ボディメカニクスとは?無理なく介護できる8原則を【介護福祉士監修】
「ボディメカニクスって何?」
「ボディメカニクスは介護にどうやって活かすの?」
今回は以上のような疑問に、実際に現場でボディメカニクスを実践している現役介護職が解説していきます。
ボディメカニクスとは?
まずはじめに、ボディメカニクスについて簡単に理解しておきましょう。
ボディメカニクスとは、介助する私たち介護職と利用者様の、本来動かせる身体の機能を最大限に活かし、互いに負担なく介護する技術のことです。
それでは、ボディメカニクスにはどういった効果があるのか見ていきましょう。
介護職の腰痛予防
ボディメカニクスは、介護職の腰痛予防に効果的です。
力で介護するのではなく、利用者様の身体能力を最大限に活かしつつ、介護職側は必要最低限の力で介助するので、腰への負担を大きく減らせます。
介護の仕事はさまざまな介助以外にも、座って記録するなどデスクワークもあり、腰への負担は増えやすい傾向です。
そのため、ボディメカニクスを実践し腰への負担を減らすことは、長く介護職として働くために非常に重要と言えるでしょう。
利用者様の負担軽減
ボディメカニクスは腰痛予防といった介護職側のメリットだけでなく、利用者様の負担軽減にもつながります。
力介護ではなく、人間の本来の力を最大限に活かす介助のため、利用者様が無理な体勢になることもありません。
利用者様にとっては、今まで使えていなかった足の筋肉などを、ボディメカニクスによって活かされることで、生活リハビリの効果も期待できるというメリットもあるでしょう。
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ケアきょう求人・転職の無料相談ボディメカニクスの8原則とは?
ボディメカニクスを実践する際は、以下の8つのポイントを意識してみましょう。
- 支持基底面積の広さは十分か?
- 重心の高さはどうか?
- 重心の位置はどこか?
- 移動は上下と水平どちら?
- てこの原理は必要か?
- 利用者様の体勢は安定しているか?
- 身体の捻りはないか?
- 身体のどこを使っているか?
それでは、一つずつ解説していきます。
支持基底面積の広さは?
支持基底面積とは、体重を支えるために必要な床面積のことで、広げる足幅が広いほど支持基底面積も広くなります。
介護の場面では、この支持基底面積を適切な広さにすることで、腰への負担を軽くすることが可能です。
具体的には、足幅は肩幅よりやや広めに取り、両足を前後左右の対角線上に開くことで、より安定感がアップします。
重心の高さは?
重心の高さは、低くすることで骨盤が安定し、腰への負担を軽減しボディメカニクスを活かした介護ができます。
先ほどの支持基底面積と合わせて、足幅を広くし腰を落とすことで安定感のある介護につながります。
重心が高いと腰への負担が増えるため、慢性的な腰痛や、最悪の場合ギックリ腰になる可能性もあるので注意しましょう。
重心の位置は?
利用者様を介助する際、自分の重心の位置に注意しましょう。
例えば移乗介助の際は、利用者様に身体を密着させることで、お互いの重心の位置が近づきます。
重心が近付くことで力が伝わりやすくなるため、安定感が増し無理のない移乗介助ができ、腰痛予防にも効果があります。
無駄な力を入れずに介助するためにも、重心の位置は非常に重要です。
移動は上下?水平?
ボディメカニクスは、介護職と利用者様の負担を最低限にすることが重要です。
ベッドから車椅子への移乗介助時などは、利用者様を持ち上げる上下移動ではなく、水平に移動させるイメージで行いましょう。
そのために、介護職は少しでも利用者様の足に体重が乗りやすい配慮が必要です。
具体的には、利用者様が座位の状態から、足を後ろに下げて前屈みになってもらうことで、足に体重が乗りやすくなります。
身体の機能を最大限に活かしていただくことを意識しましょう。
てこの原理は?
てこの原理とは、力点に力を加え、支点を中心とした回転運動により、作用点に大きな力を加えることができる原理です。
介護に置き換えて分かりやすくお伝えすると、介護職よりも身体の大きな利用者様を介助する際、利用者様のひざやひじを支点にし遠心力を利用することで、余計な力を入れなくても身体を起こせます。
要介護度が高く移乗介助が多い施設では、身体的負担を軽くするためにも、てこの原理は必須と言えるでしょう。
利用者様の体勢
利用者様の体勢が崩れていると、ボディメカニクスを実践するのは困難です。
例えば、移乗介助で利用者様の身体が後ろにのけぞった状態では、本来ある身体の機能を活かすことはできません。
利用者様には身体をコンパクトにしてもらうことで、介護職側の負担を減らすことができます。
また、少しでも自分の力で立ってもらうために、座っている状態で足が床にしっかりと付いているかを確認することも必要です。
座位が安定しなければ、立ち上がりも不安定になりボディメカニクスは活きてこないでしょう。
身体の捻れは?
