認知症高齢者の便失禁(便漏れ)とは?原因や対策を知っておこう
認知症の症状が進行すると、便失禁の症状が出てくる場合があります。
便失禁の要因は、加齢や認知症の障害によるものなどさまざまな要因が重なりあっているケースが多くみられます。
そこで今回は、認知症の方が便失禁を起こす理由や要因、対策について解説します。
本記事を読んで、便失禁対策の参考にしてください。
そもそも高齢者の便失禁(便漏れ)とは?
便失禁(便漏れ)とは、排便コントロールがうまくいかず、便を漏らしてしまう状態を指します。
自分でもらしたくないと思っていても、意図せずに肛門から便が漏れてきてしまうのです。
便失禁の発生頻度は、在宅介護の方で約10%、介護施設に住んでいる方は約50%いると言われています。
便失禁の症状を抱えている高齢者は、気分の落ち込みやにおい、便漏れの恐れから外出を控えるなど生活の質(QOL)が低下する傾向があります。
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ケアきょう求人・転職の無料相談便失禁の種類は3タイプ
便失禁(便漏れ)には多様な要因から生じる3つの異なるタイプがあります。
それぞれに特徴があり、症状や対処法も違います。
ここでは、3つのタイプを詳しく解説し、便失禁に対する理解を深めていきましょう。
1.切迫性便失禁
便意を感じながらも、我慢ができず、外に漏らしてしまう状態を切迫性便失禁と呼びます。
原因は、肛門周りの筋肉が緩み、肛門を閉じる力が失われるためです。
切迫性便失禁の厄介な点は、便意がいつ出るのか本人にもわからない点です。
旅行や外出ができなくなったり、トイレのない乗り物へ乗れなくなるなどライフスタイルに大きな影響を及ぼします。
特に高齢者の場合、内臓的なものが要因ではなく、加齢に伴う筋肉の衰えが要因です。
肛門周りの筋肉を鍛える以外の対策が見つからないのが難点です。
感染性胃腸炎や腸疾患が要因の場合、下痢や軟便を和らげるために、食物繊維を増やす食事指導が行われます。
改善が見られない場合は、薬物療法が取り入れられ、便の硬さが正常になる治療が開始されるでしょう。
2.漏出性便失禁
漏出性便失禁とは、自分の意思とは関係なく気がつかないうちに便が漏れてしまう症状です。
便失禁のタイプの中では、最も患者数が多く全体の49%を占めます。
高齢者に多く見られる漏出性便失禁ですが、主に内肛門括約筋の衰えが原因です。
通常の排便後、1-2時間以内にわずかな漏れが見られた場合、それは漏出性便失禁の症状といえるでしょう。
また、加齢や手術、脊髄障害によって便意の感覚が低下したケースにおいても便失禁の要因のひとつとなります。
気づかないうちに便が漏れる漏出性便失禁は、便漏れを防ぐために、尿漏れパッドや生理用ナプキンを活用する方も多いです。
においや衛生面が気になり、外出をやめたり、職場に行けなくなったりと社会生活に支障を引き起こし、患者にも精神的な負担をもたらします。
基本的には、まず便を作る元になる食物繊維を増やす食事指導がおこなわれます。
切迫性便失禁との大きな違いは、排便習慣の指導が取り入れられる点です。
直腸に便が詰まり便失禁になる場合は、定期的なタイミングでトイレに行く指導をおこないます。
具体的には、食事を食べてから昼食と夕食の30分間後にトイレに行き、便意を感じなくてもトイレに座って力んでもらいます。
定期的に直腸を刺激することによって、便意が戻る場合もあるようです。
3.混合性便失禁
混合性便失禁は、漏出性便失禁と切迫性便失禁の両方の特徴がある失禁です。
実際、便失禁患者の約30%が混合性便失禁に相当すると言われています。
認知症高齢者が便失禁になる原因とは
認知症高齢者が便失禁になる原因には、何があるのでしょうか。
大きく分けると見当識障害による認知機能の低下と新しい環境の変化によるものの2つに分かれます。
詳しく説明していきましょう。
