その後利用者様の様子を見に行くと、利用者様の足がベッドから落ちており転落しそうになっていた。

【対策】

ベッドからの転落も、介護現場ではよく見られる事故の一つです。
その原因として、転落防止のベッド柵を付け忘れるといった介護側のミスが挙げられます。
忙しくてつい急いでしまうといった、人員不足の介護現場で多くあるヒヤリハットです。

ちなみにベッド柵を使用する場合は、利用者様の行動を制限しないよう身体拘束への配慮が必要になります。

【関連動画】介護施設で高齢者の転倒リスクを抑えたい!だけどこんな場合はどうしたらよい?

介護現場のヒヤリハット事例4【誤嚥】

【事例】家族が持ってきたみかんを詰まらせて……

ご家族の方が面会に来られたが、利用者様の嚥下状態を十分に理解していなかったため、みかんを食べさせてしまい誤嚥し激しく咳き込んでいた。

【対策】

面会中はお部屋で過ごされることが多く、職員の目が届きにくい状況です。
そんなときにご家族の方が差し入れを提供し、詰まりそうになるといったヒヤリハットは起きやすくなります。
普段から来られるご家族であれば、利用者様の状態をこまめに共有したり、面会時に差し入れがある場合は、必ず職員に申し出ていただくよう説明しておきましょう。

介護現場のヒヤリハット事例5【誤嚥】

【事例】他の利用者さんが教えてくれて……

いつものようにダイニングで利用者様が食事をしていると、「あの人苦しそうだけど大丈夫?!」と利用者様から言われ、指差す方向を確認すると、他の利用者様が顔を真っ青にして咳き込んでいた。

【対策】

食事中は、誤嚥や窒息が最も起こりやすい時間帯になります。
普段は普通に食べている利用者様でも、いつ詰まらせてしまうか分からない状況です。
しっかりされているから大丈夫と過信せず、常に誤嚥や窒息のリスクを考え食事の見守りをしていきましょう。

介護現場のヒヤリハット事例6【誤嚥】

【事例】入れ歯の確認を怠ったため……

いつも通り食事を提供したが、入れ歯をしていることを確認せず食べ始めてしまった。
気付いた職員が慌てて食事を中止し、口腔内を確認後に入れ歯を装着してもらった。

【対策】

食事前の入れ歯確認は必ず行いましょう。
特に認知症高齢者の場合だと、ポケットに入れていたりティッシュに包んで保管するなどして、思わぬ場所から出てきたりします。
どうしても毎回入れ歯を探さないといけない場合は、食事以外は入れ歯を外していただき職員で管理させていただくなどの対策も必要になってきます。

誤嚥など食事中の事故は、命の危険に大きく関わります。
そのため、食事中は利用者様の状態をこまめに確認し、急変などがないか注意深く観察していきましょう。

食事前後のチェックリスト
  • 口腔体操はしましたか?
  • 入れ歯を忘れていませんか?
  • 食事前のお薬は内服しましたか?
  • トロミは付けましたか?
  • しっかりと覚醒されていますか?
  • まずは水分で口の中を潤しましたか?
  • 食べるときの姿勢は正しいですか?
  • 食事中にむせていませんか?
  • 口の中に溜め込んでいませんか?
  • 食後の口腔ケアはしましたか?

こういったチェックを日頃から意識づけて、食事中の事故を未然に防いでいきましょう。

介護現場のヒヤリハット事例7【入浴】

【事例】思った以上に滑りやすくて……

シャンプーをし終わった利用者様が浴槽に浸かるため立ち上がった際に、床が滑りやすい状態だったために転倒しそうになった。

【対策】

浴室内は非常に危険です。
床が濡れているだけでも滑りやすいですが、シャンプーなどが付いているとさらに滑りやすくなり、転倒のリスクが上がります。
浴室内ではいつも以上に利用者様の転倒に注意して介助しましょう。

