介護現場での陰部洗浄の目的と手順は?
介護現場で必須の介助に陰部洗浄があります。
初めての経験だったり、慣れていなかったりすると、「何から始めたらいいの?」と戸惑ってしまいますよね。
羞恥を伴うデリケートな部分であるだけに、中々人に聞けない方もいるのではないでしょうか?
今回は、陰部洗浄の目的、手順と方法、留意点、陰部洗浄をした結果目指すべき目標を確認していきましょう。
陰部洗浄とは
寝たきりや体調不良、認知機能の低下など様々な理由でトイレで排泄することが難しい利用者様の場合、ベッド上での排泄介助を行うことになります。
そこで大切な介助が陰部洗浄になります。
「洗浄」の字の通り、汚染した部分を洗い流し、清潔を保つ意味合いもありますが、同時に、隠れた部分の皮膚状態の観察や排泄の状況を確認することで、ご利用者様の体調チェックや異常の早期発見に繋がる重要な介助と言えます。
陰部洗浄の目的は
陰部洗浄の目的は大きく2つです。
陰部を清潔に保つ
1つ目は陰部を清潔に保つことです。
年齢や障害、疾病など様々な理由によりオムツを着用している方は、失禁や蒸れで陰部が汚染しやすい状態にあります。
汚染状態が続くことによって、ご利用者様の不快感に繋がる他、尿路感染や皮膚トラブルを引き起こしやすくなります。
尿道カテーテルを使用されている方はより感染リスクが高い為注意が必要です。
体調のチェック
2つ目は体調チェック、異常の早期発見です。
尿や便、女性だと帯下(おりものとも呼ばれる)の状態はご利用者様の体調を把握するための大切な情報です。
また、陰部や臀部の普段は見えない部分に、発赤や表皮剥離などの異常がないかを確認することも、褥瘡を予防したり体調不良に早期に対応する為に重要となってきます。
陰部洗浄の目標は
陰部洗浄の目標は、毎日継続的に介助を行うことで、陰部や殿部の清潔を保ち皮膚トラブルや感染を防ぐという事と、体調の変化や皮膚の異常を早期に発見し、すぐに看護師や医師に相談できるという事です。
施設ごとに決まりがあると思いますが、入浴のない日も陰部洗浄を取り入れ、毎日洗浄の機会を作っていくといいでしょう。
継続的に陰部の洗浄、観察を行うことで、排泄物の量や性状、臭い、皮膚の状態などをチェックし普段の状態から記録をつけておくことが大切です。
最初は小さな変化でも、のちに体調不良や褥瘡に繋がることもあります。
「いつもと何か違うな」と感じた時は、些細なことでも看護師や医師に報告するようにしましょう。
陰部洗浄の説明の仕方
陰部洗浄は、ご利用者様にとっても羞恥を伴う介助です。
事前にしっかりと説明を行いましょう。
寝たきりや認知症でコミュニケーションが取りづらい場合でも、目的とどのように行うかを伝えることで、安心して介助を受けてもらうことができます。
ご利用者様によっては、脱着衣時の腰上げ動作や臥位交換に協力を得られる場合もあります。
伝え方としては
等、ご利用者様の理解度に合わせた伝え方をしていく事が大切です。
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ケアきょう求人・転職の無料相談陰部洗浄の手順と方法
なぜ陰部洗浄が必要なのかを確認できたところで、実践に向けて手順を確認していきましょう。
必要物品と手順を事前にしっかり確認しておく事で、介助がスムーズに行え、ご利用者様にも負担が少ない介助する事ができるようになります。
男性と女性で手順が異なる部分があるので下の記事で詳しく紹介していきます。
ケアきょうでは陰部洗浄についての動画も公開していますので、あわせてご覧ください!
