サービス付き高齢者向け住宅の囲い込み問題とは?現状と課題について解説

介護保険制度解説
2023/11/23

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は高齢者住まい法の改正により、2011年から登録が開始された高齢者専用の賃貸住宅です。
介護と医療の連携により、高齢者が安心して暮らせる環境が整っており、株式会社から社会福祉法人までさまざまな団体が設立し、その数を増やしてきました。

参考:サービス付き高齢者向け住宅とは|健康長寿ネット

そんな中2020年に、サ高住を所管する自治体に読売新聞がアンケート調査を実施した際、約4割の事業者が囲い込みという不適切な行為をしていることがわかりました。

参考:高齢者住宅の入居者に過剰介護で「囲い込み」横行、自治体の4割が把握…読売調査|読売新聞オンライン

本記事では、サ高住で起こっている囲い込み問題の実態と課題について、現役介護職の筆者の考察を交えながら解説していきます。
サ高住の囲い込み問題について、考えるきっかけになれば幸いです。

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の囲い込みとは?

サービス付き高齢者住宅(サ高住)は、要介護度の低い高齢者を対象にしており、入居者が自立に近い状態で過ごすためのサービスを提供している施設です。

サ高住では、特養や介護付き有料老人ホームのように、介護サービスを提供していません
そのため、入居者に介護が必要になった場合は、外部の介護サービスを利用しなければいけません。

そのような仕組みを逆手にとって、サ高住では以下のような「囲い込み」が起きています。

サ高住に起きている「囲い込み」とは、入居者に対して併設する自社のサービスを過剰に提供し、過度な介護報酬をもらい不当に利益を得ることを指す

過剰なサービスのため、入居者によっては不要なサービスが提供されてるのが現状です。
その結果、余計な介護報酬がかかり、介護保険制度の財政を悪化させる原因にもなっています。

サ高住で囲い込みが起こる理由とは?

サ高住で囲い込みが起こる理由に、以下の3つが挙げられます。

  • 行政による指導が行き届いていない
  • 自社の介護サービスを提供できる
  • サービスの価格を自由に設定できる

サ高住の仕組みについてもわかる内容になっているので、ぜひ参考にしてみてください。

行政による指導が行き届いていない

行政による実地指導が行き届いていないことが、サ高住の囲い込みに気付けていない理由のひとつです。

サ高住のような介護サービスを提供している事業所は、行政による実地指導が行われることがあります。
指導内容については、以下のようなことをチェックします。

  • 身体拘束や虐待をしていないか
  • プランに沿ったサービスを提供しているか
  • 介護保険制度のルールに沿った運営をしているか
  • サービス内容を適切に記録に残しているか

簡単に言うと「適切な介護サービスを提供できているか」をチェックするもので、サービスの質を保つために非常に重要です。

しかし、サ高住の増加によって、すべての施設に実地指導が行き届いていないのが現状です。
そのため、サ高住の運営状況を十分に把握できず、「囲い込み」が起きやすくなっています。

なお「高齢者向け集合住宅併設事業所に対する実地指導の推進に関する調査研究事業」の報告書では、実地指導や苦情により、囲い込みをはじめとした事業所の課題を把握していることがわかっています。

参考:高齢者向け集合住宅併設事業所に対する実地指導の推進に関する調査研究事業 報告書|一般財団法人高齢者住宅財団

自社の介護サービスを提供できる

サ高住では、原則介護サービスを提供していないため、介護が必要な場合は、外部の介護サービスを利用する必要があります。
その際に、併設しているような自社の介護サービスを提供できることが、囲い込み問題につながっています。

サ高住の事業者は、入居者の了解を得られれば、利用する介護サービスを指定できるため、自社のサービスのみを提供し、囲い込むことで利益を得ているのが現状です。
一部の事業所では、サ高住自体の利用を低価格にして要介護度の高い入居者を集め、自社の介護サービスを提供し、囲い込みビジネスを行っています

要介護度が高い入居者を集めたほうが、介護報酬は高くなり事業者の利益も増える

また、この問題は先述の実地指導とも関係しており、「高齢者向け集合住宅併設事業所に対する実地指導の推進に関する調査研究事業」の報告書では、実地指導をする際に併設する法人内の事業所も同時に行っているかという問いに対し、56.3%と半数以上の自治体が行っていないという回答結果でした。

サービスの価格を自由に設定できる

サ高住では、提供するサービスの価格を自由に設定できることが、囲い込みを助長していると言えます。
たとえば、家賃や食費などの提供できる生活支援サービスの価格を下げて入居者を集め、自社の介護サービスを提供するといった形です。

原則介護サービスの提供ができないサ高住では、入居者を集められたとしても安定した利益を得られるわけではありません。
そのため、まずは入居してもらい、サ高住以外のサービスを提供して利益をあげることで経営を安定させているケースが多く見られます。

サービスの価格を一定にするという選択もあるでしょう。
しかし、人が集まらなければ最悪の場合、倒産する可能性もあります。
その結果、老人ホームに入居できない高齢者の行き場を奪ってしまうかもしれません。

囲い込みは適切な行為とは言えません。
しかし、囲い込みをしないと成り立たないサ高住があるのが現状です。
経営が不安定なサ高住に対しては、救済制度のような国の仕組み化が求められてくるでしょう。

サ高住で囲い込み問題に対する国の対策は?

