円背の方のポジショニング方法 背中が曲がった方の介助術

介助術・介助方法
2023/01/12

円背の方に最適なポジショニング方法が分からない……」と、お困りではありませんか?

ここでは、円背の方の適切なポジショニングの仕方や注意点や、場面ごとのクッションのおすすめ方法について詳しく解説します。

この記事を最後まで読み終えていただければ、円背の方の褥瘡予防に役立てることができます。

円背の方のポジショニング方法を知りたいという方は、ぜひ参考にしてみてください。

円背とは

円背とは、胸椎が前に倒れることで背中が丸くなり、前傾姿勢になっている状態をさします。
視界を保つために、顔を上に上げるため、顎が突き出ています。

元々、人間の胸椎は前に倒れており、ゆるやかなS字のカーブを描いた形で体のバランスを保っています。

そのため、胸椎は前に倒れやすく、後ろに倒れやすい性質があり、さまざまな要因によって円背になりやすいのです。

円背の原因は

高齢者の円背の原因は、加齢に伴う体の衰えによるものです。

  • 筋力低下:脊柱のまわりの腹筋や背筋が衰えてくると、支えられなくなった胸椎が前に倒れてしまう
  • 圧迫骨折:背骨の圧迫骨折によって、前側に向かって背骨が潰れたまま固まってしまう。背骨が前側にカーブし、圧迫骨折を繰り返すうちに円背が進行していく
  • 骨の摩耗や変形:加齢に伴い、長年体重を支えていた背骨がすり減ったり、変形してしまう
  • 長年の不良姿勢:長年にわたって、不良姿勢(下を向く姿勢)を続けることによって、猫背になりやすい。脊柱が固まったり、筋力の低下が加わることで円背に進行する

特に女性は閉経後の骨粗鬆症リスクが高く、圧迫骨折を繰り返して円背が進行してしまうケースが多いとされています。

円背と亀背の違いは

円背亀背は、共に背中が丸まる前傾姿勢になり、大きな違いはないとされています。
ただし、厳密は全く同じものではありません。

  • 円背:胸椎が前に倒れて背中が丸くなった前傾姿勢。多くは加齢に伴って起こる
  • 亀背:胸椎が後ろに倒れて背中が丸くなった前傾姿勢。脊椎カリエスによって起こる

そのため、介護の現場では、円背とするのが適切といえます。

円背の姿勢になると起きること

円背の姿勢になると、日常生活に様々な支障が生じます。

  • 身体の重心が変化するので、バランスを保つ能力が低下する。全身の筋肉の衰えにつながり、姿勢を保つ力がより低下する
  • 胸や肋骨が固まってしまうため、充分な酸素を取り込みにくくなり、息苦しさを感じる
  • 円背が進行すると、背骨が丸くなり続け、重みに耐えきれなくなる。背骨が潰れやすく、圧迫骨折のリスクが上がる
  • 顎を突き出した姿勢での食事となるため、飲み込みにくく、誤嚥のリスクが上がる

円背が次第に悪化していくことで、要介護状態につながるおそれがあります。

そのため、介助者は円背の予防・改善や、安全・安楽に配慮した援助が大切です。

円背の方のポジショニング 注意点は

円背の方は、筋力や骨の強度が低下しているので、適切なポジショニングを行う必要があります。
誤ったポジショニングを行うと、褥瘡や転落・ずり落ち、円背の進行といったさまざまなリスクが上がります。
そこで、安全なポジショニングを行う注意点について、詳しく解説していきます。

円背の方は褥瘡を起こしていることが多い

円背の方は自由に身体を動かすのが難しいので、血行が滞りやすく、褥瘡を起こすリスクが高まります。
円背の方が褥瘡を起こしやすい理由は、次の通りです。

  • 自力で寝返りを打つのが難しいので、長時間同じ姿勢を取り続けるため
  • 丸まった背骨が突き出ており、座位や仰臥位で体重による圧がかかりやすいため
  • 正しい姿勢をとるのが難しいため、座位では仙骨座りになって、尾骨に圧がかかりやすいため