▼参考動画
陰部洗浄で必要なもの
それでは、陰部洗浄で必要な物を準備していきましょう。
- 使い捨て手袋(未滅菌)
- マスク
- ビニールエプロン(施設によっては排泄介助用エプロン)
- 弱酸性タイプの石鹸(できれば泡タイプだと介助が楽になります)
- 替えのオムツ(ご利用者様に合ったサイズ)
- 尿取りパット(ご利用者様に合わせて1、2枚)
- 微温湯を入れた陰洗ボトル
- おしり拭き(施設によってはお下用タオルを使うこともあり)
- 清拭用タオル
- 汚物破棄用のバケツやビニール袋
- バスタオル(素肌に掛ける用)
陰部洗浄の温度は
38〜39℃の微温湯を準備します。
37℃以下だと、冷たく感じて不快であったり、寒気を感じやすくなります。
また、寒気を感じると体がこわばるため、ご利用者様が疲労感を感じやすくなります。
逆に40℃以上だと熱すぎて火傷の危険性があります。
準備の際に、自分の前腕内側に微温湯をかけて温度をチェックするようにしましょう。
(手のひらだと陰部よりも表皮が厚い為、温度調節をしても陰部にかけた時に熱く感じる場合があります。)
最後に、ご利用者様の大腿内側に微温湯をかけて温度が大丈夫か確認してもらいましょう。
陰部洗浄の手順
女性の場合
- 手袋、マスク、エプロンを着用し介助者の準備を整えます。
- ご利用者様に陰部洗浄を行う事を説明し、ベッド周りのカーテンを閉めてプライバシーを守れるよう環境整備をします。
- ご利用者様に仰臥位をとってもらい、膝を立ててもらいます。
下衣を脱いで頂き陰部、臀部を露出、洗浄部以外はバスタオルをかけ羞恥心や寒さに配慮しましょう。 - 使用していたオムツを広げます。
尿取りパッドが汚染している場合は除去します。
腰をあげてもらったり、体を軽く横に傾けてもらうとスムーズです。 - 陰部を微温湯で濡らします。
- 泡立てた石鹸で優しく陰部を洗浄します。
大腸菌感染を防ぐ為、尿道口から肛門への一方行で洗浄します。
大陰唇と小陰唇の間に恥垢がたまりやすい為しっかり洗浄しましょう。
陰部の皮膚や粘膜は薄くて傷つきやすい為、こすらず洗浄します。 - 石鹸成分が残らないようしっかりと微温湯で洗い流します。
お尻拭きや下用タオルで優しく押し拭きしましょう。 - ご利用者様に側臥位になって頂き、陰部同様に濡らして石鹸をつけ洗い流す順序で臀部を洗います。
- 押し拭きをした後、必要な場合は看護師や医師より指示のあった軟膏(ワセリン等)を塗布します。
- 使用済みのオムツを除去し、新しいオムツと尿取りパッドを体の下に敷きます。
- オムツを装着し、衣服と寝具を整えて終了です。
陰部洗浄の手順
男性の場合
概ねの流れは、上記の女性の場合と同様です。
異なる部分は、
- 陰部洗浄の際に陰茎を持ち上げ、包皮を体幹側に寄せて洗浄します。
- 包皮の内側や陰嚢の裏側に便や恥垢がたまりやすい為、丁寧に洗浄しましょう。
- 皮膚が薄く痛みを感じやすい為、擦らないよう注意しましょう。
- 睾丸は圧迫しないように洗浄しましょう。
女性でも同様ですが、汚染しやすい部分の為、陰部洗浄は毎日実施します。
ただ手順を覚えるだけではなく、なぜそのようにするのか、しっかりと根拠を理解して実施すると、より質の高い介助を提供する事ができるようになります。
陰部洗浄の留意点は
陰部洗浄を実施するに当たって、いくつか留意しておく点があります。
羞恥や安全への配慮が必要であったり、観察できる機会が限られている分、陰部洗浄時に気が付いた事をしっかりと周りに情報共有することも大切になってきます。
具体的には次のポイントを押さえておくと良いでしょう。
陰部洗浄の倫理的配慮
介護を提供する時に大事なのは倫理観です。
ご利用者様に安心して介護を受けて頂く為には欠かせない部分ですね。
今回の場合、尊厳を守るという点で、事前説明をする事が挙げられます。
きちんと説明し、ご利用者様が納得の上で介護を受けられるようにしましょう。
プライバシー保護の観点では、個室のドアを閉める、ベット周りのカーテンを閉める、バスタオルを使用して出来るだけ露出部分を少なく実施する、等が挙げられます。
羞恥を伴う介助の為プライベート空間を確保し、手短にかつしっかりと介助することが大切です。
陰部洗浄の頻度
基本的に毎日実施します。
施設ごとに時間設定の差はありますが、日勤帯の午前中に行うことが多いようです。
ただし、石鹸を使用した陰部洗浄は、よほど汚染がひどい場合を除いて、1日1回にとどめましょう。
なぜなら、洗浄のし過ぎは過度に皮膚の油分を除去し、皮膚のバリア機構を壊してしまいます。
