車椅子のシーティングの目的や方法とは?高齢者介護の現場で使える知識を紹介
シーティングという言葉を聞いたことはあるけど、詳しい内容はよくわからないという方は多いのではないでしょうか?
介護の現場において、より質の高い介護サービスを提供するためにも、シーティングの技術は重要です。
とくに車椅子生活において、シーティングは非常に効果的です。
本記事では、シーティングの目的や具体的な方法などを解説します。
また車椅子生活を改善するための工夫もあわせて紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
シーティングとは?
介護現場におけるシーティングとは「体幹機能や座位保持機能が低下した高齢者が、個々に望む活動や参加を実現し、自立を促すために、椅子や車椅子等に快適に 座るための支援であり、その支援を通して、高齢者の尊厳ある自立した生活の保障を目指すもの」と定義されています。
引用:高齢者の適切なケアとシーティングに関する手引き|厚生労働省
自立を促すという言葉があるように、利用者様の行動意欲の向上が期待できます。
さらにシーティングは、利用者様の快適な生活の実現のために重要であり、介護サービスの質を高める上でも、介護職にとって必要なスキルのひとつでしょう。
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ケアきょう求人・転職の無料相談シーティングの目的
シーティングの目的は、大きく分けると以下の3つです。
- 心身機能の維持や改善
- 二次的障害の予防
- 活動と参加の促進
これらの目的は、ICF(国際生活機能分類)に基づき、整理されています。
ICFでは、生活機能や環境面など、さまざまなことがその方の健康状態に影響していると考えられています。
なお、以下のようなことは、シーティングではないので知っておきましょう。
- 離床だけを目的にただ椅子や車椅子に座る
- 良い姿勢とされる座位姿勢を強制的に作る
- クッションやタオルなどを詰めて無理に安定姿勢を作る
- ただ長時間椅子や車椅子上に座る
では、それぞれの詳しい内容に触れていきましょう。
心身機能の維持や改善
シーティングを実施することで、以下のような心身機能の低下を予防することが可能です。
- 筋力低下
- 間接拘縮
- 心肺機能低下
- 起立性低血圧
- 意欲低下
シーティングの基本は、ベッドから離れて過ごすことです。
そのため寝たきりによる心身機能の低下というリスクを軽減できます。
ただベッドから離れて座るという考えではなく、シーティングによって少しでも快適な座位を追求することが大切です。
心身機能が維持されると意欲が高まり、利用者様のQOL(生活の質)向上にもつながるでしょう。
二次的障害の予防
座るという機会を持ち寝たきりの時間を減らすことで、心身機能の維持や改善につながり、二次的障害の予防が期待できます。
その代表例が「廃用症候群」です。
筋力低下や関節拘縮、心肺機能の低下などが促進されることで、食べる能力が衰え誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
また食事量の低下による栄養失調のリスクも考えられるでしょう。
介護職にとっても、シーティングによる病気の予防効果を知ることが、効果的な実践につながるでしょう。
活動と参加の促進
心身機能の維持や改善を図り、廃用症候群といった二次的障害を予防することで、意欲が向上し社会活動への参加が促進されます。
介護の現場であれば、自宅や施設の部屋だけで過ごすのではなく、シーティングによって一歩外に出る機会を持つことが可能です。
外に出ることで、景色が変化したり他者と交流したりできるため、新しい刺激を得られます。
介護を必要としている高齢者の中には、車椅子を利用している方もいます。
シーティングは「快適に座る支援」であり、車椅子に座る機会が多い高齢者にとって有効と言えるでしょう。
疾患・症状別シーティングの効果
続いて、以下の疾患や症状に対するシーティングの効果や留意点を見ていきましょう。
- 認知症
- 廃用症候群
- 脳血管障害
- 神経筋疾患
- 起立性低血圧
シーティングを実施する際に大切なポイントなので、ぜひ参考にしてみてください。
認知症
認知症に対するシーティングの効果と留意点は、以下のとおりです。
効果 | 留意点 |
---|---|
・心身機能の維持 ・認知症の進行予防 |
・急な立ち上がりによる店頭に注意する ・本人の希望を聞きシーティングを強制しない |
認知症の場合、自分が置かれている状況を理解できないことがあります。
そのため介護職側から寄り添い、こまめにコミュニケーションを図ることで、本人の希望や意図を感じ取ることが重要になってくるでしょう。
廃用症候群
廃用症候群に対するシーティングの効果と留意点は、以下のとおりです。
効果 | 留意点 |
---|---|