介護現場のヒヤリハット事例8【入浴】

【事例】お湯の温度を確認せずにいきなりかけてしまい……

スタッフが利用者様にシャワーをかける際、お湯の温度を自分で確かめずいきなり背中にかけてしまい利用者様から「熱い!」と言われる。
確認すると高温になっていた。

【対策】

シャワーの温度は、必ず職員が自分の手で確認してから利用者様にかけるようにしましょう。
始めは心臓から遠い足元からお湯をかけながら、徐々に体全体を温めていくことが大切です。

介護現場のヒヤリハット事例9【入浴】

【事例】髭剃り中に利用者様が動いてしまい……

T字剃刀で髭剃りの介助をしていると、利用者様が急に動いて剃刀が横に向いてたため、顔を傷つけそうになった。

【対策】

男性の利用者様だと、入浴中に髭剃りをしてほしいという方もいます。
剃刀の場合だと急に動いて怪我をする危険があるので、顔に手を添えて介助するなどの配慮が必要です。
どうしても難しい場合は、電動シェーバーを使うなど別の方法を検討してみましょう。

介護現場のヒヤリハット事例10【トイレ】

【事例】少し目を離した隙に立ち上がり……

トイレに座っていただいていると、他の利用者様から呼ばれたため少しその場を離れた。
その後戻ってくると、ご自分で立ち上がり、片手で必死にズボンを挙げながらふらついていた。

【対策】

トイレ介助時はできるだけ離れないようにしましょう。
特にご自分で立つことが難しい利用者様で、動かれてしまい転倒するリスクがある場合は、すぐに対応できる場所で見守りをする必要があります。

介護現場のヒヤリハット事例11【トイレ】

【事例】トイレのドアに手が挟まりそうになる……

トイレ介助が終わりドアを閉めようとした際に、利用者様が後ろに手を伸ばしてることに気付かず、ドアの間に指が挟まりそうになった。

【対策】

トイレ介助は1日に何度もするため気持ち的に慣れが生じやすくなります。
そのため、身の回りの危険に気付きにくい傾向にあります。
トイレに限らず、ドアを閉める際は利用者様がそばにいないかなど安全を確認してから行うようにしましょう。

介護現場のヒヤリハット事例12【トイレ】

【事例】急な膝折れに対応できず……

排泄が終わりズボンを上げるため、手すりを持って立っていただいていたら、急に膝が折れて転落しそうになった。

【対策】

普段は問題なく立っている利用者様でも、その日の体調や体力の低下により、立位が不安定になっていきます。
この人は元気だから大丈夫だろうと過信せず、日頃からの観察や情報共有をすることで、事故を未然に防いでいきましょう。

介護現場のヒヤリハット事例13【利用者同士のトラブル】

【事例】良かれと思って手伝ってるけど……

車椅子を自走される利用者様を、自力で歩ける他の利用者様が後ろから押して手伝っていた。

【対策】

これは本当によくある事例で、事故につながる可能性が高いです。
特に認知症の方の場合、一度注意をしてもすぐに忘れてしまい、また同じことを繰り返してしまいます。
車椅子だけでなく食事介助なども同様の事例が見られます。
どうしても続けてしまう場合は、職員が付き添ったり見守りを徹底していきましょう。

介護現場のヒヤリハット事例14【利用者同士のトラブル】

【事例】廊下で口論になり……

廊下から大きな声で怒鳴り合ってる声が聞こえたため確認すると、利用者様同士で口論になっており、1人は相手を叩こうとしていた。

【対策】

施設で働く場合は、利用者同士のトラブルも頭に入れておく必要があります。
認知症の利用者様同士だと話が噛み合わず、誤解が生じてトラブルにつながりやすくなります。
職員が仲介役になったり、お互いの距離を取るなどの配慮が必要になってきます。

介護現場のヒヤリハット事例15【利用者同士のトラブル】

【事例】他の人の部屋に入ってしまい……

ある利用者様から携帯電話がなくなったと申し出があった。
所在を確認するために電話すると、他の利用者様の部屋から音が聞こえた。
確認するとベッドマットの下に携帯電話を隠しているような置き方だった。
その部屋の利用者様は収集癖があり、よく施設の共有物をお部屋に持ち帰っていた。

