介護現場における個人情報保護マニュアルとは?作成方法や必要である理由を解説

業務支援
2023/07/22

介護現場における、個人情報保護マニュアルの作成方法や必要性を知りたい方は多いのではないでしょうか?
直接運営に携わっていない介護職の場合でも、個人情報保護の研修に参加したり、委員会活動として勉強会を開催したりすることもあるでしょう。

本記事では、個人情報保護マニュアルの作成方法をはじめ、介護現場で必要とされる個人情報に関する法律や規則についてわかりやすく解説します。
介護に携わり個人情報保護について学びたいという方は、ぜひ参考にしてみてください。

介護現場における個人情報とは?

介護現場において個人情報の保護は非常に重要です。
なぜなら利用者に関する多くの個人情報を管理しており、漏えいのリスクも高いからです。

介護に携わる方は、個人情報保護について以下のような必要事項を理解しておきましょう。

  • 利用者の膨大なデータの適切に管理
  • 個人情報の利用目的に関する利用者本人への通知
  • 第三者への情報提供には本人の同意が必要
  • 個人情報の開示請求がある場合の速やかな対応
  • 個人情報保護委員会への報告と本人への通知など

介護現場における個人情報保護については、以下の記事でより詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。

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介護現場で知っておくべき個人情報保護とは?介護職の視点からわかりやすく解説

介護現場の個人情報保護に関する法律や規則

介護現場での個人情報保護に関して、以下のような法律や規則があります。

  • 個人情報保護法
  • 個人情報取扱のためのガイダンス
  • 社会福祉士及び介護福祉士法
  • 施設ごとに設けられた運営基準

それぞれ詳しい内容を見ていきましょう。

個人情報保護法

個人情報保護法とは、2005年4月に個人情報の有用性に配慮しながら、個人の権利や利益を守ることを目的に施行された法律です。

参考:「個人情報保護法」をわかりやすく解説 個人情報の取扱いルールとは?|政府広報オンライン

個人情報とは、個人の生存に関する以下のような情報を指します。

個人情報とは
  • 氏名
  • 生年月日
  • 住所
  • 顔写真など

そのほか個人の身体に関するデータや、マイナンバーカードやパスポートなどの記載されている公的な番号も個人情報に該当します。

また、個人情報を取り扱う際には、以下の基本ルールを守らなければいけません。

  • 取得・利用:勝手に使わない!
  • 保管・管理:なくさない!漏らさない!
  • 提供:勝手に人に渡さない!
  • 開示請求等への対応:お問合せに対応!

以上のことを厳守し、個人の権利や利益を守ることが「個人情報保護法」の基本となります。

医療・介護関係事業者における個人情報の取扱いのためのガイダンス

こちらは厚生労働省が2017年4月に、医療や介護関係事業者に対して個人情報に関する適切な取り扱い方を示したものです。

ガイダンスの中には、個人情報の取り扱いについて介護事業者が留意する点や、実際の事例も踏まえながら解説されています。
より詳しい内容を知りたい方は、以下のガイダンスに目を通してみるといいでしょう。

参考:医療・介護関係事業者における 個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス|厚生労働省

社会福祉士及び介護福祉士法

社会福祉士及び介護福祉士法の中に、個人情報保護に関わる以下のような内容が明文化されています。

社会福祉士又は介護福祉士は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。
社会福祉士又は介護福祉士でなくなつた後においても、同様とする。

参考:社会福祉士及び介護福祉士法|厚生労働省

介護職はたとえ自分の家族や友人といった近い存在に対しても、業務上知り得た情報を伝えてはいけません
介護現場で得た情報を、介護サービス以外で利用したり、むやみに話したりしないようにしましょう。

施設ごとに設けられた運営基準

各介護施設の運営基準にも、個人情報保護に関する規定が盛り込まれています。
基本的には、個人情報保護法やガイダンス、社会福祉士及び介護福祉士法をもとに内容が決められています。

ただし、施設によって若干の違いはあるため、転職や異動など、職場が変わる場合は就業規則を必ず確認しておきましょう。

規則が厳しい施設の場合は、各居室にある利用者の氏名は個人情報にあたるという理由で、部屋番号のみを表示しているところもありました。

介護現場で個人情報保護マニュアルが必要な理由

介護現場で個人情報保護マニュアルが必要な理由は、以下の3つです。

  1. 利用者を守るため
  2. 介護職個人を守るため
  3. 事業所を守るため

どれも重要で欠かせない理由です。
それぞれ詳しい内容を見ていきましょう。

利用者を守るため

個人情報保護に関するルールを作りマニュアル化することは、利用者一人ひとりを守ることにつながります。
施設の場合は、外部に情報が漏れるリスクは少ないですが、訪問介護は直接利用者の自宅に伺うため、より注意して情報を管理しなければいけません。

たとえば利用者に関する情報を持ち運んでいる途中に、落としたりどこかに置き忘れる可能性が考えられます。
そのため、事前に個人情報を移動させる際の手順をマニュアル化しておくことで、情報が漏えいするリスクを下げられるでしょう。

