介護福祉士国家試験のパート合格制度ってどうなの?制度の概要や賛否の声を紹介

資格取得
2024/09/17

厚生労働省が「介護福祉士国家試験のパート合格制度」の導入を検討しており、介護業界ではさまざまな意見が飛び交っています。

介護福祉士国家試験のパート合格制度ってなに?
資格の価値が下がるのでは?
パート合格制度を導入するメリットは?

介護福祉士国家試験のパート合格制度は、介護業界が抱える人材不足やサービスの質の担保など、さまざまな課題を解決するためのひとつのきっかけとして、厚生労働省が検討している取り組みです。

本記事では、介護福祉士国家試験のパート合格制度の概要や制度導入を検討している背景、制度導入のメリットやデメリットを紹介します。

介護福祉士国家試験のパート合格制度について知りたい方は、ぜひ本記事を参考にしてください。

介護福祉士国家試験のパート合格制度とは?

介護福祉士国家試験の【パート合格制度】とは
13ある試験科目を3つのパートに分け、合格基準を満たしたパートについては、翌年以降受験する場合に一定期間免除される制度です。

制度の詳しい内容については、厚生労働省により検討会が継続されており、2025年度からの導入が予定されています。

介護福祉士国家試験のパート合格制度の主な概要は、以下のとおりです。

  • 国家試験13科目を3つのパートに分割しパートごとに合否を判定する
  • 合格したパートは次回受験は免除される
  • 不合格だったパートは次回以降に再受験できる
  • 合格したパートは合格後2年間は受験が免除される
  • 合格基準は各パートの平均得点に基づき設定される
  • 全ての科目群で得点する必要がある(従来と同じ)

制度の開始スケジュールについては、2026年(第38回)に試験からの導入を予定しており、2027年の試験から合格したパートの受験が免除されます。

概要やスケジュールはあくまで現時点(2024年9月)での検討事項なので、今後変更や追加事項等がある可能性はあるでしょう。

参考:介護福祉士国家試験パート合格の導入に関する意見書|厚生労働省

介護福祉士国家試験のパート合格制度導入を検討している背景

介護福祉士国家試験のパート合格制度導入の検討に至ったもっとも大きな要因は、受験者数の激減です。

以下は、直近10年間の介護福祉士国家試験の受験者数の推移です。

受験年 受験者数
2015年 153,808人
2016年 152,573人
2017年 76,323人
2018年 92,654人
2019年 94,610人
2020年 84,032人
2021年 84,483人
2022年 83,082人
2023年 79,151人
2024年 74,595人

参考:介護福祉士国家試験の受験者・合格者の推移|厚生労働省

2017年に受験者数が激減しているのは、その年から受験資格が変更になり「実務者研修の修了」が義務付けられたことが原因と考えられるでしょう。

その後も右肩下がりに受験者数は減っており、人材不足の加速化が不安視されています。

受験資格の変更だけでなく、学習時間の確保が難しいことや、不合格だった場合の次年度までの学習負担などが再受験につながっていないのかもしれません。

実際に、介護福祉士国家試験に複数回チャレンジしたものの、合格できずに資格取得を諦めた方もいます。

パート合格制度は、少しでも介護福祉士を受験しやすくするための取り組みであり、人材不足改善のきっかけになってほしいという希望も込められているでしょう。

介護福祉士国家試験パート合格の導入に関する検討会の概要

厚生労働省は、2026年からの制度導入を目指し「介護福祉士国家試験パート合格の導入に関する検討会」を継続的に行っています。

その中で、以下のような意見が挙げられており、本格的な制度導入に向けた改善が必要と言えるでしょう。

  • 介護福祉士の知識・技能等の質の水準を下げないことが重要であり大前提と言える
  • パート合格制度を外国人受験者に限定すべきではない
  • 日本人や外国人など国籍に限らず資格取得の機会を増やすこと大切である
  • 働きながら資格取得を目指す受験者のモチベーション向上が期待できる
  • 合格しやすい仕組みであると受け取られる可能性がある
  • 介護福祉士国家資格の社会的評価への影響を懸念する
  • パート合格制度導入による受験者数の増加について評価の仕組みも検討しておく

