認知症介護のストレスは虐待につながる?!ストレス解消方法や環境整備方法について
1. 認知症の利用者に対する虐待が増加?!
厚生労働省から発表されている平成27年までのデータでは、施設での認知症高齢者への虐待ケース(通報)が増加傾向にあります。
またそのほとんどが当該施設職員という介護職が最も内訳として多く問題になっています。
実際に2014年に神奈川県で起きた87歳の施設入所者を施設の窓から転落させた事件は、記憶に新しく、このように虐待が原因で死亡に至るケースもあります。
このような動きを受け、各介護施設などでも研修や調査が強化され、防止策が強化される流れはあります。
しかしその一方で内閣府の発表によると認知症高齢者は平成27年で525万人から平成37年には700万人以上に増加することが予測されています。
内閣府(https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/gaiyou/s1_2_3.html)
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ケアきょう求人・転職の無料相談2. 認知症の利用者に対する虐待が多い理由は介護職のストレス
割合 | 発生要因 |
---|---|
65.6% | 教育・知識・介護技術等による問題 |
26.9% | 職員のストレスや感情コントロール |
10.1% | 虐待を行った職員の性格や資質の問題 |
厚生労働省のレポートによると、養介護施設従事者等における高齢者虐待の発生要因は「教育・知識・介護技術等による問題」が65.6%、「職員のストレスや感情コントロール」が26.9%、「虐待を行った職員の性格や資質の問題」が10.1%です。
このデータを見ると職員のストレス管理によるものが30%近くを占めていることがわかります。
また認知症や高齢者に対する知識やコミュニケーション技術を身につけることでできる感情コントロールもあることから、多くの虐待の原因が介護職のストレスが原因といっても過言ではなりません。
認知症をはじめとする高齢者の虐待は利用者の不利益になることはもちろん、虐待を行った職員の人生を狂わすことにもつながります。
このような悲しいことを双方に起こさないためにも、介護施設職員の心構えとして普段から認知症に対する知識とコミュニケーション技術をつけることとストレスコントロールを意識することが重要になってきます。
3. 虐待を避けるために…ストレスチェックツールを使おう
高齢者の虐待の原因が職員のストレスによるところが大きいことはお伝えしました。
ストレスが爆発するメカニズムはボールによく例えられ、
- ストレス要因(ボールを押す力)
- ストレス反応(ボールの歪み)
- ストレス耐性(ボールが元の形に戻る力)
の3つの要素に分けられます。
この3つの要素とうまく付き合うことでストレスによる認知症高齢者への虐待を防ぐことのできる可能性はぐんと高まります。
ただしストレスは目では見えにくく、またストレスが溜まっていることを自分で把握するのは非常に難しいことです。
そこで一般に公開されている質問紙などのツールを使うことで現在の状況をある程度スクリーニングすることが可能です。ここでは無料で使える2つのツールをご紹介していきます。
3.1. WEBで公開されているストレスチェックツール
こころのみみ『5分でできる職場のストレスチェックツール』
厚生労働省が働く人のメンタルサポートのために運営しているサイトで「5分でできるストレスセルフチェック」を行うことが出来ます。チェック後は
- 現在のストレス総合判定
- ストレスの原因因子(どの項目が高いか)
- ストレスによる心身反応(ストレスによって現在どのような症状が出ているか)
- ストレス反応への影響因子(家族・上司・環境サポートなど)
- 簡単なコメント
を表示してくれます。
各要素をレーダーチャート化してくれるため自分が現在どのような原因でストレスを抱えているのかを予測することが出来ますね。
また、このサイトは職場でのメンタルヘルスに関する総合的な情報をサポートしてくれておりセルフケアのe-ラーニングや為になる基本的な情報がたくさん掲載されておりますので職場のチームなどで一度チェックを行い勉強会の教材にしてみるのもおすすめです。
3.2. 厚生労働省作成の職業性ストレス簡易調査票
平成27年度から義務化された50名以上の事業場におけるストレスチェックにも多く用いられる最もメジャーなストレスチェック表といってもよいでしょう。
項目は57項目あり
- 仕事に対する肉体的、精神的負担
- 仕事のコントロールや適性度
- ストレスによる心身の反応
- ストレス反応に影響を与える因子
などの設問があります。
設問の合計点により高ストレス者を判定できますし、インターネット上で無料の質問紙が公開されていますので取り組みやすい内容となっています。
ただし、採点方式は少し難しいのでこちらを参考に採点を行う手間がかかります。
4. 施設内の虐待を防ごう!ストレスの軽減や環境の整備の方法