【対策】

認知症の方が他の人の部屋に無断で入るといった事例は、介護現場ではよくあります。
意図的に入って物を持って行くわけではないので、ご自分で鍵の管理ができる方には鍵を渡したり、ご自分の部屋が分かるような目印を掲示するなどの配慮が必要になります。

介護現場のヒヤリハット事例16【服薬】

【事例】薬を飲んでいると思ったのに……

食事が済んでいたので、薬も飲んだものだと勘違いして、そのまま食後の介助をしてお部屋で休んでいただいた。
その後、看護師から薬が残っていると指摘され薬の飲み忘れに気が付く。

【対策】

介護現場で特に注意したいのが薬の事故です。
特に持病がある方は、薬の飲み忘れや飲み間違いが、命に関わる重大な事故になりかねません。
薬に関しては、職員同士で何度も確認して間違いや飲み忘れがないように注意していきましょう。

介護現場のヒヤリハット事例17【服薬】

【事例】見た目は同じだけどよく見ると……

朝食後薬を提供しようと薬箱を確認すると、朝食後ではなく昼食後の表記になっていることに気が付く。
看護師のセット間違いだったため、報告し正しいものに変えてもらう。

【対策】

先ほどもお伝えしましたが、薬は何度も確認することで事故を防ぐことができます。
日付、名前、時間、薬の種類など服薬介助のたびに声に出して確認しましょう。
看護師がセットする際にチェックしていますが、それでも絶対大丈夫とは言えません。看護師が確認、介護職が確認、利用者と確認、最低でもトリプルチェックはしておきましょう。

介護現場のヒヤリハット事例18【外出時】

【事例】下り坂での車椅子移動で……

下り坂の場合、車椅子は後ろ向きで移動介助するが、緩やかだから大丈夫だろうと思い、前向きで車椅子を押していた。すると車椅子が前側に傾き、利用者様が転落しそうになった。

【対策】

たとえわずかな下り坂でも、車椅子は後ろ向きで介助して移動しましょう。
特に外出の場合は、道がでこぼこで車椅子が不安定になりやすい状況です。
当たり前ですが、改めて基本に忠実に介助していきましょう。

介護現場のヒヤリハット事例19【外出時】

【事例】久しぶりの外出で体力を保たずに……

普段は施設内でしっかり歩かれている利用者様が、外出時に道端で急に座り込んでしまい歩けなくなってしまった。
歩き慣れてない外を歩いたために疲労が溜まり、再び歩こうとしても前のめりになり、足が前に出ない状態だった。

【対策】

普段は歩けている利用者様でも、外出時は転倒のリスクが高まります。
外出前の体調チェックはもちろんですが、念の為予備の車椅子を準備しておくなど、利用者様が負担になりすぎないように配慮しましょう。

介護現場のヒヤリハット事例20【家族】

【事例】小さなクレームを甘く見ていたため……

ご家族の小さなクレームをすぐに対応せず放置してしてしまったため、徐々に大きなクレームとなり訴訟寸前のところまで発展した。

【対策】

ご家族からクレームがあった場合は、その場ですぐに謝罪し上司に報告しましょう。そこから苦情対応など専門の窓口に移行していきます。
それにより苦情が適切に処理されていき、大きなクレームに繋がりにくくなるでしょう。
利用者様はもちろんですが、ご家族へも迅速に対応することが大切です。

介護現場のヒヤリハット事例【番外編】

最後に番外編として、「誰にも言えないヒヤリハット」と題してアンケートを取ったので、そちらの回答結果をご紹介します。

誰にも言えないヒヤリハット集
  • 義歯を違う入居者が持っていた
  • 足の爪を切るときに身を切ってしまった
  • オムツの中から入れ歯が出てきた
  • ハサミを使って弾性ストッキングを切って脱いでいた
  • 男性利用者さんがキッチンバサミで鼻毛を切ろうとしていた
  • 電動ベッドのリモコンで上下移動をしながら楽しまれていた
  • テレビでデヴィ夫人が体を張っている姿を見て、床にマットを敷いて同じように飛び込んでいた(笑)
  • 夜勤でオムツ交換に行くと、横になった男性利用者さんの上にリハパンを脱いだ女性利用者さんがまたがっていた…(苦笑)

さすがにデヴィ夫人の真似をするとは予想つきませんよね(笑)

奇想天外な行動をするユニークな利用者さんが多くてびっくりしました。

皆さんの施設では、どういったユニークなヒヤリハットがありますか?