円背の方のポジショニングでは、褥瘡が起こらないように、除圧や体位変換が必要です。
特に、突出している背骨に沿って、皮膚の発赤や褥瘡が起こりやすいです。

また、褥瘡を起こしやすい関節や骨が突出している部分も注意深く観察し、褥瘡の兆候の有無を確認しましょう。

円背の方は筋力も低下

適切なポジショニングでないと、筋肉が緊張した姿勢になってしまい、全身の筋肉を使う機会が奪われてしまいます。
筋力の低下は、脊柱を支えられずに円背が進行していく原因です。

通常、人間の身体を支えているのは、筋肉や腱、靭帯。
筋力が保たれていることで、正しい姿勢を維持できています。

しかし、円背の方は、加齢に伴う筋力の低下を起こし、うまく身体を支えられません。
また、円背の姿勢は、全身の筋肉を適切に使いにくいため、加齢も相まって筋力がどんどん低下していきます。

円背の方が、無理な姿勢で筋緊張を強いられない、安楽なポジショニングを心掛けましょう。

円背の方は転落・ずり落ちに注意

円背の方は前傾姿勢で、顎を突き上げた姿勢なので、前後の体重移動がうまくできず、前方や後方へバランスを崩しやすくなっています。
そのため、ベッドから起き上がる際や、横になる際にバランスを崩して、ベッドから転落してしまう可能性があります。

ベッド上での介助で気を付けたいポイントは次の通りです。

  • 体重移動を伴う動作では、ベッド柵や手すりに掴まるように声をかけて促す
  • 介助者の手を要介助者のわきの下に入れ、もう片方の手は腰に手を添えて、バランスを崩さないように支える

介助者はベッドからの転落予防に配慮した立ち位置を心がけつつ、自身で行えることは積極的に行ってもらい、筋力の低下を防ぎましょう。

また、椅子や車椅子の座面に浅く腰掛けていた場合、前側に重心がかかっているため、ずり落ちてしまう可能性があります。

  • 椅子や車椅子には深く腰掛け、背もたれと腰の隙間部分にクッションやタオルを入れる
  • 車椅子の場合はフットレスト、椅子の場合は床か足置き台に足を接地させる

バランスを崩しにくいポジショニングによって、椅子や車椅子からのずり落ちを予防しましょう。

円背の方の寝る姿勢・食べる姿勢についての注意ポイントはこちらの記事もご覧ください。

▼参考記事

円背の方にはクッションがおすすめ

円背の方は自力で正しい姿勢をとるのが難しく、バランスを崩すことで、転落やずり落ちを起こします。
そのため、円背の方がバランスを保つためには、クッションの利用がおすすめです。
そこで、場面ごとにおすすめのクッションの利用方法について、詳しく解説していきます。

車椅子での移動時のクッション利用

円背のある方は、大きく曲がった背中が背もたれに当たってしまい、車椅子に深く座ることができません。
車椅子に浅く座った状態では、腰回りの筋肉に余計な負担がかかることで、筋肉がこわばって、円背の進行につながります。

また、安定した姿勢を保てずにずり落ちるリスクがあります。
そのため、背もたれにできた隙間にクッションやたたんだタオルを入れて、腰部分を支えましょう。

背中や腰回りにかかる負担を減らすことができます。

円背の方の床から車椅子、ベッドから車椅子への移乗についてはこちらの動画も参考にしてみてください。

ベッドでのクッション利用

円背の方は丸まった背中によって、ベッド上で仰臥位の姿勢をとるのが難しくなります。
また、骨盤が後ろ側に傾いているので、仰臥位の姿勢では股関節や膝をまっすぐに伸ばせません。
そのため、股関節と膝関節は良肢位に曲げる必要があります。

ベッドでクッションを利用する際のポイントは、次の通りです。

  • 前に突きだした首を支えるために、枕にタオルを重ねて高さを調整する
  • 肩が浮いて身体が緊張した状態になるようであれば、両肩にそれぞれクッションを入れて腕全体を支える
  • 大きなクッションに足全体を乗せて、踵に圧がかからないようにする

