認知症でも楽しいんだ!サッカーの応援を通してみんなが一つに!
高齢者はサッカーになんて興味がない?そう思い込んでいる方もいるかもしれません。
Jリーグのプロサッカーチームと高齢者の接点を創り上げる「Be supporters!(ビーサポーターズ)」(以下Beサポ!)というプロジェクトがあるのをご存じですか?
ビーサポは高齢者が介護施設でサッカー観戦に熱狂する。
そんな場を作り上げたサントリーウエルネス株式会社とサッカークラブの共同プロジェクトです。
介護施設のご利用者様がサッカー観戦を通じて心身の機能回復につなげていく。
今回は、そんなBeサポ!に参加した高齢者施設での取り組みについて、実施中の施設の方にお話を伺いました。
サッカー好きの介護職や、レクのネタに日々悩む介護職の方にはヒントになるかもしれません。
お話を伺った施設
社会福祉法人射水万葉会 天正寺サポートセンター
富山県富山市にある介護施設。事業開始は2014年。
小規模多機能型居宅介護(29名)、認知症対応型生活介護(9名)、認知症対応型通所介護(12名)に対応。この他、訪問介護、夜間対応型訪問介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、居宅介護支援、配食サービスにも対応している。
社会福祉法人全体では特養や在宅介護事業、保育園も運営しており、富山で幅広く介護事業にあたっている。
お話を伺った担当者
応援しているサッカークラブ
カターレ富山
富山県に本拠地をおくJリーグのサッカークラブ。現在J3。
Beサポ!ビーサポを始めたきっかけは思わぬところから
始めたきっかけはどんなことでしたか?
荒山さん:ご利用者様から「家族に迷惑をかけないで自分で稼いでいきたい」という声が出てきました。そんな中コロナとかも入ってきたので。じゃあ簡単なものでって言ってマスクにつけるマスクピアスっていう飾りを作り始めました。
高桑さん:いろんな種類があります。
荒山さん:それが……作ったのは良いけど、どこに持って行って誰が受け取ってくれるかってなって、マスクピアスの販売先で悩んでいた時にちょうど、知り合い経由でこのBeサポ!の話がでてきて。
サッカー観戦なら人もいそうだし、ここにお願いしたらマスクピアス配っても怒られないかな?って、そんな感じのノリでした。
マスクピアスがきっかけとは何がきっかけになるかわかりませんね。
荒山さん:最初は「Jリーグの人ってばあちゃん達を相手にしてくれるの?」とか、「サントリーウエルネスって大きい会社だけど本当に一緒にやるの?」って介護職員みんなで色々と言ってたんですけど。
でも皆さんのおかげで、はじめてみたら色々と繋がって、色んな化学反応があって、今ではすっかり施設がサッカー一色です。
荒山さん:最初はマスクにピアスを付けるだけの話だったんですけどね。
気がついたら職員もご利用者様もみんな、Beサポ!に参加していて。
みんな(選手の)推しもいますよ。推しのためにチラシまで作っています。チラシの後ろにカターレの応援メッセージを書くんです。
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ケアきょう求人・転職の無料相談サッカー観戦で起きたご利用者様の変化
ユニフォームでを着て激変
介護施設でご利用者様がまったく関心がなかったサッカー観戦をする。どのような変化がありましたか?