見当識障害などの認知機能の低下
認知症便失禁になる原因の一つに見当識障害による認知機能の低下が挙げられます。
見当識とは、自分が今いる場所や時間、まわりと自分との関係を把握できる能力を指します。
見当識障害による認知の低下は、排泄行為が理解できず、トイレ以外の場所で排便する事態をもたらします。
加えて、以下のような症状が現れます。
- 便意がわからないため下着の中に出してしまったりする。
- トイレに行きたくても人に言えない。
- トイレの場所や使い方がわからない。
- トイレに行くのを忘れる。
認知症の患者自身は、自分の排泄行為に関連する問題がわからないため、本人が気にする事はありません。
しかしながら、衛生面の問題から周りの人々が悩んでしまうことがあります。
新しい環境への変化によるもの
新しい環境の変化は、認知症高齢者が便失禁を引き起こすきっかけになる場合があります。
実は、認知症患者は新しい環境の変化に弱く、トイレの場所を覚えるなどの対応はできません。
例えば、認知症高齢者が介護施設に入所した際、新しい環境でトイレがどこにあるかわからず、暗い夜間にトイレに行けなくなってしまい、便失禁を生じるケースがあります。
できるだけ環境を変えず、ご本人が馴染みのある暮らしを提供することが、便失禁の予防につながるといえるでしょう。
【介護者必見】認知症高齢者の便失禁対策10選
本来排泄は、人に見られないように一人でするものです。
高齢の方の羞恥心や自尊心を大切にしながら、排泄行為のどの部分をサポートすればいいのか見極めていきましょう。
ここでは、認知症高齢者に配慮した便失禁へのアプローチ事例を10個挙げていきます。
1.時間を決めてトイレ誘導する
前提として、日々の排便を記録している排泄シートを使い、本人の排泄リズムを確認した上で行います。
まずは、起床後、食事前後、就寝時間、夜間は途中で目覚めた時間というように、時間をある程度決めて声掛けてみましょう。
便意がない方でも定期的にトイレに行く習慣をつけることで、失禁回数を減らせる可能性があります。
もし認知症の方が「トイレには行かない」と拒否された場合は、染み付いているので「分かりました」と伝えて一旦引きましょう。
無理やりトイレ誘導を行うと、トイレに対する嫌な記憶が残り、声をかけても拒否するケースが多くなる恐れがあります。
注意しましょう。
2.本人の表情と行動を観察する
認知症になると、自分の体の違和感をうまく表現できないときがあります。
日頃から認知症の方を観察し、注意深く読み取る必要があります。
高齢者が「お腹の辺りが痛い」と訴えたり、落ち着かない行動を取った場合、トイレに誘導してみると排便だったとの話もよくあります。
言葉で訴えることが難しい高齢者を理解するには、高齢者自身の日頃からの行動や表情からのサインの読み取りが重要だといえるでしょう。
介護者は、認知症高齢者の違和感や不快な様子に気づいたら、適切なタイミングでトイレに誘導してみてください。
3.ポータブルトイレの場合は位置を調整する
トイレの位置を調整することも、便失禁を減らす工夫のひとつです。
認知症高齢者は、習慣的な行動や環境が身体に身に付いています。
トイレの位置が適していると、認知症高齢者の混乱が減り、自力排泄が簡単になります。
具体的には、ベッドの方向を変える、ベッドから見たトイレの位置が自宅と同じになるよう調整する、出入り口のそばにトイレを配置するなどの工夫により、自立した生活が期待できるでしょう。
4.トイレの表示を便所に変更する
高齢者が馴染んでいる名前で表示するのは、認知症高齢者にとって住みやすい環境を整える有効なアプローチといえます。
「便所」の呼び方は世代によって異なります。
たとえば、「便所」「お手洗い」「トイレ」「厠」「憚り」などの表示や、文字そのものを大きくしたり、表示パネルの高さを変えるなどの工夫で高齢者がトイレを見つけやすくなります。