厚生労働省が発表した「高齢者向け集合住宅併設事業所に対する実地指導の推進に関する調査研究事業」では、サ高住の入居者が在宅で介護を受けている人よりも介護サービスの利用料が多いという理由から、実地指導の強化を推進しています。

具体的な取り組みとしては、実地指導に関する費用を1自治体につき300万円まで補助するという内容です。(実施指導の数が多い場合は600万円まで補助)

参考:高齢者向け集合住宅関連事業所指導強化推進事業|厚生労働省

実地指導が強化されれば、囲い込みの早期発見につながる効果が期待できるでしょう。

また国は囲い込み発見のために、サ高住の入居者が利用したサービスの種類や回数などの情報を含んだ介護給付適正化システムの改善を試みています。
限度額の9割以上を使っている」といった条件で、問題のあるであろう介護計画を抽出し、囲い込みに協力しているような事業所を特定できるようにします。

サ高住の囲い込みの課題とは?

サ高住の囲い込みの課題とは、以下のとおりです。

  • 過剰介護で不要なサービスが提供されている
  • ケアプランの中立性が崩壊している
  • 囲い込みをしないと経営が成り立たない

課題を把握することで、具体的な対策を立てやすくなります。
それぞれの詳しい内容を見ていきましょう。

過剰介護で不要なサービスが提供されている

サ高住を運営する事業所は、少しでも利益を増やすことを目的に囲い込みを行っています。
そのため、入居者にとって必要でない介護サービスを、過剰に提供しているのが現状です。

過剰な介護サービスは、入居者の自己負担額が増えるだけでなく、入居者の残存能力を低下させたり、希望しないサービスによって生活の満足度を下げるリスクも考えられます。

本来は入居者の身体機能の維持や、理想の生活の実現が介護サービスの目的です。
しかし、事業所の利益が最優先になればなるほど、囲い込み問題はより悪化していくことが予想されます。

介護サービスは多ければいいというわけではありません
その方にとって必要な介護サービスなのか、自らもしくは家族が望んでいる選択なのかといったことを考え、サービス内容を決めていくことが大切です。

ケアプランの中立性が崩壊している

サ高住では、適切な介護サービスを提供したり、入居者の権利を守ったりするために、一人ひとりのケアプランが作成されます。
ケアプランは、入居者と事業所の関係を公平に保つために重要な要素です。

しかし、一部のサ高住では以下のような囲い込み問題が起きています。

  • 法人内サービスを利用するような案内をする
  • ケアマネと協働でプラン内容を操作する
  • 法人内サービスを強要する

このような行為は、入居者と事業所を対等な関係を保つケアプランの中立性を著しく崩壊させ、事業所の信頼を大きく下げることにもつながります。

ケアプランは本来、入居者の意志や希望が反映され、一人ひとりが理想の生活を実現するための計画書です。
囲い込みは、入居者がサービスを自由に選択できる権利を奪っているのと同じことで、絶対にあってはならないことです。

囲い込みをしないと経営が成り立たない

サ高住は原則介護サービスの提供はできません
そのため、入居者が増えても、基本的には家賃と生活支援サービス費用(食事や安否確認など)以外の収益はありません。

サ高住の経営を存続させるためにも、自社の介護サービスを提供し、利益を出す必要があります。
その結果、囲い込みをしないと事業所の経営が成り立たないという現状に至っています。

自社サービスを強要し、入居者がケアプラン内容を自由に選択できないことはあってはなりませんが、その方にとって必要なサービスであれば自社サービスを提供するのは問題ありません。
利益優先ではなく、入居者の意思を尊重した上で、自社のサービスを勧める程度にするのが適切です。

入居者が外部のサービスを利用すると、経営が成り立たない場合は、介護や医療サービスを提供できる施設として認定申請するという選択もできます。
その場合、特定施設入居者生活介護の認定を受けることになり、さまざまな介護サービス加算による収益アップも期待できます。

参考:特定施設入居者生活介護|厚生労働省

各事業所はサ高住の囲い込みにどう向き合っていく?

サ高住が自社のサービスを、入居者に提供することはまったく問題ありません。
外から見たら囲い込みに見えたとしても、入居者に必要なサービスを提供しているのであれば、適切なケアマネジメントと言えます。

サ高住の囲い込みで問題視されているのは、主に以下の2つです。

  • 入居者が自由に介護サービスを選択できているか
  • 入居者に必要なサービスが提供されているか

入居者が自由に介護サービスを選択できるよう、自社のサービスだけでなく外部のサービスも選べることを説明しておくことが大切です。

入居者からすると、自社のサービスを利用したほうが手続きもスムーズだったり、併設している場合は通いも楽だったりといったメリットがあります。
そのため、自社の介護サービスの質が保たれていれば、多くの入居者は利用してくれるでしょう。

実際にサ高住に住みながら、併設するデイサービスを利用し、入居者も家族も満足しているケースがあります。
外部のサービスを利用するよりも、通いや手続き面のストレスが少ないのは大きな魅力と言えます。

意図的な囲い込みではなく、入居者ごとに適切な介護サービスを提供し、安定した生活を支援できれば、入居者や家族からの評価が高まり、事業所全体の信頼アップにつながるでしょう。

サ高住の囲い込みについてはこちらの動画もご覧ください。

まとめ

サ高住の囲い込み問題に対して、国は対策を練っています。
しかし、ただ囲い込みをなくすだけでは物事の解決には至りません。
大切なのは、囲い込みで問題視されている以下の2つを解消できているかということです。

  • 入居者が自由に介護サービスを選択できていない
  • 入居者に必要なサービスが提供されていない

入居者が望んだサービスで、その方にとって必要なのが、自社の介護サービスであればまったく問題ないということです。
ただ単に、サ高住の入居者に対して、自社サービスばかりを提供していることが悪いわけではありません。

まずは入居者一人ひとりに対して、必要な介護サービスが提供されているかという点に注目してください。
その上で自社の介護サービスが適しているのであれば、積極的に利用してもらうことがベストな選択と言えるでしょう。

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