認知症ケアをあきらめない!介護が楽になる髙口光子さんセミナー・中央法規出版コラボ

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2023/07/19

本記事は2023年6月8日(木)に、ケアきょうのYouTubeチャンネルで生配信されたセミナーの内容を記事にしたものです。

「どうしよう」「困った!」場面で役に立つ:認知症の人の心に届く、声のかけ方・接し方』(中央法規出版)を出版され、介護アドバイザーで元気がでる介護研究所の代表としても活躍されている髙口光子さんをお招きして、認知症の方へのコミュニケーション術をお聞きしています。

髙口さんもこれまでに、認知症対応で非常に悩んだ経験があります。
今回は、その経験から学んだ対応方法について、丁寧に伝えてくださった模様をお伝えします。

セミナー冒頭、まずは以前の動画でもご紹介した、髙口先生が認知症のおばあちゃんにお声かけしているシーンを振り返りました。

▼該当シーンはこちら

認知症ケアでびっくりしたときにどうすればいい?

認知症ケアではびっくりするような場面に遭遇することがあります。
そんなときに対応する介護職や家族の方々は「どうすればいいのか?」という疑問に対して、髙口先生にお答えいただきました。

ケアきょう向笠
ケアきょう向笠
目の前で服を脱いでリハパン一丁になるおばあちゃんがいて、夜中に別のおじいちゃんの部屋にもリハパン一丁でいてびっくりしました」というエピソードをいただいています。
高口先生
高口先生
何やってるの!?」と言いたくなるけれども、そうするとおばあちゃんはもっとびっくりしますし、どうしていいか分からなくなりますよね。でもびっくりしたということが大事で、それだけ印象に残っているということです。

当時の私のことを振り返ると、イライラしてる自分がいて、お年寄りの思わぬ行動を見ることでどうしていいか分からなくなる状況を繰り返していると、何のために介護しているか分からなくなるんですよ。

そのときに気づいたんです。私が怒っているとお年寄りも怒るし、私が疲れていると一緒に疲れた気持ちになってくれるんですよ。お年寄りをどうにかしようとするんじゃなくて、私が自分の心を整えることが大事だと分かりました。

ケアきょう向笠
ケアきょう向笠
続いてのエピソードは「認知症のおじいちゃんに帰りたいと言われ胸ぐらを掴まれたとき、どうしたらいいかわかりませんでした」といった内容です。
高口先生
高口先生
それは怖いですよね。そういうときはハッキリとおじいちゃんに向かって「私はあなたから胸ぐらを掴まれて怖いです」っていうのを言ってください。その後に、「おじいちゃん胸ぐら掴んで手が痛くない?」「私が悪いこと言ったかな?」とか、まずおじいちゃんが胸ぐらを掴んでることを聞いてあげましょう。最初はなかなか難しいですけど、徐々に言えるようになったらいいと思います。

大事なのは、びっくりした気持ちを否定しないことです。びっくりするのは当然で、その気持ちを否定すると介護はできません。私が今落ち着いてお年寄りに対応できるようになったのは、びっくりした気持ちや嫌悪感をそのままお年寄りにぶつけても、何一ついいことはなかったという体験を、何度も繰り返したからです。

びっくりした気持ちを一度自分のほうに向けて、命に関わる場面であれば大きな声で助けを求めればいいんだけど、命に関わる場面でなければ、取って付けてでも「どうされました?」と言ってみてください。するとさまざまな奇想天外な答えが返ってくると思います。それがきっかけになって、お年寄りとの関わりが広がっていきます。

認知症ケアの声かけが上達する5ステップとは?47事例で解説

本書には、認知症ケアの声かけが上達する5ステップが、実際に起こり得る47事例とともに書かれています。
分かりやすい5ステップと豊富な47事例は、認知症ケアに悩む介護職の大きな助けとなってくれるでしょう。
今回は一部分ですが、具体的な事例をもとに5ステップを解説していただきました。

高口先生
高口先生
まずは今回紹介する具体的な事例を見ていきましょう。本書の事例25『「お金を盗られた」と言って騒ぐ』という場面ですね。

チヅコさんがある日、「ここにあったお金がなくなっている。盗まれた。私は知っとる。お前が盗ったんだろう!」と言って、嫁(長男の妻)に盗みの疑いをかけました。施設の場合であれば、介護職の方に対して「盗みの疑いをかける」という状況ですね。ここで「なんでお義母さんのお金に私が手をつけるんですか?」とか「利用者さんのお金に職員が手をつけるなんてあるわけないじゃないですか?」と言って「いい加減にしてください!こんなんじゃあなたの介護はできません」とお嫁さん(施設であれば介護職)が部屋から出ていく場面です。

