ボディメカニクスは古いのか?介護職を守り利用者様を活かす新たなケアを紹介
介護の現場において重要なボディメカニクスですが、現在は古い手法と言われており新たなケアが取り入れられつつあります。
しかしながら、ボディメカニクスは介護理論の基本となる考えで、しっかりと理解しておくことが重要です。
本記事では、ボディメカニクスの理論をあらためて確認し、その上で新たに取り入れられているケアの手法を紹介していきます。
ボディメカニクスとは?
ボディメカニクスは、移乗介助などの際に基本となる考えで、以下のような効果があります。
- 介護職の腰痛予防
- 利用者様の負担軽減
- 利用者様の身体機能の活用
介護職と利用者様の双方に効果があり、長年介護技術の土台として活用されています。
また、ボディメカニクスを活用する際は、以下の8原則を理解することが大切です。
- 支持基底面を広くする
- 重心を低くする
- 利用者様にできるだけ近づく
- てこの原理を活用する
- 足腰などの大きな筋肉を使う
- 身体を捻らない
- 水平に移動する
- 利用者様の身体をコンパクトにする
以上のことを意識し実践することで、利用者様が負担なく介護を受けられ、介護職の負担も軽減できます。
1分で登録OK
ケアきょう求人・転職の無料相談ボディメカニクスはもう古い?その理由は?
冒頭でお伝えしたように、ボディメカニクスが古いと言われている理由について触れていきます。
主な理由は、以下の3つです。
- 介助の対象をモノとして捉えている
- 人間の力には限界がある
- 違った視点で捉えた介助の方法がある
それでは一つずつ解説していきます。
介助の対象をモノとして捉えている
まず一つ目の理由が、ボディメカニクスは介助の対象をモノとして捉えているからです。
なぜなら、前述の8原則からも分かるように、てこの原理を利用したり利用者様の身体をコンパクトにしたりといった考えが、一見介助の対象をモノとして捉えている部分があります。
ボディメカニクスの考えが悪いわけではありませんが、介助は本来、利用者様の能力を活かしながら動いていただくという自立支援が基本です。
ボディメカニクスが古いと言われるのは、この自立支援に反しているのではという考えも関係しているでしょう。
人間の力には限界がある
2つ目の理由として、ボディメカニクスは基本的に人間の力で介助を行うことが前提だからです。
しかし人間の力には限界があり、すべてを自分の力で行おうとすることで身体を壊してしまう可能性があります。
最近はAIや介護ロボットを実際に導入している施設も出てきており、最近では自動運転の車椅子を取り扱う実験も進んでいます。
参考:PR TIMES「国内初、自動運転ロボット車椅子「PathFynder」取り扱いを開始」
介護の現場に対して積極的にテクノロジーを取り入れることで、ボディメカニクスでは不可能な介護職の負担がゼロになる介助も可能になるでしょう。
違った視点で捉えた介助方法がある
先述でも解説したとおり、ボディメカニクスは介助の対象をモノとして捉えるのが特徴です。
要するに、介護職が利用者様をどう移乗すれば、お互いに負担なく動けるかという視点で介助方法を考えています。
しかしボディメカニクスの視点は介護職側の目線だけで、利用者様がどう動くべきかという利用者様目線の視点が欠けていると言えるでしょう。
次の項ではボディメカニクスとは違った視点で、介助を捉える考え方について触れていきます。
ボディメカニクスではなくキネステティクス?
ボディメカニクスではなく「キネステティクス」という言葉を知っていますか?
ここからはキネステティクスという考え方を解説しながら、ボディメカニクスとの違いやキネステティクの活用例、メリットなどを紹介していきます。
介護の現場でも活かせる内容なので、ぜひご覧ください。
キネステティクスとは?
キネステティクスの創始者マイエッタ・ハッチ社による日本で唯一の認定機関であるキネステティクス・ジャパンによると、以下のように定義されています。
キネステティクスとは、行動サイバネティクス博士であるレニー・マイエッタ博士とフランク・ハッチ博士によって創始された、動きの学問と言われています。
キネステティクスに基づくケアや介助は「相手を抱えたり、持ち上げたりしない」ことが特徴です。
日本には2000年以降に入ってきた、比較的新しい学問です。
またキネステティクスには、以下6つの概念があります。
- インタラクショ(人と人、または環境と影響しあう)
- 機能からみた解剖(身体をパーツではなく機能で分ける)
- 人の動き(より楽に動けるパターンを見つける)
- 力(力の量だけでなく質も理解する)
- 人の機能(人の動きの可能性を考える)
- 環境(環境による動きの違いを考える)
これらの概念を理解することで、介護職のスキルアップと利用者様の健康的な動きにつながります。
ボディメカニクスとキネステティクスの違いは?
ボディメカニクスは利用者様を利用者様を物体のように捉え、できるだけ少ない力で身体を動かすテクニックです。
腰痛予防という介護職の負担軽減というイメージも強いでしょう。
それに対してキネステティクスは介護職と利用者様、お互いの動きの感覚を身体に触れることで感じ、双方の動きに同調を生むことを目指しています。
そして2つの考え方で決定的に違うのは、ボディメカニクスは利用者様に対する一方的な支援であり、利用者様の機能や健康の維持につながらないことです。
動かす介助ではなく引き出す介助
介護職が利用者様に対して、物のように動かそうとすると、本来動くものも動けなくなります。
ボディメカニクスをはじめとした従来の介助方法は、いかに楽に移乗するかという考えでした。
利用者様の身体をコンパクトに折りたたみ運ぶことで、介護職の腰への負担を減らす方法です。
キネステティクスは、動きを通じて利用者様とコミュニケーションを取ります。
利用者様の反応を感じながら動きを引き出し、本人が自ら動けるようにサポートする介助方法です。
キネステティクスの活用例
キネステティクスは人の動きの学問で、ヨーロッパの看護や介護の現場で40年以上活用されてきました。
体に負担をかけず楽に動くことができるかを行動の中で見つけていきます。
例えば、横になっている利用者様の服を着替えさせる際に足を持ち上げる場合、ひざを伸ばしたままより曲げて足の重さを骨盤に集める方が、介護職も利用者様も楽に足を持ち上げられます。
キネステティクスでは人間の動きを深く理解し、利用者様の動きに沿った適切な介助を行うことが大切です。
適切なケアは利用者様のQOL向上につながるので、積極的に介護現場に取り入れることをおすすめします。
キネステティクスのメリットとは?
