介護食のとろみ剤の使い過ぎは危険!?とろみ剤の正しい知識と注意点を解説
介護食に使われるとろみ剤は、嚥下障害がある方が水分を飲み込みやすくするために使うものです。
しかし、とろみ剤の使いすぎは、かえって飲み込みにくくしてしまい、さまざまな危険をともないます。
本記事では、とろみ剤の使い過ぎがなぜ危険なのかということと、とろみ剤の正しい使い方を解説していきます。
とろみ剤の使い過ぎはなぜ危険なのか?
とろみ剤は、嚥下障害がある方向けに水分にとろみを付けるものです。
しかし、ただとろみを付ければいいというわけではなく、利用者様にあった適切な量があります。
ここでは、とろみ剤の使いすぎによるリスクを紹介していくので、まずはなぜ危険であるかを理解しておきましょう。
とろみを付けても誤嚥の原因になる?
とろみをつけすぎると、水分の粘度が増すことで喉に貼り付きやすくなります。
この喉に食事が貼り付くことを咽頭残留といい、誤嚥の原因になり得ます。
本来、誤嚥を防ぐためのとろみ剤が、逆に誤嚥のリスクを高めてしまうことも知っておきましょう。
厚生労働省の2020年のデータによると、日本人の死亡原因第6位は誤嚥性肺炎となっています。
参考:厚生労働省「令和2年(2020) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」
とろみ剤の目的を理解しているか?
とろみ剤の目的は、嚥下障害がある方が食事する際、喉を通るスピードを遅くするためです。
もし、嚥下障害があるにもかかわらずとろみ剤を使用していないと、水分が通常のスピードで喉を通り、誤って肺に入るリスクがあります。
嚥下状態が正常であれば、咳き込んで肺に入ることを防止できますが、嚥下障害があると咳き込むこともできず、そのまま肺に水分が入ってしまいます。
では、とろみ剤をどのように使用すれば、飲み込みやすくなるのでしょうか。
一人一人に合ったとろみ剤の使い方とは?
介護現場では、以下のように3段階にとろみの量を設定することを推奨しています。
薄いとろみ | 中間のとろみ | 濃いとろみ | |
---|---|---|---|
とろみの状態 | ・スプーンを傾けるとすっと流れ落ちる ・フォークの歯の間から素早く流れ落ちる ・ストローで容易に吸うことができる |
・スプーンを傾けるととろとろと流れる ・フォークの歯の間からゆっくりと流れ落 ちる ・ストローで吸うのは抵抗がある |
・スプーンを傾けても,形状がある程度保 たれ、流れにくい ・ストローで容易に吸うことができる ・ストローで吸うのは抵抗がある |
参考:日本摂食・嚥下リハビリテーション学会「とろみの3段階」
利用者様がどの段階のとろみ量が適切なのか情報共有し、統一したとろみで提供することが重要です。
ちなみに、筆者が働く職場では上記3段階を、以下のように分類していました。
- 薄いとろみ:フレンチドレッシング状
- 中間のとろみ:とんかつソース状
- 濃いとろみ:ケチャップ状
身近なものに例えることで、職員間の情報共有もスムーズでした。
ぜひ参考にしてみてください。
とろみ剤で脱水の危険性がある?
とろみ剤を使用すると、水分補給の機会が減って脱水の原因となります。
なぜなら、普通の水分のような喉越しがなくドロドロしているため、美味しくないと感じ水分摂取に対して消極的になるからです。
とろみを付けたことで水分摂取が進まない利用者様の場合は、水分の種類を変えたり少し温めたりするなど、色々試してみましょう。
どうしてもとろみの付いた水分が飲めない場合は、他の方法を検討することも必要です。
介護職もとろみを体験するべき?