・離床時間の確保 ・心身機能の衰えを予防 |
・関節に拘縮がある場合は、クッション等を使用し姿勢を安定させる ・呼吸不全や摂食障害がある場合は、ポジショニング評価を丁寧に行う |
廃用症候群の症状がある方は、心身機能の低下が著しく見られる場合があるため、一人ひとりにあった車椅子やクッションなどの選定が重要になってくるでしょう。
脳血管障害
脳血管障害に対するシーティングの効果と留意点は、以下のとおりです。
効果 | 留意点 |
---|---|
・麻痺側への注意改善 ・ADLの改善 |
・車椅子を片手片足で操作する場合が多いため、座位の高さや角度に注意する ・麻痺による傾きがあるため、こまめに姿勢の確認を行う |
脳血管障害のある方は片麻痺の場合が多いため、快適な姿勢を保ちにくくなります。
廃用症候群で拘縮がある方と同様に、適宜クッション等を使用することが好ましいでしょう。
神経筋疾患
神経筋疾患に対するシーティングの効果と留意点は、以下のとおりです。
効果 | 留意点 |
---|---|
・視界の広がり効果 ・活動や参加の意欲向上 |
・体幹部分を安定させて、視線が前を向くように調整する ・活動や参加を促すため、本人が作業しやすい環境を整える |
神経筋疾患の代表例としてパーキンソン病が挙げられます。
特徴としては、座った際の安定性が覚醒状態によって左右されるため、体調の良い時間帯はいつなのか分析することが重要になってくるでしょう。
起立性低血圧
起立性低血圧に対するシーティングの効果と留意点は、以下のとおりです。
効果 | 留意点 |
---|---|
・離床時間の確保 ・起立性低血圧の予防と改善 |
・起立性低血圧の原因(脊髄損傷や変性疾患等)を把握し、医師に留意点を確認する ・医師と相談のもと、徐々に離床時間を増やしていく |
起立性低血圧の方にシーティングを実施する場合は、担当の医師と相談することが重要です。
現場の判断だけで離床時間を急に増やすことがないよう、慎重な対応が必要になってくるでしょう。
効果的なシーティングの手順
ここからは、効果的なシーティングの手順を紹介します。
内容は以下のとおりです。
- シーティングの必要性を検討
- シーティング実施のための分析
- シーティングの実施(PDCA)
それぞれ順番に解説していきます。
①シーティングの必要性を検討
まずは利用者様の普段の様子を観察し、生活上の課題を把握します。
その課題解決のためにシーティングの必要性があると判断した場合に実施する流れです。
生活上の課題には、以下のようなことがあります。
- 食事中によくむせる
- 自力で車椅子を操作できなくなっている
- 座っている際に身体の痛みを訴えている
この段階で介護職員に期待される役割は、次のようなことです。
- 普段の様子を観察し異なる点があれば記録する
- 異なる点(課題)を介助方法の工夫で解消できるか検討する
- 介護職だけで対応できない場合は他専門職に相談する
シーティングに限らず、普段から利用者様の様子を記録し、異なる点に気づきやすい状況を整えておくことが大切です。
②シーティング実施のための分析
シーティングの必要性があると判断した場合は、実施に向けてアセスメント(分析)を展開していきましょう。
アセスメントでは、利用者様の生活上の課題の背景にある原因を探り、シーティングの目標設定と具体的なシーティングの実施内容を検討していきます。
また、ここで介護職員に期待される役割は、以下のようなことが挙げられます。
- シーティングの具体的な方法や時間帯などをチームで相談する
- 介護職のみが把握している利用者様の情報を他専門職と共有する
- 利用者様と話し本人の希望も参考に進めていく
この段階で完璧な目標や実施内容を決めるのは難しいため、ある程度計画を立てたら実施しましょう。
計画の修正については、実施しながら調整可能なので、まずは支援を開始することが大切です。
③シーティングの実施(PDCAサイクル)
続いて、以下のようなPDCAサイクルにしたがって、シーティングを実施していきます。
内容 | 介護職の役割 | |
---|---|---|
Plan | ・アセスメントに基づき計画を立てる ・シーティングを実施する日常生活の場面を明確にする |
・シーティングの実施計画を日々のスケジュールに落とし込む ・利用者様の様子を他専門職と情報共有する |
Do | ・具体的な計画内容を確認する ・計画に基づきシーティングを実施する |
・シーティングを実施する役割を担う ・実施内容を記録し他専門職に伝える |
Check | ・目標の達成度を確認する ・シーティングによる変化を分析する |
・シーティング実施後の変化を観察する ・他専門職と情報共有する |
Action | ・目標の未達成や計画の修正点を確認する ・再度アセスメントを行い計画書を作成する |
・シーティング内容の゙変更を確認する ・変更点を介護職同士 で情報共有する |