パートごとに合格できるため、一見資格を取得しやすく介護福祉士の価値が下がるように思われますが、パートごとに独立して合否判定をするため、資格の価値は担保できるという意見が出ています。

またパート合格の有効期限を2年間に限定することで、次年度の受験者数を確保する狙いもあるでしょう。

参考:介護福祉士国家試験パート合格の導入に関する検討会|厚生労働省

介護福祉士国家試験のパート合格制度導入のメリット

介護福祉士国家試験のパート合格制度導入のメリットは、以下の3つです。

  • 受験者の学習負担が軽減される
  • 資格取得のハードルが下がり人材不足の緩和につながる
  • 外国人労働者の受験促進につながる

それぞれ具体的な内容を見ていきましょう。

受験者の学習負担が軽減される

従来の介護福祉士国家試験の合格基準は、合格点に達しており各科目で得点があることが条件でした。

そのため、一発で合格しなければならず、万が一不合格で再受験をする場合に再度1年間の試験勉強が大きな負担となっていました。

介護福祉士国家試験のパート合格制度が導入されれば、たとえ不合格でも合格したパート部分の勉強は次年度免除されるため、学習負担が軽減される効果が期待できます。

資格取得のハードルが下がり人材不足の緩和につながる

介護福祉士国家試験のパート合格制度が導入されると、一発合格しなくてもパート別に合格することで資格取得できるため、受験する際のハードルが下がり受験者数の増加につながるかもしれません。

受験者数が増えればその分合格者数も増え、介護のスペシャリストである介護福祉士の割合も上がります。

また今回の取り組みで、介護福祉士の受験者数が増加するだけでは、人材不足の根本的な解決にはなりません。
資格取得のハードルは下がっても、資格の価値自体は向上させて、待遇面の改善も必要になってくるでしょう。

外国人労働者の受験促進につながる

介護福祉士の国家問題は専門用語も多く、日本語を母国語としない外国人にとって一発合格するのは難しいのが現実です。

介護福祉士国家試験のパート合格制度が導入されて、3年を目処に資格取得を目指せば、外国人にとって大きな負担だった学習を分散できます

これまでも多くの外国人が介護福祉士を目指して来日していますが、介護のトップ資格である介護福祉士の取得に至っていないケースも多く見られます。

貴重な外国人の労働意欲を促進するためにも、介護福祉士国家試験のパート合格制度は重要な役割を果たしていくでしょう。

介護福祉士国家試験のパート合格制度導入のデメリット

一方、介護福祉士国家試験のパート合格制度導入のデメリットは、以下のようなことが挙げられます。

  • 介護福祉士の価値が下がる
  • 試験の手続きが複雑化しコストが増加する
  • 介護福祉士資格保有者の仕事の質が下がる

メリットと照らし合わせながら、制度の概要を理解しておきましょう。

介護福祉士の価値が下がる

介護福祉士国家試験のパート合格制度を導入することで、合格しやすくなるメリットがある反面、資格自体の価値が下がるのではという意見が検討会でも挙がっています。

当然、パート合格制度導入後と導入前では、資格取得のハードルは異なるでしょう。

たとえパート合格制度が導入されたとしても、出題される問題の難易度が下がるわけではないため、一定の知識やスキルがあることの証明に変わりはありません。

ただ世間的には、パート合格制度導入=資格の価値が下がるといったイメージは少なからずついてくるでしょう。

試験の手続きが複雑化しコストが増加する

パート合格制度を導入すれば、その分パート合格した方のデータや名簿などを管理する手間が増えるため、運用コストが増加する可能性があるでしょう。

業界として受験者数が増えることは嬉しいことですが、パート合格制度が適用される方が多ければ多いほど、管理業務は複雑化し、人件費や運用コストなどの負担も増えることが予想されます。