荒山さん:ご利用者様の参加は、職員が熱く「これしましょう!」じゃなくて、成り行きに任せる感じでした。
自然に任せてたら、ご利用者様同士で(サッカー観戦の際に)ユニフォームを着せあいされたりね。ちょっと見守ると言うか。時間をおいてと言うか。
あるご利用者様なんですが、昔仕事するとき制服とか着てらしたんですかね。最初は冗談半分でユニフォームを「着てみます?」って冗談半分で言ったら「着る」って(笑)
ユニフォームを着たら、なんかシャキッとするんですかね。昔の仕事モードで。
ユニフォームから始まって「お仕事、お仕事」っておっしゃるんです。お家で夫から「何もできなくなった」って、言われたことでしんどくなってた認知症のご利用者様が、ここだと仕切って仕事できる、みたいな感じで。
レビー小体型認知症のご利用者様
心に残るご利用者様はいらっしゃいますか。
荒山さん:何人かおられますけどね、そうですね。
レビー小体型(認知症)で、犬の死骸が10匹くらい転がってて怖くて寝れないとか、自宅で暮らせないとか言ってた人が、落ち着いて来られたんです。
推しの(サッカー選手の)写真が貼ってあったら、ベッドで普通に自宅で寝られるようになったそうです。今は週に何回かの通いで済むくらいに落ち着いてきました。Beサポ!に参加する中で要介護度が変わるとか、そういったことにもなってきますね。効果あるのかなって思ってます。
この方は本当になんか、シャキッとしてこられて。
以前はほんと、ご家族の関係もあまり良くなかったんです。今はカターレ富山の話でご家族との会話も弾むようになられたし、家族関係も本当に改善してらっしゃるんですよね。
血圧が落ち着いたご利用者様
荒山さん:もう一人、「もういっそ死んでしまいたい」なんていうおじいちゃんがいらっしゃいました。
「もう嫌だ。」だとか「もうどっかに消えて無くなりたい」みたいな事ばっかりおっしゃっていて。病院に行っても「もうやだー!」って赤ちゃんみたいにひっくり返るんです。ご家族も病院に連れて行くのにも苦労するという状態で。
昔はみんなをまとめるようなお仕事をされていたそうで、いつの間にか自分が施設内のカターレ応援団長みたいになって率先してくださるようになりました。元々は血圧が高くて、救急搬送もしていましたがそれも今は落ち着きました。
サッカー観戦で血圧が落ち着かれた。
荒山さん:満足感からなのか、心地よい疲れというか、そういうのがあるのかなって思ってます。
血圧が高い人に応援させたら、興奮してもっと血圧上がるんじゃないかって心配もありますよね。
試合の時は興奮して、タオル振ったりとかうちわ振ってるんだけども、試合のある日は満足して、ほんとにぐっすり眠るんです。
荒山さん:おじいちゃん、おばあちゃんは、自分のとこのチームが勝ってね、推しの選手が点数入れたらもうドヤ顔です。
その日は、もうぐっすりみんな爆睡で。そういった効果もBeサポ!にはありますよね。
応援は楽しいリハビリ!?ケアプランへの書き方は?
施設に導入するに当たって、ケアプランには入れてるんですか?
介護職はみんなレクに困ってるから、他の施設でも、サッカーを観戦して色々盛り上がる。それでレクが成立するなら参考になりそうですが……でもケアプランにどうやって入ってるのかが気になります。
高桑さん:サントリーウエルネスさんが簡単に応援に参加できるプログラムを開発してくれて、それを参考にしたのですが、実際に応援してみたら、勝手にタオル回すんですよ。点数入ればタオル回すし、嬉しくて喜ぶし立ち上がるしって、それってリハビリ(笑)
高桑さん:よく言うのが、気持ちが、心が動けば体も動くっていう。
単に、「リハビリしてください。手あげます。」では中々挙げないですけど、気持ちが入ってれば、本当に喜んで手をあげたりします。
生活リハビリって中には組み込まれるのかな、と思います。
荒山さん:そうですね。ただ体操してやりましょうって言っても、みんなしないですよね。
「みんなで体操しましょう」って言ってもおじいちゃん達なんか全然。なんでしなきゃならないのって感じだったりしますね。
だけど、もうサッカーの応援だったらね。脳梗塞のあとの後遺症で、もう言葉が出ないからって方がいて。家族さんも「お父さん全然喋らない人だから。」って言ってたのに、タオル振ってなんか叫んどったみたいな感じとか。そういうのもあるので、いいのかなって。
笑い
荒山さん:選手が手を挙げている写真があって、点が入ったらその写真にハイタッチしてみたりね。
本当に決められてトレーニングとか、リハビリだったら続かないかもしれないけど、楽しみがあったら続きます。
荒山さん:なので、「スタジアム行くのに、階段登って歩けるようにしましょう」みたいな感じです。ケアプランが「スタジアムに行きたい」となったら、じゃあどうするかってことで。下肢筋力をもうちょっとつけましょうとか。
うちの施設は、選手達の顔をバンバン廊下に貼ってあるので。それ見ながら推しをめざして歩く。で、おばあちゃんに「ちゅーしたらダメよ!」みたいな。
全員が全員ケアプランに入れているわけではないですが、そういったご利用者様もいます。
Beサポ!を始めるまでに大変だったこと
今までは施設に導入してよかったお話を伺ったんですけど、大変なことや苦労したことがあれば教えて頂きたいです。
荒山さん:それこそ、最初はプロジェクターを持ってきて見ようかって考えたんです。パブリックビューイングみたく盛大なことしなきゃなんないのかなと思って、それはちょっと毎回は大変だよねという話になって。
もう、ゆるゆるやればいいよねって。パソコンとテレビをつなぐだけなんですよ。「この時間来たらカターレだから入れるよー。」ってみんなで見てという感じです。
ほんとに忙しい時間に無理してみんなで見る必要もないし。
ただ、忙しい時間でも映像を流してたらご利用者さんが見てて、「あらー、今点数入ったね」とか、近くにいる職員が反応したりとか。そういう活用の仕方もできますしね。
あとは勝ったから、ケーキ食べながらみんなでお祝いしようよ、という感じで。
高桑さんはいかがでしょうか。管理職の立場で導入にあたって悩まれたのではないでしょうか。
高桑さん:イベントとしてやるのか、日常としてやるのかってのが、いつも迷っているところです。
イベントとして盛り上がる。これもいい事なんですよ。
で、日常的にもね。どんな職員でもスタートボタンを押して、映像が自然と流れてる。それを見てみんなで応援してる。これもいいことなんで、どっちがいいのかな、と。
持続するためにはどうすればいいのかなと考えてます。
持続が一番大事っておしゃられてたんですけど、高桑さんの中で持続が一番大事と思われたのは、何か理由がありますか?