キネステティクスの効果は、介護職も利用者様も少ない力で楽に動けることです。
利用者様は、老化による身体機能の低下や障害による動きの制限などが、介護が必要な原因です。
こういった場合は身体を鍛えるのではなく、楽に身体を動かす方法を学ぶことで少ない力で動けるようになります。
高齢だからしょうがないではなく、身体の使い方を学ぶことで日常生活を楽にしたり、できなかったことを可能にしたりしてくれます。
キネステティクスを実践する際の注意点は?
キネステティクスを実践する際は、以下3つの注意点を理解しましょう。
- ボディメカニクスの理解が必須
- コミュニケーションが最重要
- 寝たきりの方に対しては実践が困難
それぞれ重要なポイントを解説するので、ぜひご覧ください。
ボディメカニクスの理解は必須
ボディメカニクスは利用者様を介助して動かすという考えに対して、キネステティクスは利用者様が楽に動けるための介助をするという考えで、利用者様への関わり方が若干異なります。
しかしボディメカニクスで重要な支持基底面の広さや重心の低さ、利用者様にできるだけ近づくなどの原則は、キネステティクスを実践する際にも必要です。
ボディメカニクスにおける介護職の身体の使い方を軸に、キネステティクスにおける利用者様への関わり方を実践することで、よりお互いの負担を減らした介助ができるでしょう。
コミュニケーションが最重要
キネステティクスの「動きはコミュニケーション」であるということを基本的な考えとしています。
つまり動きは言葉であり、介護職と利用者様はお互いの動きを通じて、無理のない自然な動きを習得していきます。
もちろん言葉によるコミュニケーションも大切です。
介護の現場で基本とされている介助前後の声かけや、利用者様の表情を見ながら、言葉以外から心身の状態を把握することも必要になってくるでしょう。
寝たきりの方に対しては実践が困難
キネステティクスは、利用者様の本来できる能力を引き出す介助理論です。
寝たきりで、自力では自分の身体を動かせない方にとっては実践が困難になります。
そのため、すべての介助にキネステティクスの理論を応用するのは不可能です。
ボディメカニクスとキネステティクスは一見相反してるように思われますが、介護現場では両方の理論が必要で、状況によって使い分けることができます。
そして状況の見極めができるように日々介助する中で、目の前の利用者様にとってより良いケアは何だろう?という視点を持つことが大切になってくるでしょう。
ボディメカニクスやキネステティクスを活かすために必要なこと
今回ご紹介したボディメカニクスとキネステティクスを介護の現場で活かすために、以下3つのポイントを意識することが必要です。
- 自分自身の身体を理解する
- 日常生活の中で意識する
- 根拠を理解した上で実践する
以上のことは、介護職をする上で非常に重要な考えなので、ぜひ詳しい内容もあわせてご覧ください。
自分自身の身体を理解する
ボディメカニクスもキネステティクスも、人間の身体の構造を理解することが非常に重要です。
そして最も身近な人間の身体は自分自身です。
支持基底面を広くし重心を低くすると、身体が安定することを自分で体験したり、普段何気なくしている動きに対して、どのように動いているかを意識したりするだけでも、自分自身の身体の理解につながります。
自分が負担のない楽な動きを実践することで、利用者様の無理のない動きの発見につながることも期待できるでしょう。
日常生活の中で意識する
介護職自身が日常生活の中で、負担のない楽な動きを意識して過ごしてみましょう。
利用者様を介助するのも日常生活がメインです。
そのため介護職が普段何気なくしている動きを細分化し、より自然で楽な動きは何かを考えることで、利用者様への実践につながります。
例えば椅子から立ち上がる際に、足が前に出過ぎても後ろに下がり過ぎてもうまく立てません。
つま先が膝よりやや前に出るくらいのイメージで足を地面に着けると、安定して無理なく立てます。
些細なことですが、このような動きを普段から意識することで、ボディメカニクスやキネステティクスを活かせるでしょう。
根拠を理解した上で実践する
ボディメカニクスもキネステティクスも、根拠を理解した上で実践することが重要です。
なぜなら根拠が分からないとさまざまな介助の場面で、身に付けた理論やスキルを活かせないからです。
先述の椅子からの立ち上がりを例に挙げると、つま先が膝よりやや前に出るくらいの場所に足を着くことで、下半身に体重が乗り安定します。
その結果、自分の力を最大限に活かして負担なく楽に立てます。
ただ動きだけを覚えるのではなく、なぜその動きをするのかという疑問を常に持ち、根拠を理解した上で介助しましょう。
まとめ
ボディメカニクスが古いと言われる理由は、キネステティクスという異なる考えの介助方法が発見されたからです。
キネステティクスの考え方である、動かす介護から引き出す介護に意識を変えることで、利用者様が自然と楽に動ける可能性を見出せるでしょう。
しかしキネステティクスを実践する際にも、ボディメカニクスによる介護職の負担を減らす理論も重要です。
そのため、ボディメカニクスの理論をしっかり理解した上で、キネステティクスを活用していきましょう。
1分で登録OK
ケアきょう求人・転職の無料相談