前述の脱水の原因として、美味しくなくなるということが挙げられました。
もし介護職で、とろみを付けた水分を飲んだことがない場合は、一度体験してみることをおすすめします。
おそらく多くの人が「美味しくない」「気持ち悪い」と感じるでしょう。
ここで大切なのは、嚥下障害のある利用者様は、とろみを付けた水分しか飲めないことを理解することです。
利用者様の気持ちを理解することで、とろみがあっても美味しく飲むにはどうしたらいいか等、さまざまな工夫を考えることにつながるでしょう。
1分で登録OK
ケアきょう求人・転職の無料相談とろみ剤の基礎知識を理解しよう
続いて、とろみ剤の基本的な知識を理解していきましょう。
- とろみ剤の原料は何か?
- とろみ剤の効果は?
- 食品によるとろみ具合の違いは?
などを解説していきます。
とろみを使用する際にも必要な知識なので、ぜひ参考にしてみてください。
とろみ剤は何でできている?
介護食のとろみ剤は、主にデンプン系や増粘多糖類のグアーガム系、増粘多糖類のキサンタンガム系が多くなっています。
それぞれの特徴は以下のとおりです。
とろみ剤の分類 | デンプン系 | グアガム系 | キサンタンガム系 |
---|---|---|---|
特徴 | ・とろみの付け始めが早い ・唾液や酵素の影響を受けやすい ・量が少ないととろみが付きにくい ・においが変わる |
・温度によってとろみにムラが出る ・少量でとろみが付きやすい ・量が多いと喉に付着しやすい ・時間が経つと変化する |
・透明感がある ・喉に付着しにくく飲み込みやすい ・味やにおいが少ない ・温度によってとろみにムラが出る ・時間が経つと変化しにくい |
とろみを付ける食材として片栗粉がありますが、片栗粉は冷めると水っぽくなりやすいことや、唾液と混ざるとサラサラになるので介護食には向いていません。
減塩効果も期待できる?
とろみ剤を使用すると減塩効果が期待できます。
なぜならとろみを付けることで、水分や食物が舌の上にとどまる時間が長くなり、味を濃く感じるという効果があるからです。
嚥下障害のある利用者様の中には、減塩食を召し上がっている方も少なくありません。
とろみを付けることで、誤嚥予防と減塩効果の2つのメリットがあり、一石二鳥と言えるでしょう。
食品によってとろみの付き方は異なる?
食品によってとろみの付き方は異なります。
例えば、水やお茶などはすぐにとろみが付きますが、味噌汁やジュース、牛乳などはとろみが付くまでに時間がかかります。
特に介護の現場でよく目にする、エンシュアなどの高カロリー飲料は、とろみが非常に付きにくくなっています。
そのため、時間を空けながらこまめに何度も混ぜないダマになって飲みにくくなるので注意が必要です。
正しいとろみ剤の付け方とは?
とろみ剤は正しい付け方をしないと、効果を最大限に発揮できません。
ここでは、とろみ剤の正しい付け方を紹介していきます。
またケアきょうYouTubeでも、とろみ剤の付け方を解説しているので参考にしてみてください。
▼参考動画
とろみ剤を混ぜるときは円を描いてはいけない
とろみ剤を混ぜるときは、スプーンやマドラーで円を描くのではなく、前後に動かすことで全体に均等に混ざりやすくなります。
円を描くようにグルグル混ぜると、真ん中にとろみ剤が集まりダマになりやすいので注意しましょう。
また、とろみ剤を入れてから混ぜるのではなく、混ぜてる状態でとろみ剤を入れると、上手く混ざります。
カロリーの高いものはダマになりやすい
前述で、食品によってとろみの付き方が異なるとお伝えしましたが、カロリーの高いものはダマになりやすいので注意しましょう。
ダマになりにくい方法は、以下の手順です。
- 必要なとろみ剤を一気に入れる(途中で追加しない)
- 最初に30秒ほど前後にしっかり混ぜる
