あなたの職場は大丈夫?!増えている介護施設の倒産・閉鎖事情とその傾向を徹底解説!

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2022/01/11

1. 介護施設の倒産・閉鎖が増えているって本当?

1.1. 2017年の老人福祉施設、介護施設の倒産は過去最大値に

老人介護施設や通所サービス、訪問サービスなどの指定介護事業者の倒産は、年々増加傾向にあります。 2017年度は過去最多の107件となりました(前年度に比べて7.4%増)。 これは2011年度(19件)に比べて、約5.5倍の数値です。
内訳を見ますと、従業員5人未満の事業者が6割、設立5年未満の事業者が4割と目立っています。小規模な事業者、設立間もない事業者の淘汰が多い という結果です。
成長市場と期待される介護事業ですが、事業者濫立による「生き残り競争」が激化しており、競争力のない事業者の淘汰が進んでいると考えられます。そしてこの傾向は今後ますます顕著になると予想されます。

1.2. どのような倒産、施設の閉鎖なのか

9割が事業消滅型の倒産

倒産の形態別で見ますと、

件数
事業消滅型 107件
再建型 3件のみ

となっています。前者が90%以上を占める割合です(前年度に比べても4.9%増)。
事業消滅型とは、経営再建を目指すのでなく、第三者に経営権を譲るのでもなく、事業者そのものを閉じてしまう、という形態です(いわゆる廃業)。こうなると利用者は他の事業者を探さなければならず、職員は改めて就職活動をしなければならなくなり、各方面に被害が及びます。
利用者や職員からすれば「事業消滅型」でなく「再建型」を選択してほしいところですが、倒産した事業者の負債総額は147億4,100万円(前年度に比べて38.7%増)に上っており、実際には簡単に行きません。業績不振に陥った事業者の再建は非常に難しい、というのが実情となっています。

訪問介護型サービス事業者が最多

業種 件数
訪問介護事業 47件
通所・短期入所介護事業 44件
施設サービス 17件

訪問介護事業は利用者宅への訪問がメインとなりますので、入居施設などの初期費用がかからず、新規参入しやすいというメリットがあります。一方で新規参入事業者が多い分、競争が激しくなるのがデメリットです。経営力や資金力に乏しい事業者は利用者不足、人員不足に陥りやすく、淘汰されやすい状況と言えます。

2. 介護施設が倒産、閉鎖する背景

2.1. 介護施設のニーズは年々高まっている?

65歳以上の高齢者の総人口に占める割合は、2017年に27.7%まで上昇しました。日本人の約4人に1人が高齢者という計算です。「超高齢社会」と定義される状態ですが、この増加傾向は今後も続き、2040年には高齢化率40%台に達すると予測されています(3人に1人以上が高齢者になります)。
当然ながら介護ニーズも増加の一途を辿ると考えられます。政府の施策は「施設から在宅へ」ですが、介護できる家族がいない、介護をする余裕がない、などの理由で介護事業者に頼るケースは、今後も増えていくことでしょう。市場としては今後ますます大きくなっていく、と見込まれています。

2.2. なぜ介護施設の倒産、閉鎖が増えているのか

同業他社の競争が激化し、経営力や資金力のない事業者が淘汰された

上記のように介護ニーズが増えているのに、介護事業者の倒産も同時に増えているのは、それだけ新規参入事業者が増えているから、と考えられます。近年、都市部を中心に至る所に老人介護施設が立っているのは、皆さんご存知の通りです。需要に比べて供給が多い状況なのです。
そして競争においては経営基盤の大きい、長年のノウハウを持つ「大手」が有利になります。小規模な事業者、設立間もない事業者は「信用」や「実績」の面でも差を付けられていますから、どうしても厳しい競争を強いられることになります。

人手不足によって人件費が高騰

人手不足になればなるほど、人件費は上昇する傾向にあります。人材の流出を防ぐため、また新規雇用のため、高い水準の給与を提示しなければならないからです。
介護業界の特徴として、社会全体が好景気になると人材が他業種に流れてしまう、という逆転現象が起こります。つまり景気が良くなると余計に人手不足になる、ということです(現在がその状態です)。
その中で必要な人材、特に優秀な人材を確保するには相応の人件費を掛けねばならず、必然的に経営を圧迫することになります。この点でも、資金力に余裕のない事業者は不利となります。