新しい制度を導入することはポジティブな取り組みですが、管理システムの導入や仕組みのシンプル化といった事前準備を、確実に行うことが大切です。

介護福祉士資格保有者の仕事の質が下がる

介護福祉士国家試験のパート合格制度を導入することで、より多くの人が介護福祉士の資格を持てるようになるでしょう。

介護福祉士の資格保有者が増えることはプラス要素ですが、資格取得のハードルが下がることで資格取得者の仕事の質が下がることが懸念されています。

介護のスペシャリストである介護福祉士の資格が、誰でも取れる価値の低い資格にならないよう、パート合格制度導入に伴う出題問題の再検討といった取り組みが重要になってくるでしょう。

介護福祉士国家試験のパート合格制度導入に対する賛否の声

介護福祉士国家試験のパート合格制度導入に対して、以下のような賛否の声が挙がっています。

  • 介護福祉士の価値が下がる
  • 介護福祉士の価値は変わらない
  • 他の資格も同じ条件ならいい
  • 介護職に資格は必要なのか疑問
  • そもそも待遇面の改善が必要

なおケアきょうがXで行ったアンケートでは、介護福祉士国家試験のパート合格制度導入に対する賛否は以下のような割合でした。


ケアきょうがXで行ったアンケート結果をもとに、それぞれのリアルな声を見ていきましょう。

介護福祉士の価値が下がる

ケアきょうが行ったアンケートでは「介護福祉士の価値が下がるのでは?」といった、以下のような意見が寄せられました。

ただでさえ合格率高い資格なのに、さらに緩くして、質は保てと…そんな無茶な。

何でも大量生産した資格はろくな事になってないやん。

理系・文系の最たる資格の医師も弁護士でさえも、質は落ちまくりなのに。

今回のパート合格制度導入によって、資格取得のハードルが下がる反面、資格自体の価値が下がることは仕方ないことかもしれません。

それでも、介護福祉士の受験者数増加や介護業界の人材不足解消に向けた取り組みとしては、一定の効果があることを期待しましょう。

介護福祉士の価値は変わらない

一方で「介護福祉士の価値は変わらない」といった、以下のような意見もありました。

介護福祉士の価値ですが、介護福祉士にしかできない介護はないんです。

言わば、介護始めましたって人と、技術は違っても、専売特許はないと言うか、対人介護の出来ることは同じ。

介護福祉士の資格は、医師や看護師などの業務独占資格とは異なり、あくまで介護福祉士を名乗るだけの名称独占資格です。

そのため、資格取得のハードルを下げて資格を取りやすくなったとしても、これまでと資格の価値は変わらないことがアンケート結果からわかります。

資格を持っていることが重要ではなく、介護現場で目の前のご利用者に対して、質の高い介護サービスを提供することが大切になってくるでしょう。

他の資格も同じ条件ならいい

介護や福祉の業界では、介護福祉士以外にもさまざまな資格があり、他の資格も同じ条件ならいいという意見が見られました。

精神保健福祉士も社会福祉士も同じ条件ならいいと思う。

今回のパート合格制度が導入される背景は、介護福祉士の受験者数の減少が関係しています。

精神保健福祉士や社会福祉士は、以下の表からもわかるように、受験者数の大きな減少は見られていません。

受験年 精神保健福祉士の受験者数 社会福祉士の受験者数
2020年 6,633人 39,629人
2021年 6,165人 35,287人
2022年 6,502人 34,563人
2023年 7,024人 36,974人
2024年 6,978人 34,539人

参考:精神保健福祉士国家試験の受験者・合格者の推移|厚生労働省参考:社会福祉士国家試験の受験者・合格者の推移|厚生労働省
やはりパート合格制度は、介護福祉士だからこそ必要な制度と言えるでしょう。

介護職に資格は必要なのか疑問

以下のような「介護職に資格は必要なのか?」といった、今回のパート合格制度導入とは少し違った視点で意見をくださった方もいます。

介護の資格って必要?と思ってます。

介護保険をたくさん使うのが厳しいご家庭で、家族で介護している人達がみんな介護士の知識を持っての介護かという事です。

実際、資格はあくまで就活での武器と雇用されてからの手当てと、国から事業者への補助金確保の手段と、現場からデスクワークに逃げる手段なだけですから。

介護福祉士はあくまで名称独占資格であり、介護職は介護福祉士の資格がないとできない仕事ではありません。

今回の制度導入は、介護福祉士の受験者数増加につなげ資格保有者を増やすことが狙いかもしれません。

しかし、介護福祉士が増えれば業界の人手不足やサービスの質向上につながるのかについては疑問が残るところです。

そもそも待遇面の改善が必要

介護福祉士の資格取得のハードルを下げて資格保有者を増やしたところで、そもそも待遇面の改善が伴わないと、業界の改善にはつながらないのではという意見もいただきました。