- 1分ほど空けて再度30秒ほど混ぜる
- ③の手順を数回繰り返す
- 全体に均等にとろみが付き始めたら完成
とろみがダマになると、誤嚥の危険性が高くなるのでカロリーが高いものに関しては特に注意が必要です。
とろみ剤の追加投入は商品による
とろみ剤は商品によってはダマになりやすいものと、ダマになりにくいものがあります。
ほとんどのとろみ剤は、途中で追加するとダマになるため調整ができません。
しかし、商品によっては途中でとろみの調整ができるものもあります。
もし調整できないとろみ剤で追加したい場合は、新たに濃いとろみを作りそれを追加することでダマになりにくく調整が可能です。
調整はあくまで最終手段なので、事前にとろみ剤の量を決めておき、職員によってとろみにバラツキが出ないようにしましょう。
とろみ剤が合わない場合の対策
とろみ剤を使うと、どうしてもドロドロして飲みにくいという利用者様もいます。
そういった場合は、以下のような方法を検討しましょう。
- とろみ剤ではなくゼリーで水分摂取する
- ストローを使って水分摂取する
それでは、それぞれの具体例を紹介します。
ゼリーで代用できないか検討
とろみ付きの飲み物が合わない場合は、ゲル化剤を使用したゼリー状の食品の提供を検討しましょう。
ゼリーは、とろみに比べてドロドロ感がなくあっさりしているので、ゼリーのほうが飲みやすいと感じる方もいます。
実際に、とろみかゼリーに変更し「美味しい」と言われ、水分量が増加した事例もあります。
ただ、とろみに比べて飲み込みが早くなる可能性があるため、とろみからゼリーに変更する際は、言語聴覚士など専門職に相談することをおすすめします。
ストローによる飲水方法の検討
日本理学療法士協会が行った研究では、ストローでの飲水は誤嚥への防衛機制が働く方法であり、誤嚥を予防する働きがあると判断されました。
実際の介護施設でも、とろみの水分がどうしても飲みたくないという利用者様がいたため、専門職間でカンファレンスを実施し、ストローでとろみを付けずに水分提供を始めました。
すると、むせこむ等の誤嚥症状は見られず、利用者様本人も美味しいと言われ、水分摂取量が増加しました。
たださらなる嚥下状態の低下により、ストローを使用しても誤嚥する可能性もあるので、ストローを使えば大丈夫と過信するのはやめましょう。
とろみ剤のメリット・デメリット
ここまで解説したように、とろみ剤にはメリットとデメリットがあります。
あらためて、とろみ剤について整理して特徴を理解しておきましょう。
とろみ剤のメリット
とろみ剤のメリットは、以下のとおりです。
- 誤嚥性肺炎を予防できる
- 確実に水分摂取できる
- 一人一人に合わせて調整できる
誤嚥性肺炎を予防できるメリットを最大限に活かすためには、利用者様一人一人に合ったとろみで水分を提供することが大切です。
とろみ剤のメリットは、デメリットにもなるので、注意して活用していきましょう。
とろみ剤のデメリット
とろみ剤のデメリットは、以下のとおりです。
- 使い過ぎは誤嚥の危険がある
- 脱水の要因になる
メリットにある誤嚥性肺炎の予防は、適量を使用した場合であり、使い過ぎは誤嚥の危険性も高めます。
また水分摂取をサポートするはずが、とろみを付けることで飲みにくくなり脱水の原因となることも知っておきましょう。
まとめ
今回は、とろみ剤の使い過ぎによるリスクや、とろみ剤の正しい付け方などを解説してきました。
誤嚥を防止するためのとろみ剤が、逆に誤嚥を招く可能性があります。
なぜとろみ剤を使用するのか?利用者様一人一人に合ったとろみはどの程度か?など、とろみを使用する前に職員間でしっかりと話し合っておくことが大切です。
とろみ剤の正しい知識をあらためて学んでいただき、利用者様の安全のため活用していきましょう。
1分で登録OK
ケアきょう求人・転職の無料相談