介護報酬改定のメリットとは?過去の改定から見えた介護現場への影響について解説

介護保険制度解説
2024/08/28

介護業界において重要な「介護報酬改定」について、以下のような疑問を持っている方は多いのではないでしょうか?

介護報酬改定とは?
介護報酬改定のメリットやデメリットは?
2024年の介護報酬改定のポイントは?

本記事では、介護報酬改定現場の介護職に与えるメリットやデメリットを中心に、介護報酬について深掘りしていきます。

これまでの介護報酬改定や、2024年の介護報酬改定のポイントにも触れながら、介護現場に与える影響についても紹介します。

介護報酬改定についてわかりやすく理解したい方は、ぜひ参考にしてください。

介護報酬改定とは?

介護報酬改定とは、3年ごとに介護事業所への報酬を改定することです。
改定の目的は、主に以下の5つです。

  • 介護サービスの向上
  • ご利用者のQOL向上
  • 介護サービスの適切な提供
  • 介護職員の待遇改善
  • 介護保険制度の持続

介護報酬改定は介護職の給料にも大きく影響するため、現場で働く介護職は介護報酬の動向に注目しておくことが大切です。

また介護報酬改定では、報酬改定以外にも、サービス内容の見直しや変更が行われることもあります。

なお介護報酬の仕組みについては、以下の記事でわかりやすく解説しているので参考にしてください。

▼関連記事

介護報酬の仕組みとは?算定基準や計算方法などをわかりやすく解説

介護報酬改定これまでの改定率

実際にこれまでの介護報酬の改定率を見ながら、どのような変化をしているか確認しておきましょう。

改定年 改定率
2003年 −2.3%
2006年 −2.4%
2009年 3.0%
2012年 1.2%
2015年 −2.27%
2018年 0.54%
2021年 0.7%
2024年 1.59%

介護職への影響を考えると、2009年の3.0%改定を皮切りに処遇改善加算が拡充され、その後、介護職の給与は右肩上がりで推移しています。

該当年 平均給与(月給)
2009年 287,300円
2018年 317,540円

参考:平成21年度介護従事者処遇状況等調査結果|厚生労働省参考:令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果|厚生労働省

そのほかにも介護報酬が改定されることで、介護施設の収支や利用率、ご利用者の生活などに影響を及ぼします。

詳しくは、本記事内の「【項目別】介護報酬改定が及ぼす介護現場への影響とは?」を参考にしてください。

介護報酬改定による介護職へのメリット

介護報酬改定による介護職へのメリットは、以下の3つです。

  • 介護職員の賃金アップ
  • 転職によるキャリアアップのチャンス
  • モチベーションアップにもつながる

それぞれ詳しい内容を見ていきましょう。

介護職員の賃金アップ

介護報酬改定は、介護職の賃金アップに大きく影響します。
介護報酬の改定率が高く、介護職への処遇改善の割合が多い場合は、その分介護職の待遇は改善されることが期待されます。

最近では2022年10月に、臨時の介護報酬改定があり、介護職の給与を月額9,000円アップするという取り組みが実施されました。
続く2023年には、月額6,000円アップを実行し、介護報酬の改定とともに、介護職の給与は確実に上がっています。
参考:令和4年度介護報酬改定による処遇改善|厚生労働省

転職によるキャリアアップのチャンス

介護報酬改定によって介護職の処遇が改善されるタイミングで、給与形態を変更し採用に力を入れる企業が出てきます。
その際に、これまでの介護職経験を活かして転職すれば、給与アップをはじめとしたキャリアアップにつながるでしょう。

処遇改善は、加算されるためにいくつかの要件があり、必ずしもすべての介護事業所で実施されるわけではありません。
そのため、現在の職場で処遇改善が実施されない場合は、別の施設に転職して効果的に給与アップを図るほうがいい場合もあります。

モチベーションアップにもつながる

介護報酬改定により処遇が改善されれば、介護職のモチベーションアップにつながります。
介護業界では「やりがい」という言葉が先行しすぎて、働く上で重要な給与面を疎かにしてきた背景があります。

3年ごとに改定される介護報酬は、介護職の待遇改善に影響する重要なイベントです。
介護報酬改定は、処遇改善だけでなく職場の評価制度の見直しにも影響し、頑張れば給与アップにつながるという実感を持てるきっかけにもなるでしょう。