様々なストレスチェックツールを使ってストレスを測った後は実際にストレスを改善する方法を模索していきましょう。
ストレスによる虐待(事故)を防ぐためには
- ストレスの原因になることを避ける
- ストレスに対しての耐性を高める
- ストレスを打ち消す緩衝要因を取り入れる
ことが重要であることをご説明しましたね。
ここからは介護職のストレスが原因となる認知症利用者への対策としてどのような取り組みを行っていけばいいのかについてご説明していきます。
4.1. 環境の整備の方法
ストレスをためずに認知症利用者と関わっていくために重要な視点の一つが環境の整備です。
環境とは作業環境や作業量など目に見える環境だけでなく、職場の人間関係や認知症の正しい知識、技術、利用者についての話合いができる環境やチームづくりも含まれています。
認知症への知識・理解を深める
まずは相手のことをよく知れているかが非常に重要です。
例えば、介護職の間では認知症に特有の症状として一般的な『物とられ妄想』のような症状は一般的にはまだまだ知らない人も大勢います。
このような症状、認知症患者の世界観を知っておくことで我々は接する際に『準備』をすることが可能です。
準備なしに利用者と関わると知っていれば感情をコントロールできることが出来ずにストレスに発展し虐待につながることも考えられます。
書籍やネット上にも認知症についての情報はかなり充実していますし、認知症に対するコミュニケーションを『技術化』している団体もありますのでそのような団体の勉強会に参加してみてもよいでしょう。もちろん職場内での共有も忘れないようにしましょう。
「してあげる」などの上下意識を変える
これは介護業界全体に言える問題点の一つです。
職業上介護を『してあげている』という上下意識があり一般的に接遇・マナーについての水準が低くなりがちな介護職ですが、このような意識が認知症高齢者とのコミュニケーションがスムーズにいかない原因になることも多々あります。
実際のところ認知症高齢者ではこのような意識がさらに欠けている介護職の対応も多く見られます。
認知症患者においては認知機能の低下はあるものの、『快・不快』の刺激に関しては影響されにくいという考え方が一般的です。
皆様も歳が一回りも二回りのも下の職員にぞんざいな扱いや言動を受けるとどう思うでしょうか?
言葉や態度には出さなくても「不快」な刺激を繰り返す職員に対してよい反応はおそらく返っては来ません。
こういった部分も自分では気が付きにくいポイントですので、もう一度、上下意識をもって介護に臨んでいないか振り返ってみることも大事です。
職員でミスや状況を共有し、対処を話し合う
施設での介護はチームアプローチです。
そのため、介護上で起こったミスや介護の状況を細かく情報共有することが非常に重要です。情報共有を行うことで間違った介護方法の是正、虐待のヒヤリハットの発見、予防、早期対策が早期に行えます。
またこのようにして集めた情報はチームとしての意見として環境面や人員面の是正を上司に報告しやすくなります。
認知症利用者の介護では認知症の疾患的な特徴はもちろんですが、その人の生い立ちや以前の生活様式などの個人的な因子もお互いに気持ちの良い介護の大きなヒントになります。
4.2. ストレスの軽減方法
虐待をストレスが原因で起こさないために重要なのがストレスをためないことです。
そのために
- ストレスを発散すること
- ストレスへの耐性を高める身体作り
- ストレスを緩衝する外部からの刺激を高めること
の3点が重要です。
以下ではそのために具体的に取り組めることについて触れていきたいと思います。
気晴らしをする
ストレスは生きている限り、仕事をしている限り絶対に溜まるものです。
重要なのはそのストレスが軽微なうちに発散しリフレッシュすることです。
いわゆる『ストレス発散』するためには以下のような取組みがあります。
- 好きなことをしたり、考えたりする時間を作る
1つ目は『しっかりと仕事から離れる時間を作る』ということです。
中には仕事が一番好きで趣味という方もいるかもしれませんがほとんどの人はそうではないでしょう。
趣味活動に取り組む、自宅でゆっくり興味のあることに取り組む時間を作ることでストレスを発散しましょう。
そのために休日をしっかりとることが出来る、夜勤の都合をつけてもらうなどの工夫も必要になります。 - 適度な運動をする
適度な運動はストレスを発散するために非常に有効な手段の一つです。
ウォーキングや趣味のスポーツなどを行うと体や頭がすっきりするような体験をしたことのある人も多いと思います。
特に有効とされているのが、ウォーキングやランニング、ダンスなどの有酸素運動です。
20分程度の適度な運動は血管が広がり循環向上につながります。それによって筋肉がほぐれるため結果としてリラクゼーション効果につながることがわかっています。
加えて、有酸素運動により脳からセロトニンという物質が分泌されることがわかっています。セロトニンは心が安らぐホルモンで有酸素運動を公園など緑の多いところで行うことによってさらにメンタルに良い効果をもたらすことが出来ます。