繰り返しますが、こういった状況で驚いていいし、嫌な気持ちになっていいし、怒っていいんです。むしろそんな自分を否定しないでください。これが介護が上手になるポイントの一つです。ただこの気持ちを直接お年寄りにぶつけるのはダメなんです。なぜなら、お年寄りの頭の中では実際にお金を盗られているからです。そこでこちらが怒りをぶつけても、お年寄りもさらに怒って、不穏と不穏のミルフィーユ状態になります。その後に「もういいです!あなたの介護はしません」と部屋を出ていくと、あなたはどんな気持ちになりますか?一生懸命介護をしてきた人ほど、嫌な気持ちになります。そうすると、今までの介護も嫌な体験になっちゃうんですね。まとめると、嫌な気持ちをお年寄りに直接ぶつけることはよくないそれによって介護をしている私こそが嫌な気持ちになると気付けると、介護が上手になるよってことです。

では今回の事例を5ステップに当てはめてみましょう。

  • ステップ1:傾聴(お金がなくなった事実を聞く)
    「お金がなくなった?それは大変!どうやってお金がないのに気がついたの?」
    ※ポイント:その人の目を見て聞いてみる
  • ステップ2:受容と共感(自分を整えるための手段)
    「さっきまであったから盗られたって思ったんだね。他に人がいないから、私が盗ったって思ったのね」
    「盗人と一緒にいたら腹が立つよね。捕まえて警察に差し出したくなるよね」
    ※ポイント:とにかく否定から入らない
  • ステップ3:繰り返す・ほめる(自分を受け入れてもらう)
    「おばあちゃんは何でも物事には白黒はっきりつけたい。スジの曲がったことが大嫌いな真っ直ぐな人だもんね」
    ※ポイント:身振り手振りを使って繰り返す
  • ステップ4:質問(お金から関心を逸らす)
    「いくつになってもそんな真っ直ぐな心でいられるのはどうしてですか?私も真っ直ぐでいられますかね?」
    ※ポイント:あなたを心配していますよと強調する
  • ステップ5:ケアへの声かけ(お願いをする)
    「おばあちゃんのように真っ直ぐな気持ちでいられるためには、どうしたらいいですか?私にも教えてください」
    ※ポイント:ケアへの声かけをお願いの形で伝える
高口先生
高口先生
認知症のお年寄りは、一番可愛くて頼りにしている人を犯人にすると言われています。介護職の場合は、担当の方や日頃から関わりの深い方が犯人にされやすいってことです。これは理屈ではなく、可愛いからこそ守ってあげたい、自分が優位に立ちたいという気持ちから、立場を逆転させるために一番可愛い人を犯人にしているんですね。

今回の事例で大切なのは、介護職がお金がなくなったという事実に目を向けるのではなく、お年寄りの正義感や真っ直ぐな心といった、性格や心情に関心を向けることです。それが、お年寄りのお金に対する関心を逸らすことにつながります。

著書『「どうしよう」「困った!」場面で役に立つ:認知症の人の心に届く、声のかけ方・接し方』(中央法規出版)の活用術とは?

実際に本書の内容を現場で活かすには、どのように活用すればいいのでしょうか?
その点について、著者である髙口先生に直接お聞きしました。

高口先生
高口先生
まず「そもそも認知症って何?」ってことを知りたい人は第1章の「認知症ケアの基本姿勢」を読んでください。認知症のお年寄りが、なんで思わぬ行動をしてしまうのかということが書かれています。
そして、そういった認知症のお年寄りに、どのように関わったらいいかが第2章の「声のかけ方・接し方 髙口流5ステップ」で書かれています。

1章と2章では、主に認知症ケアの理屈が書いてあるので、なんであんな行動をするのか?とか、私たち介護職はどういう対応をすればいいのか?とかを知りたい人は、1章と2章を読んでいただければいいと思います。

すでに介護現場で困っている人は、1章2章を読む暇がないので、第3章の「髙口流5ステップ47事例」を読んでください。そしてまずは事例を真似すればいいんですよ。いきなりお年寄りに心で寄り添うとか言っても、心なんてそんな簡単に寄り添えないですよ。まずは形から入って自分らしい介護を見つけていければ、心は後でついてきますからね。

あとは、あなたが困っていることは、他の職員もみんな困ってると思うんですよね。だから職員会議で、今一番困ってるお年寄りをテーマにして、そこで本の中から似たような事例を出して、読み合わせてみてください。すると、介護をしている中で何が悪いのかということが出てくるわけです。ただ職員それぞれの考えもあって、自分のしている介護が正しいと思っている人もいます。そんなときに「この本にはこんなことが書いてあるけどどうかな?」みたいな感じで、本をきっかけに介護の悪い点を知ってもらえればいいかなと思います。