介護報酬改定による介護職へのデメリット

介護報酬改定による介護職へのデメリットは、以下の2つです。

  • 業務負担が増える可能性がある
  • 業務負担が必ずしも利益につながるとは限らない

それぞれ具体的な内容を見ていきましょう。

業務負担が増える可能性がある

介護報酬改定により、介護職の負担が増えることもあります。
たとえば、ICT化を進める上で不可欠なITツールの導入の際は、新しくツールの使い方を覚えなければいけません。
ITが苦手な人からすると、かなりのストレスに感じる場合もあるでしょう。

介護報酬改定によって業務が複雑になったり、新しい取り組みをする場合は「改定による変更内容の詳細」や「変更する理由」などを介護職一人ひとりが理解することが大切です。
一時的に時間が増えるといったことも予想されるため、職員間の助け合いも必要になってくるでしょう。

業務負担が必ずしも利益につながるとは限らない

介護報酬改定によって業務負担が増えても、それが必ずしも事業所の利益や介護職の待遇改善などにつながるとは限りません
なぜなら、介護報酬の改定率はアップしても、それ以上に物価高の影響が強く、利益が出ないことも考えられるからです。

また改定を機に職員の待遇が改善されたとしても、それ以上に介護サービスの向上を求められ、過度なプレッシャーを感じる人もいるでしょう。

また、事業所によっては介護報酬から発生する処遇改善加算を、適切に職員に還元していないケースもあります。

2024年介護報酬改定4つの注目ポイント

2024年介護報酬改定の注目ポイントは、以下の4つです。

  • 地域包括ケアシステムの推進
  • 自立支援への取り組み
  • 働きやすい職場づくり
  • 制度の安定性の確保

それぞれ詳しい内容を解説します。

2024年の介護報酬改定については、以下の記事にまとめているので合わせてご覧ください。

▼関連記事

【2024年最新】介護報酬改定について厚生労働省の資料をもとにわかりやすく解説

地域包括ケアシステムの推進

地域包括ケアシステムの推進」は、介護を必要とする方に対して切れ目のない介護サービスを提供することを目的としています。
改定の内容は、以下のとおりです。

  • 質の高い公正中立なケアマネジメント
  • 地域の実情に応じた柔軟かつ効率的な取り組み
  • 医療と介護の連携の推進
  • 看取りへの対応強化
  • 感染症や災害への対応力向上
  • 高齢者虐待防止の推進
  • 認知症の対応力向上
  • 福祉用具貸与・特定福祉用具販売の見直し

参考:令和6年度介護報酬改定に関する審議報告|厚生労働省

さらに、それぞれの地域の特性に合わせて効率的なサービス提供ができるよう、柔軟性を持たせることも大切です。

自立支援への取り組み

自立支援への取り組み」では、要介護の重度化防止も含めた、他職種間の連携やデータの活用などを推進しています。
改定の内容は、以下のようなことがあります。

  • リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の一体的取組等
  • 自立支援・重度化防止に係る取組の推進
  • LIFEを活用した質の高い介護

この中でもとくに重要なのは、介護的介護情報システムLIFEの活用です。
介護サービスの質を向上させるために、排泄支援や褥瘡マネジメントなどの評価項目が増えています。

働きやすい職場づくり

働きやすい職場づくり」では、質の高い介護サービスの効率的な提供により、介護人材の不足に対する取り組みが重要視されており、人員配置や勤務体制などもあわせて見直されます。

改定内容については、以下のとおりです。

  • 介護職員の処遇改善
  • 生産性の向上等を通じた働きやすい職場環境づくり
  • 効率的なサービス提供の推進

介護職の待遇を改善しながら、無駄のない効率的な介護サービスの提供を続けることで、働きやすい職場づくりを目指しています。

制度の安定性の確保

制度の安定性の確保」は、介護保険制度を全世代が安心して利用できるよう、安定的かつ継続的に制度を構築していくことが目的です。

具体的な改定内容は、以下のとおりです。

  • 評価の適正化・重点化
  • 報酬の整理・簡素化

主に基本報酬の見直しや各種加算の廃止など、介護報酬改定を機に制度全体の安定性を改善し、より将来性のある制度の構築を目指しています。

【項目別】介護報酬改定が及ぼす介護現場への影響とは?