介護職個人を守るため

個人情報保護に関するマニュアルは、利用者だけでなく介護職自身を守る上でも非常に重要です。
とくに最近ではSNSの普及により、何気なく投稿した動画が訴訟に発展する場合があります。

某大手飲食チェーン店は、迷惑動画をSNSに投稿した本人に多額の賠償金の支払いを命じたケースがありました。
(介護現場でも不適切な介護によって、同じような状況になることも考えられます)

参考:「スシロー」6700万円“ペロペロ動画”訴訟|Yahoo!ニュース

動画以外にも、悪気はないが職場の愚痴をSNS上で発信したことで、外部に漏らしてはいけない情報が漏れるというリスクにも配慮する必要があるでしょう。

事業所を守るため

利用者を守り介護職を守ることが、結果として事業所を守ることにつながります。
関わる全ての人と事業所を守るためには、個人情報保護マニュアルは必要不可欠です。
なぜなら、介護現場での個人情報漏えいは、管理方法のマニュアル化によって確実にリスクを下げられるからです。

また万が一漏えいした場合でも、対応方法がマニュアル化されて、迅速かつ丁寧に対処できれば、事業所の信頼ダウンを最小限に抑えられるでしょう。

介護現場の個人情報保護マニュアル作成方法

介護現場の個人情報保護マニュアル作成方法は、以下の手順で進めていきます。

  • 個人情報保護に関するルールを把握する
  • 4つの要素のバランスを考える
  • 個人情報保護マニュアルのひな形を作る

それぞれ詳しい内容を解説します。
ほとんどの介護事業所で応用できる方法なので、ぜひ参考にしてみてください。

個人情報保護に関するルールを把握する

まずは個人情報保護に関するルールが明確に示されている、以下2つの内容を理解しましょう。

  • 個人情報保護法
  • 個人情報取扱いのためのガイダンス

これらの2つの内容をまとめ、個人情報取扱のルールをわかりやすくすると、以下のポイントが挙げられます。

  • 適切な目的のためだけに利用する
  • 厳重に管理し漏えいを防ぐ
  • 第三者への提供は本人の許可を得る
  • 情報の開示や苦情に適切かつ迅速に対応する

以上のような基本的事項が理解できていれば、大きなトラブルに発展するリスクは低いでしょう。

4つの要素のバランスを考える

個人情報保護マニュアルを作るにあたっては、以下4つの要素のバランスが大切です。

  • 業務への著しい支障はないか
  • 従業員の業務量が極端に増えないか
  • サービスの低下につながらないか
  • 緊急時に機能するか

参考:個人情報取り扱いマニュアル|社会福祉法人 愛知育児院

個人情報を守ることは大切ですが、ルールを厳格化しすぎて業務量が増えたり、サービスが低下する場合は、マニュアルの見直しが必要になるでしょう。

個人情報保護マニュアルのひな形を作る

個人情報保護に関する法令や規則をもとに、マニュアルの雛形を作っていきましょう。

基本的には、個人情報保護法と個人情報取扱いのためのガイダンスを参考に、施設独自の運営基準を追記する形で作成します。

ひな形の具体例に関しては、以下の経済産業省が出している個人情報の取扱方針を参考にしてみてください。

参考:個人情報の取扱方針(ひな型)|経済産業省

うっかりミスが危険!介護現場で起こりやすい個人情報漏えいとは?

介護現場で起こりやすい個人情報漏えいには、以下のようなことがあります。

  • 利用者情報が記録されたUSBの紛失
  • ネットやSNSへの投稿
  • プライベートで外食中に利用者について会話
  • 個人情報に関する書類をそのまま廃棄
  • 自分の家族に何気なく利用者様のことを相談

それぞれの詳しい内容を見ていきましょう。

利用者情報が記録されたUSBの紛失

過去に名古屋の介護施設で、個人情報156件が記録されたUSBを紛失したという事例がありました。
具体的には、利用者や家族の氏名や生年月日、電話番号などの個人データが入っていました。

原因は、USBの保管場所に鍵をかけておらず、定期的な確認も怠っていたためです。
紛失後、捜索にあたりましたが結局見つからず、個人情報が漏えいしたままという結果となりました。

個人情報の漏えいは、介護施設の信頼を失う要因の一つです。
そのため、本記事でも紹介している「個人情報保護マニュアル」の作成と、職員への内容の周知が重要と言えるでしょう。