利用者様、介護職両方に身体の捻れが起きていないかも確認しましょう。
身体が捻れた状態で介助すると、余計な力を使ってしまい、腰への負担が大きくなります。
お互いの身体が捻れた状態では、どんなに頑張っても安定しませんし、利用者様と介護職ともに辛いだけです。
上手く行なうポイントとしては、介護職と利用者様が正面で向き合った状態で介助し、介助者の足先を動作の方向に向けると安定します。
身体のどこを使う?
手や腕など上半身だけで介助すると、腰痛のリスクが高くなります。
したがって、介助する際は足腰の大きな筋肉を使うよう意識することが重要です。
ここで前述にあった、重心を低くし利用者様に近付くポイントを実践することで、より安定感が増し、腰への負担も軽減できます。
介助の前は、自分の下半身が安定しているかを確認してから始めると、安定した介助ができるでしょう。
ボディメカニクスを活用した移乗介助の注意点
続いては、ボディメカニクスを活かした移乗介助の注意点を、実践を想定しながら紹介していきます。
以下の動画では、介護の現場でよくある車椅子からベッドへの移乗介助を分かりやすく紹介してるので、参考にしてみてください。
まずは移乗介助で一番大切なことを知ろう
移乗介助前には、必ず利用者様に声をかけましょう。
たとえコミュニケーションが難しい場合でも声をかけ、これから介助することを知ってもらい、不安を取り除くことが大切です。
声かけをしないで利用者様に急に触れると、身体がこわばり固くなるので、ボディメカニクスを活かしにくくなります。
また、日々丁寧な声かけをして介護職と利用者様の信頼関係を構築することで、お互いリラックスした関わりができるでしょう。
利用者様のできることを奪わない
ボディメカニクスは、本来動かせる身体の機能を最大限に活かすことが大切です。
そのため、利用者様ができることを奪わないように気をつけましょう。
例えばベッドからの移乗介助の際、自分で寝返りができるにもかかわらず、介護職が手伝ってしまうと、身体機能の低下につながります。
利用者様の身体機能が維持されることで、介護職の腰への負担も軽減できます。
利用者様ができることを、職員間で共有し統一したケアも忘れないようにしましょう。
力介護は利用者様も介護職もしんどいだけ
ボディメカニクスは、身体機能を最大限に活かし最低限の力で介助することで、利用者様と介護職の負担を軽くする目的があります。
したがって、介護職が力を使って介助することは、ボディメカニクスに反しています。
力だけで無理やり行なう介護は、利用者様の身体機能を低下させ、介護職の腰への負担を増大させるなどでデメリットしかありません。
力を使うのではなく、力を活かすことを意識してボディメカニクスを実践していきましょう。
ボディメカニクスを活かせる場面は?