介護報酬改定が及ぼす介護現場への影響について、2021年介護報酬改定をもとに、以下の項目ごとに解説します。

  • LIFE
  • 科学的介護推進体制加算
  • 感染症対策と業務継続等
  • 収支状況・利用率等
  • 特別養護老人ホームの収支や利用率変化の要因

わかりやすく要約しているので、ぜひ参考にしてください。

参考:全サービス共通項目および特別養護老人ホーム|WAM NET

LIFE

LIFEとは、一定の様式で入力したご利用者の状態やケア内容が、ネットを通じて厚生労働省へ送られ、分析された内容がフィードバックされる情報システムです。

参考:科学的介護情報システム(LIFE)について|厚生労働省

LIFEの普及により、なんとなく介護をしてきたこれまでのケアから、より科学的根拠に則った介護サービスを提供できます。

ただしシステムが複雑で、介護現場で活かしきれていないのが現状です。
さらなる普及のためにも、システムの使いやすさを高めることが必要です。

科学的介護推進体制加算

科学的介護推進体制加算は、LIFEを活用し厚生労働省からフィードバックを受けながら、根拠に則った介護を提供することで算定される加算を指します。

科学的介護推進体制加算(Ⅰ)の単位数
ご利用者1人につき40単位で、およそ400円の報酬が上乗せ

システムを覚えたり、従来と異なる視点で介護と向き合ったりするため、手間はかかりますが、介護サービスに質を向上させながら加算されるのは、魅力的と言えるでしょう。

感染症対策と業務継続等

感染症対策と業務継続等」では、2020年の新たな感染症の流行とともに、あらためて介護現場における感染症対策が重要視されています。

介護現場で行われた感染症対策に関する取り組みは、主に以下のとおりです。

  • 委員会の発足
  • 研修や訓練の実施
  • 感染症指針の再整備

また災害時における業務継続を図るために、厚生労働省のガイドラインを参考に計画書が策定され、緊急時の対応や施設の備蓄管理、地域連携などを見直す機会となっています。

収支状況・利用率等

厚生労働省の調査では、前年同時期比サービス活動収益・事業活動収益が、多くの施設で「横ばい」または「減少」と回答されています。

基本報酬が引き下げられた「介護療養型医療施設」では、66.7%の事業所が「減少」したという結果でした。

利用率に関しては、多くの入居型の施設では横ばいでしたが、通所介護においてはおよそ40%の事業所が、利用率が低下したと答えています。

介護報酬改定は、介護事業所の収支や利用率などにも大きく関わってくるでしょう。

特別養護老人ホームの収支や利用率変化の要因

では代表的な介護施設である特別養護老人ホームを例に、介護報酬改定による収支や利用率変化について見ていきましょう。

利用者一人当たりの収益が上昇した要因としては、介護報酬改定によるものが大部分を占めています。
一方で低下した要因は、感染症の流行や平均介護度の低下などがあります。

また前年同時期と比べて利用率が上昇した要因は、以下のような回答でした。

  • 退所後の空床に対する入所判定期間を短くした
  • 職員を充足し受入体制を整備した
  • 営業活動を強化した

一方で利用率低下の要因は、以下のとおりです。

  • 介護職員が不足していた
  • 新規受け入れに時間を要した
  • 入院や死亡が重なった

介護報酬改定以外にも、さまざまな要因が介護事業所の運営を揺るがし、介護職が働く環境にも影響を及ぼします。

介護報酬に重要な各種加算を算定しない理由

介護報酬改定では、さまざまな加算が追加されたり廃止されたりします。
介護施設で算定可能な加算は、以下のようなものがあります。

  • サービス提供体制強化加算
  • 口腔衛生管理加算
  • 栄養マネジメント強化加算
  • 自立支援促進加算
  • 排せつ支援加算
  • 褥瘡マネジメント加算
  • 看取り介護加算
  • 個別機能訓練加算
  • ADL維持等加算
  • 生活機能向上連携加算
  • 夜勤職員配置加算
  • 日常生活継続支援加算

このような加算を算定すれば、介護報酬の増加につながりますが、多くの事業所は以下のような理由で算定できていないのが現状です。

  • 算定要件が複雑でわかりにくい
  • かかる手間が加算額に見合わない
  • 必要性を感じていない

加算や算定要件の複雑さや手間は、今後の介護報酬改定において、改善を期待したいところです。

まとめ

介護報酬改定は、介護事業所の収支や利用率、介護サービスの質などに大きな影響を及ぼします。
介護報酬が上がれば介護事業所の財源が増え、介護職の待遇改善が期待できます。

一方で、介護報酬が低下すれば、事業所の運営に影響し、介護職の待遇悪化やサービスの質の低下などにつながる恐れもあるでしょう。

介護報酬改定はいいことばかりではなく、マイナスな面もあるからこそ、現場で働く介護職として3年に一度の介護報酬改定が自分達に及ぼす影響を知っておくことが大切です。

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