【介護職必見!】便失禁はなぜ起こる?原因から対処法まで徹底解説

介護職あるある
2023/05/24

「高齢者の便失禁はどのように対処したらいい?」「何かサポートできることはないのか」と便失禁の対処法に悩んでいる介護者は多いのではないでしょうか。

介護現場における「便失禁」の介助は、生活の質(QOL)に関わる大切なケアのひとつでもあります。
便失禁についての正しい知識を知ることで、状況に応じた適切なサポートやケアを実践できるでしょう。

本記事では、便失禁の原因から対処法まで詳しく解説します。
介護職ができる実践事例についても紹介していますので、参考にしてください。

便失禁とは?

便失禁とは、排便コントロールがうまくいっていない状態を指します。

排便コントロールがうまくいっていない状態とは、下着に少ししみ出る軽い症状から下痢便や軟便が肛門の外に出てしまう重い症状までさまざまです。

主な原因は、排便に関連する直腸や肛門、神経などのトラブルが挙げられます。
それらの機能が相互に働かなくなる場合、便失禁が起こるのです。

高齢者に多いイメージの便失禁ですが、実際には、長年の排便時のいきみによる痔や出産時に神経が傷付いたことが原因で便失禁になる方もいます。
高齢者だけではなく、誰もがなりうる疾患といえるでしょう。

また、便失禁には複数の原因があり、個々の状況に応じた対処法が必要です。

便失禁は高齢者特有の病気ではない

先に述べたように、便失禁は高齢者特有の病気ではありません。

1995年に実施されたアメリカの研究では、便失禁の症状を抱えていた153人うち70%は高齢者ではなかったとの報告があります。
一方、65歳以上の高齢者は全体の30%に過ぎませんでした。

要するに、便失禁は高齢者だけでなく、他の年齢層にも起こりうる病気であると予測できます。

便失禁の種類は3タイプ

便失禁の種類は大きく分けて、切迫性便失禁漏出性便失禁混合性便失禁の3タイプあります。
便失禁の種類を知ることで、それぞれの病気に応じたケアができるようになるでしょう。

ここでは、便失禁の種類を3つ紹介します。

1.切迫性便失禁

切迫性便失禁とは、自分で便意を感じても我慢できず、トイレに行く前に漏らしてしまう状態です。

高齢者の場合、下痢を引き起こす急性腸炎や炎症性腸疾患や、肛門まわりの筋肉の低下が原因としてあげられます。

また、膀胱に尿が溜まっていなくても、頻繁にトイレに行きたくなったり、トイレが近くなったりするため、外出時や車の乗車中などの日常生活において支障をきたすケースがあります。

2.漏出性便失禁

自分の意思とは関係なく、気がつかないうちに便が漏れてしまう状態漏出性便失禁です。

失禁のなかで最も多く、患者の約49%が漏出性便失禁と言われています。
肛門括約筋の機能低下や、排便にかかわる神経のトラブルにより便意を感じなくなるのが要因です。

自分の意志で便意を感じることが難しいため、外出時に「便が漏れたらどうしよう」 と常にトイレの場所を心配し、会社や学校に行けなくなる方もいます。
下着を清潔に保つため、失禁パッドや生理用ナプキンを使われている方も多いようです。

3. 混合性便失禁

混合性便失禁とは、漏出性便失禁と切迫性便失禁の両方の特徴を持つ失禁です。
混合性便失禁の場合、出ている症状によって対処法が変わります。

たとえば、軟便や下痢便が主な症状である場合は、食物繊維を増やすための食事の指導が行なわれます。
もし症状が改善しない場合は、便が適度な硬さになる薬が処方されます。

便失禁になる5つの要因

便失禁になる要因はさまざまですが、主に5つの要因にわかれます。
一つひとつ解説していきましょう。

1.加齢

男女ともに年齢を重ねるに連れて、排便に関わる肛門括約筋(排便の際に肛門を広げたり縮めたりする筋肉)の機能が衰え、排便コントロールが難しくなります。

このため、肛門の締まりが弱くなり、急な便意に対応できず、トイレにたどり着く前に漏らす場合があります。

さらに、直腸の機能も低下し、便意を感じる感覚が鈍くなるケースも便失禁につながります。
この症状は、加齢とともに直腸の感覚が鈍り、便意を感じるタイミングが遅れることによって起こります。

2.出産

出産時にいきみすぎて、肛門まわりや神経を傷つけたことにより、便失禁が起こる場合があります。
出産は、短時間で骨盤内臓器や周囲の筋肉を広げるため、骨盤周辺の筋肉や神経に少なくない痛みを与えます。
そのため、一時的に便意などがわからなくなります。