また介護職といえば慢性腰痛のような症状ですが、3か月以上続く慢性腰痛は心理面とのつながりが大きい症状といわれています。
適度な運動はこのような慢性腰痛にも効果的であるというエビデンス(科学的根拠)もあります。
このような理由から運動は心理面、身体面に非常に効果的な取り組みといえますね。 - いつもと違う場所へ行く
旅行をはじめとしていつもと違う場所へ向かうことはストレス発散に有効であることがわかっています。
単純に新しい場所に行くことで脳が刺激され活性化するだけでなく、例えば森や山に行けば森林浴の効果が、静かな田舎に行くことで都会の不快な刺激から逃れリラックスできるなどいいことづくしです。
また新しい場所へ行くと歩く量が増えるなど活動的になりますので知らないうちに有酸素運動になっていたりもしますのでおすすめです。
精神的な緊張を緩める
仕事中においても適切な判断で動くことのできるように日々セルフコントロールを意識しておくことが重要です。
イライラして些細なことで怒りっぽくなったりしないように簡単なことから取り組んでいきましょう。
- 仕事の合間に外の空気を吸う
「ちょっと外の空気を吸ってくる」とよくいう人がいますが、この行動は実際に仕事の効率を高め、リラックスもできることがわかっています。
介護職が主に活動する室内では二酸化炭素の濃度が高くなりやすく、そのような状態では仕事の能率が低下するのです。
頭がぼーっとする、眠くなるなどはそのような状況のサインになっていますのでいったん外の空気を吸いに行くことをおすすめします。 - 深呼吸する
ヨガやマインドフルネスなどにも使用される深呼吸という行動は精神をリラックスさせるための最も簡単な対策といえます。
深呼吸を行い呼吸のリズムを整える行為は副交感神経という体をリラックスさせる神経を活性化させることがわかっています。
他にも消化、免疫、循環など多岐にわたって効果が報告されています。
怒りをコントロールするアンガーマネジメントでは怒りを感じてから6秒間が重要といわれています。
利用者や職員とのかかわりの中で何か嫌なこと、イラっとすることがあったら深呼吸をしてみるという習慣をつけてはいかがでしょうか? - 周りの人に相談に乗ってもらう
他人からのサポートはストレス緩衝の要因として有効な要素です。ストレスチェックでも周りからのサポートの有無は重要な項目の一つになります。
悩みやストレスを抱えることがあればため込まずに積極的に他人に相談していきましょう。
また家族や友人のサポートも非常に重要です。介護職は夜勤などで家族とのかかわりが希薄になりがちな職業でもありますので、友人や家族との時間も積極的に作っていきましょう。
身体を休める
最後にストレス耐性を高める心身づくりについて説明していきます。
普段から規則正しい生活習慣を心がけストレスに強いメンタルを養っていきましょう。
- 質の高い睡眠をとる
メンタルヘルスにおいてのストレスケアで最も重要な要素といっていいのが睡眠です。
睡眠はいわば体を回復する作業ですのでこのタイミングで肉体的・心理的な疲労を回復します。
睡眠が十分にとれていないと疲労が抜けずにストレスをため込みやすい身体になってしまい、仕事のパフォーマンスが低下します。
また心のスイッチを整える交感神経と副交感神経のバランスも崩れてしまいますのでやる気が出ない、十分に休めずイライラするなどの傾向があります。
一般的に理想の睡眠時間の目安は7時間前後とされています。
夜勤で睡眠時間が不安定な方は特に睡眠がとれるように起床時間を調整していきましょう。 - 三食きちんととる
不規則な食事や過剰な摂取も体調を崩す要因となります。
根本的に病気や体調不良になりやすくなるとそれだけストレスに対しては精神的に弱くなってしまいます。
1日1食にして大量に摂取するなどは絶対に避け栄養バランスの良い食事を摂取しましょう。 - お湯につかる
お風呂についての良い効果は多数報告されていますがここでは代謝量の増加、睡眠への効果をご紹介していきます。
暖かいお湯につかることにより運動と同様循環が向上しリラクゼーション効果があります。
また入浴はリラクゼーションと同時に適度な体への負担となり、良質な睡眠をとるために有効な取り組みとなります。
ただし、運動直後に睡眠できないのと同じで睡眠直前の入浴は反対に寝付きにくくなる可能性にもつながるので注意しましょう。
また朝起きてなかなか仕事への気持ちが切り替えられないタイプの人は熱めのシャワーを浴びることで交感神経を高めることが出来るのでおすすめです。
5. まとめ
いかがだったでしょうか。ストレスが原因による認知症高齢者の虐待予防には
- ストレスが溜まっているかを確認する
- ストレスの要因を退ける
- ストレスを発散する
- ストレスに強い体を作る
ことが重要です。
今回の記事を参考に皆様のセルフケア力を高め、個人そしてチームが虐待を起こさないように取り組んでいきましょう。
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