ヒヤリハットが起きる原因

ヒヤリハットが起きる原因は、さまざまな観点から見ることができます。
ここでは3つの観点から解説していきます。

介護職に原因がある場合

まずは介護職の観点から考えてみましょう。
私たち介護職は、日々色々な業務に追われています。
その中で利用者様の対応、同僚や上司との人間関係の構築など、さまざまなことに気を配らなくてはいけません。

さらに、残業や夜勤など長時間労働が続くと、疲労やストレスが蓄積されて集中力が低下し、事故につながるミスをする危険性が高まります。

介護職一人一人が自己管理をすることはもちろん必要ですが、それ以上に組織全体で職員の負担軽減や働きやすい環境づくりなど、具体的な取り組みをしていくことが重要です。

施設側に原因がある場合

続いて介護が実際に行われる施設側、すなわち環境面に原因がある場合です。
例えば、施設の構造や福祉用具などの不備がヒヤリハットに該当し、事故のリスクを高める恐れがあります。

実際に、元々会社の寮だった建物を介護施設として再利用した例があり、バリアフリーなどが不十分だったために、事故のリスクとなる多くの環境的要因を残す結果となりました。

施設側の原因は職員の意識だけでは改善しない場合が多いので、上司や管理職に相談しながら施設全体で情報を共有していきましょう。

利用者に原因がある場合

ヒヤリハットが起きる原因として、利用者様個人の状態も大きく関係しています。
例えば、認知症であれば平衡感覚(体のバランスを保とうとする力)が正常に保てない可能性が高く、転倒や転落事故に繋がりやすい状態と言えます。

また、ADLの低下や体調不良などもヒヤリハットの原因になります。

利用者様の原因は、日頃からの状態観察その他にも、利用者様が服用してる薬も原因となる場合があります。
例えば、眠前薬が身体に合ってないために、起床時のふらつきが強くなり転倒するといったケースです。

職員間の情報共有が非常に大切です。
小さな変化でも気づいたら、積極的に申し送りをして情報を共有していきましょう。

ヒヤリハット・事故報告書の書き方【具体例あり】

ヒヤリハットの大切さは分かっても、実際の現場で生かせないと宝の持ち腐れです。
ここでは、ヒヤリハット・事故報告書の書き方を具体例を入れながら、書く目的も合わせて解説していきます。

ヒヤリハット・事故報告書を書く目的

ヒヤリハット・事故報告書はただ報告することだけが目的ではありません。

ヒヤリハット・事故報告書は記録に残るだけでなく、以下のような効果も期待できます。

  • 利用者様の安全と事故防止につながる
  • 介護職の適切な援助方法を証明してくれる
  • 多職種連携のための貴重な情報源となる

ヒヤリハット・事故報告書は、利用者様の安心して生活できる環境づくりはもちろん、介護職の適切な援助方法のヒントになるなど、多くの効果をもたらしてくれます。

ヒヤリハットや事故が発生すると、その時の状況や対応方法をカンファレンスで話し合います。
そこで看護師などを含めた多職種で、最適な援助方針を導き出していきます。

ヒヤリハット・事故報告書は利用者様の安全な生活と、さらなる快適空間を提供するために欠かせないことを知っておきましょう。

ヒヤリハット報告書の書き方

ヒヤリハット報告書は「5W1H」で事実をありのままに書きましょう。

  • いつ(When)
  • どこで(Where)
  • 誰が(Who)
  • 何を(What)
  • なぜ・どうして(Why)
  • どのように対策するか(How)