質が落ちるだけだし、これで介護職になりたい人が増えるわけではないと思います。
そもそもの待遇の問題ですね。
最底辺の待遇が介護保険開始以来ずっと続いていることが問題かと。

パート合格制度導入によって、介護福祉士資格の価値が下がることは仕方ないでしょう。

ただ、今介護業界に必要なことは、介護福祉士を増やすことよりも、国家資格である介護福祉士の待遇面を改善し、今いる人材を流出させないことが重要であると言えます。

介護福祉士国家試験に関するよくある質問

介護福祉士国家試験のパート合格制度をより理解するために、以下のような介護福祉士国家試験に関するよくある質問の回答を見ていきましょう。

介護福祉士国家試験を受けるにはどうすればいい?
介護福祉士国家試験の効果的な勉強法は?
介護福祉士の資格を取得するメリットは?

それぞれの質問にわかりやすく回答しているので、ぜひ参考にしてください。

介護福祉士国家試験を受けるにはどうすればいい?

以下の図のように、介護福祉士国家試験を受験するには、主に4つのルートがあります。

多くの人は無資格未経験から介護の仕事を始めるため「実務経験ルート」が該当するでしょう。
介護福祉士国家試験を受験するまでの手順は、以下のとおりです。

  1. 介護の実務経験を3年以上積む
  2. 実務者研修の資格を取得する
  3. 介護福祉士の国家試験を受験する

まずは、介護職としての実務経験を3年積まないと受験資格が得られないので、何よりも現場で働き続けることが必要です。

介護福祉士国家試験の効果的な勉強法は?

介護福祉士国家試験に向けたもっとも効果的な勉強法は「過去問の反復」で、理由は以下のとおりです。

  • 問題の傾向を理解できる
  • 本番と同じような問題に慣れる
  • 解説を見ることで多くの知識を学べる
  • スキマ時間でも気軽に勉強しやすい(一問一答の活用)

そのほかにも、ネット上の解説記事や動画などを使い、お金をかけずに学ぶこともできます。

ケアきょうYouTubeでは、定期的に介護福祉士国家試験に役立つ情報を発信しているので、そちらもあわせて活用いただくと効果的な学習ができるでしょう。

ケアきょうYouTubeにチャンネル登録する

介護福祉士の資格を取得するメリットは?

介護福祉士の資格を取得することで、以下のようなメリットが得られます。

  • 介護スキルがアップする
  • 転職で有利になる
  • キャリアアップに役立つ
  • 資格手当により給与がアップする
  • ご利用者やご家族から信頼してもらえる

以下のように厚生労働省が発表したデータによると、無資格や他の資格を持っている場合よりも、介護福祉士の資格を取得した後のほうが、給与がアップしています。

保有資格 平均給与
資格なし 268,680円
介護職員初任者研修 300,240円
実務者研修 302,430円
介護福祉士 331,080円

参考:令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果|厚生労働省
今よりも給与アップしたい方は、介護福祉士の資格取得は必須と言えるでしょう。

まとめ

介護福祉士国家試験のパート合格制度は、2026年からの導入が検討されており、資格取得のハードルが下がり受験者数が増加するといったメリットがあります。

その反面「資格の価値が下がるのでは?」といったネガティブな意見が上がっているのも実情です。

ケアきょうが行ったアンケートでも、さまざまな意見が寄せられました。

本記事を見た方にとっても、今回の制度導入が介護業界にとってプラスな取り組みになるのか、あらためて考えるきっかけになったのではないでしょうか。

介護福祉士国家試験のパート合格制度が政府の狙いどおり、介護福祉士の受験者数が増加し、業界の人手不足解消につながることを願うばかりです。

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