介護報酬の改定があり、収益が安定しない

介護保険制度においては3年に1度の介護報酬見直しがあります。2015年は実質的なマイナス改定でした。2018年はプラス改定でしたが微増に留まっています。次回の改定がどうなるかわかりませんが、介護ニーズも社会保障費も増加の一途を辿っていますから、あまり期待できる状況ではありません。
いずれにせよ介護事業者の収益は基本的に介護報酬に依存しており、それゆえ不安定です。資金に余裕のない事業者にとって、マイナス改定は命取りとなりかねません。

3. どのような介護施設が閉鎖する可能性があるの?こんな施設には要注意

3.1. 常に人材不足に陥っている

介護事業者は市区町村からの「指定」をもらうため、様々な条件を満たさなければなりません。その条件には事業規模に応じた「人員基準」も含まれています。なので人員不足は事業者にとって致命的となりかねません。過去には必要な人員を確保できず、架空の職員を名簿に載せるなどの不正を行ってしまった事業者もありました。
つまり慢性的に人材不足に陥っている事業者は、それだけで「指定取り消し=廃業」に追い込まれる恐れがある、ということです。

また法制度的な問題だけでなく、人材不足は職場環境を悪くします。

  • 休みの希望が通らない
  • 有給休暇が使えない
  • 残業が多い
  • 忙しすぎる

などで職員にかかる負担が大きくなるからです。職員全体のストレスが高じると、結果的に人間関係も悪くなってしまうでしょう。
職場環境が悪くなると離職率も高くなり、ますます人材不足に拍車がかかる、という悪循環になってしまいます。このスパイラルに陥ってしまいますと、抜け出すのは容易ではありません。

3.2. 常に利用者が不足している

  • 有料老人ホームなどの施設で空き部屋が沢山ある
  • 訪問介護事業所で利用者が極端に少ない

というのも廃業に追い込まれるリスクが高い状態です。
特に恒常的に利用者不足に陥っている事業者は

  • 営業力がない
  • 立地などの条件が悪い
  • 悪評が立っている
  • 施設の老朽化が進んでいる

等の問題を抱えていることが多いです。利用者が少ない分収益も少ないですから、問題を解決すること自体も困難となっています。

3.3. 介護報酬に依存しすぎており、利益率も低い

介護事業の収益を安定化させるには、介護報酬への依存度を減らす取り組みが必要となります。 具体的には介護保険外のサービス提供や、他事業の展開などです。逆に言えば、そうしたオプションを持たない事業者は、介護報酬改定のたびに経営の見直しを迫られる、不利な立場に置かれていると言えます。
介護報酬への依存度は、その事業者の運営の安定感を示す一つの指標となります。

また介護事業者の経営状態は、収益だけでなく支出の面でも考えるべきでしょう。無駄遣いや、無計画な支出、効率的でない業務態勢はないでしょうか。細かな無駄を省こうという節約意識が現場にあるでしょうか。余計な支出がある限り、経営状態の安定は難しくなります。

3.4. 経営方針が定まらない

離職率の高い職場にありがちなのが、役職や管理職が短期間で替わってしまう「場当たり的な人事」です。特にトップが替わってしまうと、そのたびに経営方針や業務内容が変わってしまいますから、現場に混乱をきたしかねません。それまで積み上げたものをゼロにしてしまい、結果的に事業者としての成長も阻害されてしまいます。それでは利用者からの信頼も得られにくいでしょう。

3.5. 小規模かつ設立間もない事業者

冒頭で述べました通り、2017年度の倒産事業者の内訳は、従業員5人未満の事業者が6割、設立5年未満の事業者が4割となっています。小規模な事業者と設立間もない事業者の淘汰が多いという統計です。その両方に該当する事業者は、残念ながら廃業リスクが高いと言わざるを得ません(もちろんどんな大手も設立当初は小規模であり、何の実績もノウハウもなかったのですが)。

3.6. 介護職員処遇改善加算を届け出ていない

「介護職員処遇改善加算」は事業者の経営に直接関わるものではありませんが、事業者が市町村に届け出るだけで、介護職員の給与の「上乗せ分」が支給されるという仕組みです。2017年4月に制度化されました。
これは介護の関わる職員であれば誰でも受けられる恩恵ですが、残念ながら全ての事業者がこれを届け出ているわけではありません。理由は「届け出の事務手続きが煩雑だから」です。
介護職員の処遇改善を願うなら当然届け出るべきですが、それをしないのは「介護職員のことを考えていない」と受け取られるでしょう。事業者への信頼が揺らぐことになります。