ベッド上で安楽な姿勢がとれるようにクッションで調整しながら、褥瘡が起こらないように配慮しましょう。

側臥位の時のクッション利用

背中が丸まって、骨盤が後ろに傾いている円背の方にとって、側臥位は安定感が得られる体位です。
そこで、背中の緊張が和らぎ、呼吸がしやすい体位となるようにクッションで調整しましょう。

  • 首の後ろ側に隙間が空かないように、枕を当てる
  • 腕の高さが肩よりやや低くなる程度の高さのクッションを使い、上側になっている腕全体を支える
  • 股関節は90度、膝は軽く曲げ、両足の間にクッションを挟みこむ
  • 足先もタオルや小さいクッションを入れて、足全体がクッションで支えられているようにする

ただし、側臥位は骨の突出部分がベッドに当たりやすく、褥瘡ができやすい体位です。
側臥位から他の姿勢に体位変換する際、肩や大転子部など、褥瘡ができやすい部分に赤みや痛みがないか観察しましょう。

円背の方のNG行為

円背の方に誤った介助を行うことで、身体に負担がかかり、ADLの低下や介護度を上げる要因となります。
そこで、円背の方のポジショニングや歩行時のNG行為について詳しく説明していきます。

介助ベッドのポジショニングのNG行為

ギャッチアップ後は、背中とマットレスの間に介助者の手を差し入れて、肩から腰に向かって少しずつずらす「圧抜き」を行いましょう。
ベッドのギャッチアップをする際、円背の方は後ろ側に突き出した背骨がマットレスに沈み込み、皮膚がひっぱられてしまうため、褥瘡ができやすくなります。

特に、褥瘡予防のために除圧効果の高いマットレスは、背骨の沈み込みが大きくなりがちです。
除圧効果の高いマットレスを使っている場合、特に圧抜きを意識して行うようにしてください。

また、介助ベッドのギャッチアップは30度以上は上げないようにしましょう。
30度以上ギャッチアップすると、適切に圧抜きを行っても、腰への負担が大きくなってしまいます。
腰痛を抱えている円背の方は多いので、腰痛を悪化させる原因につながります。
脊椎への負担も大きく、骨粗鬆症の肩では圧迫骨折を起こす可能性があるので、注意が必要です。

椅子・車椅子でのポジショニングのNG行為

座面が深い椅子や車椅子に、浅く腰かけたポジショニングは避けましょう。

首を前に突き出し、骨盤の後ろ側にあたる仙骨部後面に体重をかけた仙骨座りになってしまいます。
仙骨すわりは、尾骨周辺に体重がかかって褥瘡が発生しやすくなる原因です。

特に円背の方は、丸まった背中に体重をかけることで、背もたれに圧迫された背骨に褥瘡ができやすくなります。
背中の筋緊張や、腰への負担が大きく、圧迫骨折を起こす可能性もあります。

さらに、筋力が低下して、姿勢を維持するのが難しい円背の方は、椅子や車椅子からずり落ちてしまうかもしれません。
円背の方は、適切な座面の大きさの椅子や車椅子に深く座ってもらいましょう。

歩行の時のNG行為

円背の方が歩行する際に、顔が下向きになる姿勢は避けましょう。
円背の方は顔が下向きになりがちですが、視界が狭まり、前が見えなくなってしまいます。
室内の家具や障害物の存在に気付けず、ぶつかってしまう場合があります。

また、前後の体重移動がうまくできないので、前後へのバランスを崩して転倒してしまうリスクが高いです。
歩行を急かさず、ゆっくり歩いて大丈夫であることを伝えましょう。

まとめ

円背の方は、前後の体重移動や身体のバランスの維持が難しかったり、筋力の低下が起きています。
歩行時の転倒、ベッドや車椅子、椅子からの転落・ずり落ちのリスクも高いので、注意しましょう。

また、適切なポジショニングが行われないことで、褥瘡が起こりやすくなっています。
褥瘡を予防するためには、骨の突出している部分に圧がかからない姿勢を心がけ、場面に応じたクッションの利用がおすすめです。

円背の方が安全でリラックスして過ごせる環境づくりとして、介助者は適切なポジショニングを意識しましょう。

おすすめ役立ち情報

役立ち情報一覧に戻る

ピックアップ