参考:介護施設入所者らの個人情報156件記録したUSBメモリを紛失|サイバーセキュリティ.com

ネットやSNSへの投稿

近年ネット技術の発展により、誰でも気軽に情報発信できるようになりました。
介護現場でも、SNSの投稿によって利用者の個人情報が漏えいしたケースが存在します。

個人でSNSを利用する場合は、会社の情報は発信しないことや、個人のスマホを使って職場の写真を撮影しないといった対策が重要です。

SNSやブログで情報発信をする場合は、会社のアカウントを作成した上で、利用者やその家族に対して、事前に写真の利用許可を得ておく必要があるでしょう。

プライベートで外食中に利用者について会話

会社の集まりで、食事や飲み会などに参加される方は多いのではないでしょうか?
その際に気をつけたほうがいいのは、仕事の話をしすぎないことです。
なぜなら、私たち介護職は利用者に関する個人情報を抱えており、何気なく放った一言が情報漏えいに繋がるかもしれないからです。

たとえば、近所のレストランで同僚と食事をしている際、何気なく利用者の名前や体調面などについて話したとします。
そこに、その利用者を知ってる近所の方がいた場合、どこの施設に入居しているかわかってしまいます。

利用者の家族が、近所の方には施設に入居していることを知られたくなかった場合、何気ない会話が個人情報漏えいとなります。
結果、利用者や家族の信頼を失うきっかけになるでしょう。

個人情報に関する書類をそのまま廃棄

事業所内で管理している書類を破棄する場合は、情報漏えいを防ぐため必ずシュレーダーにかけて捨てましょう
丸めて捨てれば外から見えないから大丈夫と思うかもしれませんが、開いてしまえば情報を確認できるため適切とは言えません。

また普段利用しているメモ帳を捨てる際も、こまかくちぎったり黒塗りにするなど、個人情報が漏れない配慮が必要です。
メモ帳は公式の書類ではありませんが、利用者の氏名や体調などの情報が含まれているため、れっきとした個人情報に該当します。

自分の家族に何気なく利用者のことを相談

たとえ自分の家族や親しい友人であっても、職場の知り得た情報を話してはいけません
これは、社会福祉士及び介護福祉士法の秘密保持義務からも明らかです。
しかし、仕事の相談をする中で、無意識に利用者の情報を伝えているかもしれません。

家族や友人に対して個人情報を漏らさないために、以下のことを意識するといいでしょう。

  • オンとオフの切り替えをする
  • 利用者の話をする場合は実名は出さない
  • 職場以外では極力仕事の話はしない

そのほか、仕事に対する愚痴から、利用者の情報漏えいにつながるかもしれません。
私の経験上、基本職場の話をプライベートではしないと決めることで、個人情報を漏らす恐れもなく過ごせます。

介護現場の個人情報保護マニュアルに関するよくある質問

介護現場の個人情報保護マニュアルに関するよくある質問は、以下のとおりです。

  • 個人情報保護マニュアルの作成は義務ですか?
  • 個人情報保護に関する研修は必須ですか?
  • 個人情報保護に関して必要な書類はありますか?

それぞれの質問にわかりやすく解説します。
ぜひ参考にしてみてください。

個人情報保護マニュアルの作成は義務ですか?

個人情報保護マニュアルの作成は義務ではありません。
しかし、すべての介護事業所は個人情報保護法を遵守しなければいけないと法令で規定されています。

個人情報の取扱いについては、法第3条において、「個人情報は、個人の人格尊重の理念の下に慎重に取り扱われるべきものである」とされていることを踏まえ、個人情報を 取り扱う全ての者は、その目的や様態を問わず、個人情報の性格と重要性を十分認識し、 その適正な取扱いを図らなければならない。

引用:医療・介護関係事業者における 個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス|厚生労働省

以上のことを踏まえると、個人情報保護法を守り、適切に情報をかにするためにも、個人情報保護マニュアルの作成は効果的と言えるでしょう。

個人情報保護に関する研修は必須ですか?

こちらもマニュアルの作成と同様に、必須ではありませんが実施することが望ましいです。
個人情報の適切な取扱いのためのガイダンスにも「必要に応じた教育訓練に係る便宜を図るよう努めなければならない」と明記されています。

そのため、定期的に個人情報に関する研修を行い、従業員が個人情報保護に関する知識を学べる環境づくりが大切です。
マニュアルの作成と合わせて、継続的に学べる環境が重要になってくるでしょう。

個人情報保護に関して必要な書類はありますか?

まずは個人情報に関する、以下の書類が必要です。

  • 個人情報に関する基本事項
  • 個人情報の利用目的

また、利用者と従業員に対して、それぞれ以下の書類にサインをしてもらいます。

  • 個人情報の使用に係る同意書(利用者用)
  • 個人情報に関する誓約書(従業員用)

介護職の方は、これらの書類が職場にあるか確認して読んでみるといいでしょう。
個人情報保護に関して、あらためて考えるきっかけになるかもしれません。

まとめ

個人情報保護マニュアルの作成は、介護現場の個人情報を適切に管理するために効果的です。
事業所で働く従業員全員が、個人情報保護に関する共通の認識を持っていないと、個人情報の漏えいを招いてしまうかもしれません。

介護職は日々、利用者やその家族の大切な情報を預かっているからこそ、徹底した情報の安全管理が必要です。
介護現場で働く方々は本記事を参考に、あらためて個人情報保護について考えてみてください。

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