4. あなたの働いている施設でもあり得る?!勤務先の介護施設が閉鎖するリスクに備えて行うべきこと

4.1. 資格を取るなどして介護業務の知見・技術を高めておく

たとえば「介護職員実務者研修」を受講しているホームヘルパーであれば、3年間の実務経験で「介護福祉士」の資格試験を受けることができます。介護福祉士は国家資格であり、「介護のプロ」と認定されるものです。取得すればどこへ行っても即戦力として重宝されるようになるでしょう。人材としての価値を高めることになります。
他にも

  • ケアマネジャー
  • 福祉住環境コーディネーター
  • 福祉用具専門相談員

など様々な介護関連資格があります。自分の現在の業務(職種)にこだわらず、興味のある業務ややりたい業務に関連した資格を取得しておくことは、将来的に選択の幅を広げることにもなります。
また資格取得は給与のベースアップ要件となることが多いですから、介護の仕事を長く続けたいと考えている方は、積極的に取得するべきです。それだけで生涯年収が大きく変わります。

すでに資格を取得しておられる方は、日々の業務の中で介護技術を磨き、知識を更新しておくと良いでしょう。介護業務は基本的に代替可能なものですが、優れた技術や知識はどの現場においても重宝されます。また役職を与えられるなど、待遇面の改善も期待できます。

4.2. 転職を視野にいれ、定期的に介護職員の募集を把握しておく

現在の職場の環境や待遇に不満がなくても、将来的にはどうなるかわかりません。人事異動や経営方針の転換などによって、望まない職場環境になってしまう可能性もあります。そうなった時に慌てて転職活動を始めても、あまり選択肢がない、何を見て選べば良いかわからない、などと困ることになってしまうかもしれません。精神的な余裕がないため、賢い選択ができない可能性もあります。そういう事態を防ぐため、普段から様々な求人情報誌や求人サイトをチェックしておくことをお勧めします。 様々な事業者の

  • 労働時間
  • 年間休日数
  • 休憩時間
  • 給与
  • 各種手当
  • 福利厚生

等の待遇を把握しておけば、求人情報の比較も容易になります。いざという時の選択肢の幅を広げることになるでしょう。
企業や自治体が主催する介護職種の合同説明会に参加するのも有効です。大きな会場に様々な事業者(主に大手)の担当者が集まりますから、実際に話を聞いたり、質問したり、自分自身をアピールしたりできます。その場で面接を受けたり、良いオファーを受けたりすることもあると聞きます。
また介護職員どうしの横の繋がりも大切です。転職の多い業界ですから、様々な職場で働いてきた介護職員も少なくありません。そこからいろいろな事業者の情報を集めることができるでしょう。パンフレットや情報誌からではわからない、そこで働いた人間だからこそわかる新鮮な情報には、大きな価値があります。
そうやって介護職に関するリテラシーを高めておくことは、実際に転職するかどうかに関わらず、介護職員としての質を高めることに繋がります。

5. 介護施設の倒産・閉鎖の理由についてまとめ

毎年新たな介護事業者が設立される一方で、残念ながら閉鎖に追い込まれる事業者も増加しており、介護業界は先の見えない状況となっています。介護報酬の今後の動向も気になるところです。
介護職の方にとっては、自分の勤務先がどうなるかわからない、どの事業者に所属していても絶対安心とは言えない、不安要素の多い状況と言えます。普段から万が一の場合に備えておくことが、リスク・マネジメントに繋がると考えられます。

記事中にもある通り、介護業務とは基本的に代替可能なものです。技術と知識があれば誰でもいい、という考え方の事業者であれば、職員を「使い捨て」のように扱っても不思議ではありません。事業者にいいように使われてしまわないように、介護職の方はよくよくご注意下さい。
ですがこれは逆に言えば、質の高い技術と知識さえ持っていれば、どこに行っても通用する、ということでもあります。それが介護職の強みです。確かな経験と実績を積み重ねることで、事業者に「選ばれる」のでなく、事業者を「選ぶ」人材となることもできるでしょう。
介護職の皆さんの今後のご活躍を、お祈りしています。

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