視聴者からの質問回答

認知症ケアに悩む視聴者からの質問に対して、髙口先生の経験をもとに貴重な回答をいただきました。
本書の事例の中には、それぞれの課題を解決するヒントが含まれているので、そちらも参考にしてみてください。

質問①

「水分摂取量を増やしたいのですが声かけに苦戦しています。どうすればいいでしょうか?」
高口先生
高口先生
まず重要なのは「水分を摂取してもらう工夫をすること」ですね。たとえば、本人の好きな飲み物を提供してみることも方法の一つです。私が過去によくやったのは「ひとくち運動」っていうのがありました。具体的には、掃除やコール対応など、その方のお部屋に入るたびに。必ずお茶を一口飲んでもらうという方法です。そのほか、施設の色々なところで水分摂取できる環境を整えるといった工夫もできます。一気に水分摂取するのではなく、こまめに飲んでもらえる環境作りが大事になってきますね。

あと、認知症のお年寄りは、時間や場所など物の順序が分からなくなる分、心が研ぎ澄まされるんですね。そのため、「水を飲ませるぞ」という気持ちで職員が近づくと、「この人は私を心配しているんじゃなくて、水を飲ませるために来てるんだな」ということがわかるんですよね。なので、「あなたが脱水にならないか心配なんです」という気持ちで関わることもポイントになりますね。

参考:本書の事例11

質問②

「女性の職員にいやらしいことを言ったり誘ったりしてくるおじいちゃん。だんだん近寄れなくなっています…(これからどうすればいいでしょうか?)」
高口先生
高口先生
いやらしいことをされても認知症だから仕方ない…」という考えはダメですよ。嫌なことは我慢せず、身近な上司や先輩に相談することが大事です。実際に嫌なことをされたり言われた際は、その場でハッキリ「嫌です」と言っていいですよ。繰り返しになりますが、我慢したり抱え込んだりするのは絶対にやめましょう。利用者と介護職は、嫌なことは嫌と言える対等な関係でなければいけません

今回の質問の場合は、いやらしいことは嫌であることをはっきり伝えることで、その人がなぜそのような行動を取るのかを考えることができます。その場で実際にどのような対応をしたらいいのかについては、本の中に詳しく書いてありますので、ぜひ手にとってご覧ください。

参考:本書の事例21

質問③

「最近70代前半の若いご利用者さんが通い始め、世代が変わり今までの介護とは違うお声かけの時代が来た気がします。高口先生もそう感じたことはありませんか?」
高口先生
高口先生
そうですね。権利意識が高くなったり、情報量が多くなったことで、お年寄りが自分で調べて「こういうことだろ」と言われたりするようなことがあると思います。

あとは「私がお金を払ってアンタを雇ってるんだから、私の言う通りにすればいい」と言うお年寄りがいますよね。そういう人には「よくご存じですね〜」と伝え、けっして否定から入らないことが大事です。

このように、自分の権威性を示そうとするお年寄りには「さすがですね〜。よくご存じですね〜。どちらでそれをお知りになったんですか?」と伝えながら「介護は介護保険と税金で賄われているんです。日本全国の国民から頂いている税金でやっているお仕事ですので、これからも心を込めてやらしていただきます」みたいな感じですね。けっして争うことなく負かすことなく、相手の言うことを尊重して、一緒に頑張りましょうねみたいな感じに持っていくといいかもしれないですね。

最後に

最後に、たくさんの参考になるお話をしていただいた髙口先生より、今後の認知症ケアに関するアドバイスをいただきました。

高口先生
高口先生
認知症の人にどういった介護をしたらいいのかということだけじゃなくて、悪い介護をしている人に対して、どのような介護をしたらいいのかについて、職員みんなで考えて、仕組み化したりルールを決めたりしながら、みんなで一緒に考えていけたらいいですね。
(視聴者からの「参考になりそうだから購入したい」というコメントに対して)
高口先生
高口先生
この本は1冊あると本当に助かるというか、認知症ケアが楽になるし上達します。実際に失敗したり行き詰まったりしても、それがあるから上達するって考えになれます。今までは失敗したことが心の中に泥のように溜まっていたけど、失敗した介護がもう一つ先に進むために何が必要なのかを教えてくれる本でもあります。ぜひ1冊持っておいて、自分の理想の介護を形にするきっかけにしてほしいと思いますので、よろしくお願いします。

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