さらに、便器の絵をトイレの扉に掲示するのもおすすめです。
認知症高齢者は、便器の絵をみて「ここがトイレだ」と即座に理解できます。
言葉での表示や便器の絵を加えることによって、高齢者はトイレの場所を容易に探し当てられるでしょう。
5.夜間トイレの電灯を設置する
夜間トイレの照明は安心感をもたらす重要な要素です。
トイレの出入り口に電灯が設置されていると、夜間でもトイレの場所が簡単に分かります。
さらに、部屋のドアを少し開けておき、ベッドからトイレまで足元の照明を点けておくと、認知症高齢者は、自然に明るい方向へ進むでしょう。
暗い場所から明るい場所へ行く人間の習性を利用したものです。
できる限りトイレの電灯を設置してあげると、認知症高齢者は安心といえます。
6.孤立しないようにする
孤立しないようにすることも便失禁の対策につながります。
高齢者が睡眠の途中で目が覚めると、ついでにトイレに行きたくなるものです。
その際、高齢者が不安や混乱を感じないためには、介護者がすぐに気づける位置にいることが重要です。
高齢者の不安や混乱を避け孤立を防ぐために、注意深く見守る必要があります。
7.便器の中に色をつける
トイレに行っても便器の認識ができない場合、どこで排便すべきか戸惑うでしょう。
認知症高齢者の場合、便器の中に青や緑などの色を加えることで、便器を認識しやすくなります。
さらに、和式や洋式、男性用や女性用などの便器の形状にも効果があるといわれています。
便器を認識しやすくするために色をつけるなど、工夫を試してみてください。
8.おむつのサイズや大きさを検討する
合わないおむつを装着すると、お尻を不快に感じ便失禁になる可能性があります。
まずは、高齢者がお尻を不快に感じている場合は、一段階大きめのサイズに変更するか、動きやすいリハビリパンツへの変更を検討してください。
リハビリパンツは、トイレに行ける方向けの紙パンツで、上下に引っ張るだけで簡単に着脱できます。
下着感覚で着用できるため、快適に動けます。
さらに、リハビリパンツから布パンツに移行できると、さらに不快感が少なくなるでしょう。
よりご本人にあった適切で快適なパンツを選んであげてください。
9.繰り返しトイレの説明をする
認知症の状態にもよりますが、繰り返しの説明で記憶が徐々に蓄積する場合があります。
ただし、しつこくならないように、教えるのではなく情報を伝えるような気持ちでコミュニケーションをとりましょう。
高齢者の表情や様子を見ながら、根気強く続ける必要があります。
10.周囲に聞こえないように本人に伝える
介護者は「トイレにいきませんか」と周囲に聞こえないように配慮すると、高齢者もトイレにいきやすくなるかもしれません。
大勢の前でトイレの話をされると、「恥ずかしい」「いやだ」と思う高齢者もいます。
恥ずかしさを感じずにサポートするためには、周囲に聞こえない場所に移動し、本人に声掛けをしましょう。
声を抑えて、他の人との適切な距離を維持しながらサポートしましょう。
認知症高齢者の便失禁が続くとどうなる?
認知症高齢者の便失禁が続くと、皮膚の表面が炎症を起こし、赤みや痛み、かゆみの症状が現れます。
皮膚の損傷が要因で、皮膚のバリア機能と抵抗力のどちらも低下します。
そのため、オムツやパットをこまめに交換し、肌を清潔で乾燥した状態に保つように気をつけましょう。
また、外出先でトイレを利用する場合は、アクセス場所にトイレがあるのか位置やトイレの種類を確認すると安心です。
認知症高齢者の便失禁が改善しない場合は、専門医に相談しよう
この記事では、認知症高齢者の方が便失禁を引き起こす理由や要因、対策について解説しました。
便失禁は早めに対処すれば、改善できる疾患です。
専門医に相談しつつ、介護者は認知症高齢者が快適な生活を送れるよう支援していきましょう。
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