よくあるのが、介護士側の主観や感想が入ってしまうケースです。
あくまでも報告書であることを頭に入れて、客観的事実を書くようにしましょう。

【関連動画】介護現場で事故が起きたら―事故報告書を書く人や書き方を解説

ヒヤリハット報告書の注意点・コツ

続いて、ヒヤリハット報告書の注意点と書き方のコツを解説します。

簡潔に分かりやすく書く

まず一つ目が「簡潔に分かりやすく書く
先ほどお伝えしておいた、5W1Hを意識して簡潔に分かりやすく書きましょう。

記入例としては

  1. 朝6時ごろ(When:いつ)
  2. A様が(Who:誰が)
  3. トイレに向かう入り口付近で(Where:どこで)
  4. ふらついていたため(Why:なぜ)
  5. 段差に引っかかり転倒しそうになった(How:どうした)

書きにくいと感じる場合は、一つ一つ区切ってもいいので、箇条書きで書いてみるといいかもしれません。

客観的事実のみを書く

二つ目は「客観的事実のみを書く」

例えば「ベッドからずり落ちそうになっていた」「車椅子のブレーキを止めずに立ち上がっていた」といったように、まずは自分が見たままの状況を書きましょう。

その中で、推測を入れる場合は「ベッドからご自分で起きてトイレに行こうとして転倒したと思われる」のように、推測であることが分かるようにしましょう。

誰が見ても分かるような言葉で書く

三つ目は「誰が見ても分かるような言葉で書く」

ヒヤリハットは職員だけでなく、利用者様やご家族の方が見る可能性もあります。
そのため難しい専門用語は避けて、分かりやすい言葉に置き換える必要があります。

例えば、「臥床する」だと普通の人は分からないので、「ベッドに横になっていただく」といったふうに、介護のことを知らない人が見ても分かるような内容に変換しましょう。

また、ご家族の方が見られることもあるため、ヒヤリハットに限らず、介護現場での報告書は、丁寧な言葉遣いを心がけましょう。

それでは、実際のヒヤリハット記入例を紹介していきます。

ヒヤリハット報告書の事例①

こちらは、転倒リスクの高い利用者様が、ご自分でトイレに行かれようとして転倒しそうになっているところを発見した状況です。

このヒヤリハットによって、この方のトイレの時間を見直すなど、適切な援助方法を証明するきっかけになります。

ヒヤリハット報告書の事例②

こちらは服薬介助に関するヒヤリハット報告書です。
介護施設では、薬の飲み忘れはよくある事例になります。

このヒヤリハットによって、服薬時の確認の徹底を、改めて職員全体で共有できるので、ミスを責めるのではなく、職員間で指摘し合える環境づくりをしていきましょう。

ヒヤリハット報告書の事例③

3つ目は、利用者様同士のトラブルに関する事例です。

施設では共同生活ということもあり、どうしても利用者様同士の関係がうまく行かない時があります。
そんな時は、無理に仲良くさせようとするのではなく、距離を取るなどの配慮も必要になってきます。

また認知症の方だと、コミュニケーションが上手く取れない場合があるので、職員が仲介役として会話の架け橋になってさしあげましょう。

ヒヤリハットとは?まとめ

今回は、介護現場でのヒヤリハットの活用方法と実際の事例、ヒヤリハットを通じて事故を減らすリスクマネジメントについて解説してきました。

ヒヤリハットを一つで多く発見し情報共有することが、利用者様の事故を未然に防ぐことにつながることはハインリッヒの法則からも明らかです。

また日頃からヒヤリハット報告書を作成することで、施設として適切にリスクマネジメントに取り組んでる証拠になり、そこで働く職員一人一人を守ってくれるメリットもあります。

ヒヤリハットを報告することは面倒だと感じる場合もあるでしょう。
しかし、リスクマネジメントにおいてヒヤリハットは、大変重要な役割を持っています。
そして、利用者様の安心と安全を確保した生活を提供することは、私たち介護職の大切な努めです。

職員一人一人がヒヤリハットへの意識を高めて、日頃から積極的に報告し合えるよう、情報共有を密に行っていきましょう!

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