次に、介護現場でボディメカニクスを活かせる場面を紹介していきます。
ここまでは移乗介助が主な事例でしたが、それ以外の場面でもボディメカニクスは役に立つので、ぜひ参考にして実際の介助で活かしてみてください。
それでは、一つずつ解説していきます。
立ち上がるとき
利用者様が立ち上がるときに、ボディメカニクスを活かすことができます。
手順は、以下のとおりです。
- 介護職は利用者様の前に行き重心を下ろす
- 利用者様の足を後ろに引いてもらう
- 利用者様が前屈みになり腕を介護職の肩に回してもらう
- 利用者様の足が床にしっかり着いているか確認する
- 介護職は下半身全体を使って利用者様と一緒に立つ
この時、利用者様の重心が介護職の支持基底面積の中に入っていると、より安定するので意識してみましょう。
座るとき
座る際は以下の手順で、立ち上がりと逆の動きになります。
- 介護職は支持基底面積を十分に取る
- 利用者様と重心を近づける
- 必要であれば介護職の肩に利用者様の腕を回してもらう
(安定しているなら軽く支えるだけでOK) - 利用者様にお辞儀をするようにしゃがんでもらう
- 介護職も利用者様と一緒に腰を下ろす
座る際は、利用者様のお尻が急に落ちないよう、介護職が軽く支えながら一緒に座るといいでしょう。
ゆっくり座ることで、下半身のリハビリにもなります。
ベッド上で体勢を整えるとき
ベッドで体勢を整える際に多いのが、利用者様の下がった身体をベッド上方に上げる場面です。
手順は以下のとおりです。
- 介護職がベッドに上がる
- 利用者様の膝を立てる
- 利用者様の膝下に介護職の膝を入れて密着させる
- 利用者様のお尻の下に介護職の両手を横から入れる
- 介護職の身体を使って上に押して移動させる
手や腕だけでなく、体全体を使うことが重要です。
以下の動画で、ベッド上方移動以外に、横移動などのベッド上の水平移乗のコツを解説しているので、参考にしてみてください。
日常生活を送っているとき
以下のような日常生活の場面でも、ボディメカニクスを意識してみましょう。
- 食堂まで歩く
- 食事の際に椅子に座る
- 椅子から立ち上がる
- トイレ誘導時の動作
- 入浴介助の場面
などがあります。
特に歩く場面では、介護職と利用者様の重心の位置が離れていると不安定になり、転倒のリスクも高まります。
ボディメカニクスは移乗介助だけではないことを、改めて知っておきましょう。
介助者自身の身体を動かすとき
ボディメカニクスを実践で活かすためには、実際に自分が体験してみることが大切です。
例えば、介護職同士でボディメカニクスを意識した移乗介助の練習を行なうことで、根拠のある介助ができるようになります。
また、普段何気なく立ったり座ったりする際に、足の位置や重心の移動を意識することで、自分の身体の動きを理解しやすくなります。
自分の動きを理解すると、利用者様を介助する際の参考にもなるでしょう。
ボディメカニクスがもたらすメリットとは?
ここでは、ボディメカニクスがもたらす以下3つのメリットを紹介します。
- 利用者様の負担軽減
- 介護職側の負担軽減
- 精神的な負担軽減
また、ボディメカニクスを学ぶおすすめの方法もあわせて紹介しているので、参考にしてみてください。
利用者様の負担軽減
ボディメカニクスを実践することで、利用者様の負担を軽減できます。
例えば、以下のような効果があるでしょう。
- 無理な体勢にならず痛みがない
- 身体機能の維持につながる
- 力介護ではないので安心できる
などです。
特に力で介護されると、恐怖心の増大や介護職への不信感などにもつながるので、利用者様の精神的ケアという面でも、ボディメカニクスは非常に重要と言えるでしょう。
介護職側の負担軽減
ボディメカニクスは、利用者様はもちろん、介護職側にも以下のような、さまざまなメリットがあります。
- 身体全体を使った効率的な介護技術が身に付く
- 最低限の力で介助することで体力的負担を軽減できる
- 利用者様との信頼関係の構築につながる
などです。
介護職がしっかりとボディメカニクスを実践すれば、利用者様も身体機能の維持につながります。
そして、長期的にお互いの負担を減らすことで、継続的にメリットをもたらしてくれるでしょう。
腰痛予防に必須のスキル
冒頭でもお伝えしましたが、ボディメカニクスは介護職の腰痛予防に必須のスキルと言っていいでしょう。
なぜなら、利用者様の身体機能を最大限に活かし、介護職の最低限の力で介助することで、腰への負担を大きく減らせるからです。
また、介助がスムーズにできれば、腰痛の原因と言われる仕事のストレスも緩和される効果が期待できるでしょう。
ボディメカニクスを学ぶには勉強会や研修への参加がおすすめ
ボディメカニクスを活かした介助を学ぶには、勉強会や研修に参加して、実際に介護職同士で体験してみる方法がおすすめです。
ケアきょうでは、ボディメカニクスを活かした移乗方法のセミナーを動画にしているので、ぜひ参考にしてみてください。
まとめ
今回は、ボディメカニクスについて、以下のような内容を解説しました。
- 利用者様と介護職双方の負担軽減につながる
- 実践する際には8つのポイントがある
- 移乗介助以外にもさまざまな場面で活かせる
- 腰痛予防など身体的以外に精神的なメリットもある
ボディメカニクスは言葉で理解するだけでなく、身体で体験することで実践できるようになります。
ケアきょうでは、記事内で紹介したような動画でも学べるよう、さまざまなコンテンツを配信しています。
ぜひ参考にして介護職同士で練習しながら、ボディメカニクスを身に付けていきましょう。
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