女性の場合は、膣から分泌される体液に自浄作用があるため、過度の洗浄で自浄作用が失われ、感染リスクを高めてしまう可能性もあります。
陰部洗浄後の排泄ケアは、軽い汚染の際は、お尻拭きや温タオルで押し拭きしたり、微温湯をかけるのみの簡単な介助で大丈夫です。
陰部洗浄の頻度についてはこちらの動画もご覧ください。
▼参考動画
陰部洗浄の報告
陰部洗浄を行った後は、情報共有の為に報告を行いましょう。
排泄管理シートでまとめている施設もあるので、その時はルールに準じて記載をしましょう。
報告の具体的な内容としては、排泄の有無・量・性状(尿や便が出てい無かったり、濁っている、赤みがつよいと言った事は、尿閉や膀胱炎、便秘による腹痛や嘔吐、痔出血などの異常を起こす、もしくは起こしている場合があります)、皮膚トラブルの有無、指示された軟膏を使用したかどうか、等を報告するといいでしょう。
異常を感じた場合はすぐ看護師に報告をしましょう。
陰部洗浄の禁忌
陰部洗浄を行う際に、褥瘡(床ずれ)などの傷がある場合は、必ず看護師と一緒に行うようにしてください。
創部処置は医療行為になり、観察項目や洗浄の仕方が異なる場合があります。
介助中に便秘で苦しさが出た時も、摘便は医療行為になる為、必ず看護師を呼んでやってもらうようにしましょう。
陰部洗浄介護と看護の違いは
介護士が行う陰部洗浄は、日常生活支援の一環として実施します。
医療行為が不要な方で、一人では排泄動作ができない方をサポートします。
看護師が行う陰部洗浄は、日常生活支援に加え、排便コントロールや臀部の創傷管理など医療的な面が含まれてきます。
便秘の際に浣腸や摘便技術を用いたり、尿がうまく出ない時に導尿などを実施し、苦痛症状を取り除く介助を行う事もあります。
浣腸や摘便、創傷処置などの医療行為を行う時、ご利用者様を支えたり、声をかけたりして、看護師のサポーターとして連携が取れるといいですね。
陰部洗浄の観察項目
陰部洗浄の際、注意して見ておくべき項目がいくつかあります。
陰部や臀部は普段は隠れている部分のため、気がつかないうちに異常が出ていた、なんて事も少なくありません。
観察項目を知っておくと、どの部分がいつもと違うのか、どのように違うのかを見つけやすくなります。
次のポイントを押さえておきましょう。
皮膚の状態
高齢者の皮膚は薄く弱くなっていることが多く、皮膚トラブルを起こしやすい状態です。
さらに、長時間の臥位や座位によっても仙骨部や臀部に発赤や表皮剥離ができる事があるため、しっかりと皮膚の状態を確認しましょう。
知らないうちに転倒、転落して紫斑や腫脹が出来ている場合もあります。
また、尿道留置カテーテルが入っている方は、尿道や鼠径部等のカテーテルの当たる部分に発赤や表皮剥離、痛みが出ることがあるので、注意して観察しましょう。
分泌物の状態
女性の場合、たまに透明や白色の帯下(おりもの)が出ることがあります。
帯下が出る事は問題ないのですが、臭気が強かったり、黄色の帯下が出る時は感染症や膣の炎症を起こしている可能性が高いので注意が必要です。
また、薄ピンク色の分泌物が出る場合は膣や子宮からの不正出血の可能性があります。
男性でも薄ピンク色のものが付着する場合は尿道からの出血の可能性があり、白色の分泌物が出る時は尿道に傷がつき、そこから感染を起こして膿が出てきている場合もあります。
下痢、失禁の有無
脱水の傾向があったり、何らかの原因で尿が出にくくなった時は、パッドに出ている尿量や排尿回数が少なくなるので要注意です。
逆に、失禁回数が多かったり、下痢をしていたりすると、皮膚が汚染されている時間が長くなります。
排泄物はややアルカリ性に傾く為、表皮を守っている弱酸性のバリアが中和されてしまい、肌荒れや感染を引き起こしやすくなります。
ご利用者様の体調をよく観察し異常の早期発見ができるようにしていきましょう。
まとめ
どうでしたか?
陰部洗浄という介助はご利用者様の状態を把握するためにとても重要な介助です。
排泄という行為に伴って汚染しやすく、トラブルも起こりやすい部分になるため、毎日のケアと観察を継続する事が大切です。
また、羞恥を感じるデリケートな介助だからこそ、より一層ご利用者様の立場に立って考え、安心できる介護を提供できるといいですね。
「わからない事がある」「いつもと違うな」と思う事があれば、遠慮せずに先輩や看護師に相談してみましょう。
あなたの気づきがご利用者様を守ることに繋がります。
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