PDCAサイクルにより目標を達成した場合は、その状態が継続できるよう支援します。
また新たな課題が生じた場合は、手順①に戻り、再度利用者様の状態を分析しましょう。
車椅子生活におけるシーティングの重要性
冒頭でもお伝えしたように、シーティングは車椅子生活において非常に重要な支援です。
ここでは、なぜシーティングが車椅子生活で効果的なのかを考えていきましょう。
車椅子生活の問題点や長時間座るリスクに触れながら、シーティングがもたらすメリットを紹介していきます。
ぜひ実践する際の参考にしてみてください。
車椅子生活の問題点
車椅子を必要としている方の多くは、自力で移動したり部屋に行って休んだりすることができません。
疲れていて部屋に戻りたくても、自分の意思だけで動くことが難しい状態です。
また、車椅子はあくまで移動の手段として開発されており、快適に座れるような作りにはなっていません。
そのため、シーティングを実施して、少しでも負担の少ない座り方を実践することが求められます。
介護職はこまめに利用者様の状態を観察しながら、不安定な姿勢の修正や、疲れた際の部屋への移動が必要になってくるでしょう。
長時間座り続けるリスク
長時間車椅子に座った状態で、居眠りをする利用者様の姿を見たことがある方は多いのではないでしょうか。
介護現場は人手不足の影響もあり、利用者様を車椅子に座らせている介護施設があるのが現実です。
しかし、人手不足だから許されるわけではありません。
長時間車椅子に座ることは、以下のようなリスクが伴います。
- 浮腫
- 褥瘡
- 関節拘縮
- 疲労増大
- 意欲低下
ただ離床し座るだけの支援を、シーティングと混合しないことが大切です。
とくに車椅子は座るためではなく移動するための用具なので、長時間の使用に適していません。
車椅子でシーティングを実施する際は、事前に車椅子生活の問題点やリスクを職員間で確認しておきましょう。
シーティングがもたらすメリット
シーティングの目的や効果については、本記事でも触れていますが、あらためて車椅子生活におけるシーティングのメリットを確認しておきましょう。
- 適切な姿勢保持による二次障害の予防
- 快適な時間の提供
- 褥瘡の予防
- 心身機能の低下予防
- 残存機能の維持
また社会活動への参加促進により、人生が豊かになる効果が期待できますし、日常生活での自立度が向上し、介護職の負担軽減にもつながるでしょう。
参考:「シーティング」で車いす生活に劇的な変化が起きる!|脳梗塞リハビリセンター
車椅子生活に効果的なシーティングの工夫
それでは、以下のような車椅子生活に効果的なシーティングの工夫を紹介します。
- 身体状況にあった車椅子を使用する
- 円背や拘縮がある方には介護用クッションを使用する
- タオルや市販のクッションで代用する
- あくまで車椅子は移動手段であることを認識する
- 状況に応じた座位姿勢をとってもらう
ちょっとした工夫で姿勢が改善され、効果的なシーティングにつながるので、ぜひ参考にしてみてください。
身体状況にあった車椅子を使用する
車椅子は一人ひとりの身体状況にあったものを使用しましょう。
体が小さい方の場合、車椅子のサイズが大きすぎて隙間ができてしまい、体が傾く原因になってしまいます。
通常の座位保持が難しい方の場合は、リクライニング機能付きの車椅子を使用するといった、その方に適した車椅子の選定が重要です。
なお車椅子のサイズの選び方は、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 座面幅はおしりのサイズに3〜5cmプラス
- 床から座面までは利用者様の膝下からかかとまで5~8cmプラス
(足漕ぎをする利用者様の場合、膝下からかかとまで0~2cmプラス) - 一般的な車椅子の耐荷重100kgに設定されている
(簡易車椅子の場合は100kg以下のものもあるので要確認)
円背や拘縮がある方には介護用クッションを使用する
円背や拘縮がある方の場合は、浅座りになることが多いため、介護用クッションを使用して空間を埋めることで快適な姿勢を実現できます。
クッションを使用する前には、以下の点に注意しましょう。
- 座面がたわんでいる場合は段ボールやベニヤ板などでフラットにする
- フラットになった上に車椅子用のクッションを乗せる
- レッグサポートを付け替えてフットレストとして使う
詳しい手順は、以下の動画で解説しているのでぜひご覧ください。
▼関連動画
タオルや市販のクッションで代用する
姿勢を安定させるための介護用クッションが不足している場合は、タオルや市販のクッションで代用可能です。
タオルや市販のクッションのメリットは、利用者様の身体の大きさや状態に合わせて形を変えやすい点です。
基本的な手順は、前述の介護用クッションと同様の流れになっています。
詳しくは、以下の動画を参考にしてみてください。
▼関連動画
あくまで車椅子は移動手段であることを認識する