高桑さん:これだけ利用者さんが喜んでいるものを、一過性に終わらせたくないっていうのが一番大きいんですよ。どうやって、この方々を常に喜ばせられるのかって。
なるほど。なるほど。
荒山さん:そうですね。
去年はオリンピックとかもあって夏の(Jリーグの)中断期間が結構あってね。そしたらご利用者様がもうほんとに歩行状態も悪くなっちゃって。「どうしてこの人たちはもう、あんだけ体調よくなっとったのに」って感じ。ほんとにそういうのがあったんで。
高桑さん:利用者さんも喜ぶし、職員も喜ぶんですよ。で、双方に喜ぶんで「何かしたい、何かしたい。」で盛り上がって、施設がほんとに一体化した感じ。
このコロナで繋がりが弱かったんですけど、職員と利用者さんはもちろん、クラブや選手やサントリーウエルネスさん、行政の方など、色々な人たちと一つの方向を見れたってのはすごい大きいな、と思いました。
他の施設とも繋がりました。家族さんも、迎えに来た時にね。「こないだの試合どうだった?」とか気にかけてくれたりして。職員と利用者さん、周りの家族、地域とだんだんくっついていったみたいな感じで。それが成果として出たんで、実際に。
施設として、他の事業所と繋がることって本当になくて。あっちはああだから、こっちはこうだからって感じだったんですけど。それが同じ方向向いて繋がっていくっていう。自分はそれすごい感動しましたね。前はなかったと思って。
地域を巻き込む形になったんですね。
高桑さん:本当はもっと、できることはたくさんあると思うんですけど。
今、利用者さんはスタジアム応援に行きたいっていう新たな思いが出てきたし。
私はスタジアムに応援にいけない子供達をここに連れてきて、みんなで応援するっていうのをやりたくて。地域の溜まり場じゃないですけど。元々野球をやってたんですけど、子供の頃は親が仕事でスタジアムとか野球場に中々行けなくて。みんなが野球場に行ってるのにって思いながら行けなかった。
同じような子がいるんじゃないかって思いまして、そういう人たちを集めてうちのご利用者様と職員と一緒に見れればいいなって。それも繋がりのうちの一つなのかなと感じます。
介護職の皆様にメッセージ
荒山さん:サッカーは結構単純、と言ったらおかしいですけど。ルールとかも全然わかんないんですけど、ゴールに向かって一所懸命走ってそこにね、蹴って入ったらみんなワー!でしょ?
バスケットボールはゴールしてまたすぐこっちに戻っていくから、たぶん高齢者はみんなついていけないというか。サッカーはゴールしたらポーズしたりするので分かりやすいです。
職員も最初はみんなブーブー言ってて、「サッカーなんか俺、野球しかしたないのに、なんで見んな(いけないのか)」みたいな。でも、試合が終わる頃には「惜しかった!」とか「もうちょっとだったのに。」とか言って職員も楽しんでいて。
高桑さん:自分はほんとに、カターレ富山の青いタオル一本とテレビがあれば、それでもう始まるよって言いたいかな。かしこまらなくて良いよ。っていう感じですね。
他の施設に勧める時には、タオル持って日頃見とるテレビでカターレの試合見てみたらどうかねって。必ずそれを言ってますね。緩く入ってくってのは。
あと、Beサポ!だけに限らないのですが、誰かお節介役じゃないですけど、うちで言うたら荒山さんになるんですけど、そういう人を見つけるっていうのが大事なのかなって。(笑)
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