車椅子はあくまで移動手段であり、食事やレクへの参加など移動以外の時間は、可能な限り通常の椅子に座っていただきましょう。
車椅子は通常の椅子と比べると、座面が高かったり床に足がつきにくいなど機能面で劣ります。
座面の深さやサイズ面などを考えると、適切な姿勢を保ちにくいです。
とくに食事の際は、通常の椅子に座り変えることで姿勢が安定し、誤嚥防止にもつながります。
ただし、車椅子でなければ座位保持が難しい方の場合は、先ほど紹介したクッションやタオルなどを使用したシーティングを活用し、車椅子で過ごしていただきましょう。
状況に応じた座位姿勢をとってもらう
シーティングには、主に「活動的な座位姿勢」と「安楽な座位姿勢」の2つがあります。
活動的な座位姿勢の場合、背もたれを起こし背筋をまっすぐにした状態で座ります。
骨盤を立て机で勉強したり、車椅子に座った状態で体操をしたりするときなどに適した姿勢です。
安楽な座位姿勢では、背もたれを少し倒し、骨盤を寝かせるイメージでリラックスした状態を保ちます。
とくに何かしている時ではなく、ボーッとしたりテレビを見たりしているときなどに休息する姿勢です。
シーティングを実施する際は、状況に応じて活動的な姿勢と安楽な姿勢を使い分けましょう。
出典:https://seating-consultants.org/whats-seating/
シーティングに関する疑問点と回答
最後に、シーティングに関する以下の疑問にお答えします。
- シーティングと身体拘束の違いは?
- 仙骨座りの原因は何ですか?
- 足底を床につける理由は何ですか?
シーティングを実施する際に大切なポイントもわかるので、ぜひ回答をご覧ください。
シーティングと身体拘束の違いは?
記事内でもお伝えしたように、シーティングは強制するものではありません。
あくまで、利用者様の希望を尊重し実施することが大切です。
ただどうしても良い結果を求めたいと考え、一生懸命になりすぎることもあるでしょう。
以下のような場合は、身体拘束に該当する恐れがあるため注意が必要です。
- クッションをつめこみすぎて車椅子上で身動きがとれない
- 利用者様の意志に反し車椅子の背もたれを倒しすぎて活動が制限されている
- 安楽な姿勢のために座面が低すぎるソファーに座ったため立ち上がれない
またシーティングを意識するあまり「座ってください!」と一方的に声をかけることも身体拘束(スピーチロック)に当てはまる可能性があります。
参考:高齢者の適切なケアとシーティングに関する手引き|厚生労働省
身体拘束やスピーチロックは利用者様の生活にさまざまな弊害をもたらします。
詳しい内容は、以下の記事をご覧ください。
▼関連記事
仙骨座りの原因は何ですか?
仙骨座りとは、お尻が前に滑り浅く座った状態で、仙骨と背中の2点で座っている状態です。
(ちなみに仙骨とは、閘門の上部分にある骨のこと)
仙骨座りの原因は、主に以下の7つです。
- 車椅子のサイズが大きすぎる
- フットサポートの高さがあっていない
- 車椅子にそのまま座っている(クッションを使用していない)
- 背もたれの角度が適切ではない
- ひざ関節が曲がり拘縮している
- 股関節が伸びて拘縮している
- 利用者様の身体能力に合わせた車椅子を使っていない
それぞれの対策については、以下の参考資料をご覧ください。
参考:高齢者のための車椅子フィッティングマニュアル|公益財団法人テクノエイド協会
足底を床につける理由は何ですか?
適切な姿勢は、足底をしっかりと床につけることです。
なぜなら、足を床につけることで姿勢が安定するからです。
よくわからないと思う方は、自分で椅子に座り、足と床についた状態と浮かした状態を実際に試してみるといいでしょう。
足を浮かすと上半身の筋肉を使って支えている感覚がわかると思います。
介護が必要な高齢者の場合、成人に比べ支える力が弱いため、より足を床につけることが重要になってきます。
足底が床についていない状態が続くと、姿勢が不安定になり食事中の誤嚥や先述の仙骨座りにつながる可能性もあるでしょう。
足底を床につけることは、適切なシーティングを実施する上でも重要と言えます。
参考:足底接地・非接地条件下における座位重心動揺の変化|科学技術情報発信・流通総合システム
まとめ
今回は、介護現場でのシーティングの目的や方法について解説しました。
シーティングはただ単に良い姿勢で座れるだけでなく、心身機能の低下を予防したり、疾患のリスクを軽減する効果も期待できます。
とくに車椅子生活においてシーティングの実践は非常に有効的です。
また、利用者様の快適な生活の実現だけでなく、自律の改善による介護職の負担軽減効果も発揮します。
ぜひ本記事を参考にシーティングの知識を学び、職員同士で共有しながら介護現場で活かしてみてください。
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