そして海外では、出産から6ヶ月間の間、4人に1人以上の方がガスや便漏れの経験があるとのデータも報告されています。

なお、出産後1ヶ月経過すると、多くの方の肛門あたり感覚が正常に戻ります。
心配な場合は、主治医に確認してもらってください。

3.認知症や糖尿病、脳梗塞などの神経障害

神経障害による便失禁は、認知症や糖尿病、脳梗塞などの疾患が原因です。

神経障害による疾患は、便意を感じられなくなり症状が現れます。
とくに認知症の場合、トイレの場所がわからない、トイレに間に合わない、便座の座り方がわからないなどの理由で起こる場合があります。

対策として、トイレのドアに目印をつけるなど、自力でトイレがわかるような工夫が必要です。

4.痔や大腸など肛門周辺の手術

お尻の穴に膿ができて化膿を繰り返す痔瘻や、痛みを伴う痔核などの肛門周辺の手術により、肛門括約筋が傷つく場合があります。

5.直腸の病気

直腸に関連する病気のために、直腸を切除しなければならない場合、排便に関与する神経や筋肉が損傷する可能性があります。

結果として、便意を感じる能力が低下し、便失禁につながります。
このような状況に対処するためには、適切な治療やケアが重要となります。

自分でできる便失禁の対処法

便失禁対策として、自分自身で取り組める3つの方法があります。
それぞれについて、詳しく紹介します。

1.食生活を改善する

食生活の改善は、自分でできる便失禁の対処法のひとつです。

不溶性食物繊維を積極的に摂取すると、便の水分を吸収し、適度な硬さに保てます。
また、タンパク質の食品の摂取によって肛門括約筋の異常や衰えを予防ができます。

おすすめの食材は以下の通りです。
参考にしてください。

  • おすすめの食材:サツマイモ、根菜類、豆類、キノコ類、小松菜、大豆、豆腐、玄米
  • 避けた方がよい食品:コーヒー・紅茶等のカフェインを含むもの、アルコール飲料、柑橘類、香辛料が多く含まれる食品

避けた方がよい食品は、腸の動きを活発にし、下痢を引き起こしやすくなります。
できる限り摂取は控えましょう。

2.定期的に排便する習慣をつける

便意を感じたらすぐにトイレに行く習慣をつけましょう

朝と夜の1日2回トイレに行く習慣をつけ、便意がなくてもトイレに座りましょう。

直腸に便が溜まっていなければ、便失禁のリスクは低くなります。

外出前や就寝前に必ずトイレに行くなど、日常生活に定期的な排便の習慣を組み込むことが大切です。

3.骨盤底筋訓練をする

骨盤底筋とは、肛門の筋肉などを含む骨盤周辺の筋肉です。
骨盤底筋のトレーニングによって、肛門まわりの筋肉がきたえられ、便失禁症状の改善が期待できます。

それでは、骨盤底筋訓練の方法を紹介します。
簡単にできる運動なので、ぜひ試してみてください。

  1. 仰向けに寝て、両膝を立てます。足は肩幅程度に開きます。
  2. 骨盤の筋肉を頭のほうへ引き上げるようにイメージして、10秒ほど肛門を締めます。呼吸を止めないように注意しましょう。
  3. 一旦力を抜いて、20秒間休みます。
  4. 2.と3.を10〜20回程度繰り返します。1日3〜5セットを目安に行います。

2.で肛門を締める際、お尻の穴を小さくするイメージで行ってください。

また、腹筋に力を入れると便が漏れる恐れがあります。
お腹には力を入れないように気をつけてください。

病院でできる便失禁の治療

多くの場合、生活習慣の改善だけで症状が緩和される場合があります。

しかし、生活習慣の改善効果が不十分な場合には、薬物療法の併用がおすすめです。

便失禁の原因となる、下痢や軟便を改善する内服薬を使うと、便を適度な硬さに保ち、便失禁を防げるでしょう。
さらに下剤の効きすぎで、下痢や軟便になる場合は、薬の調整で済む場合もあります。

多くの方が、「この方法で症状が改善した」と感じるようです。

ほかには、骨盤底筋訓練といったリハビリや仙骨神経刺激療法といった外科手術などがあります。

介護職ができる実践事例5選

認知症高齢者の場合でも、自力でトイレがわかるような工夫を行うことで、一定程度の自立が可能なときがあります。
ここでは、実際に介護施設で取り組んでいる工夫について5つ紹介します。

1.「トイレ」を「便所」に変更し、高齢者の目線に入る高さに変える

高齢者には「トイレ」よりも「便所」の言葉が馴染みが深いです。
そのため、トイレの表示を「便所」に変更し、目立つ位置に置くといいでしょう。

そのうえ、高齢者の目線に入る高さに文字を変更し、とくに車椅子を利用している認知症の高齢者にもトイレの位置がわかりやすくなります。

この工夫によって、自力でトイレに行く方が増え、便失禁の回数も明らかに減少しました。

簡単に取り組める内容なので、ぜひお試しください。

2.高齢者の排泄パターンを調べる

排尿や排便の衝動がない方でも、排尿パターンを把握し、適切な声掛けにより、失禁の回数を大幅に減らせるでしょう。

たとえば、入浴時や起床時、入浴前など定期的に声かけをしたり、本人の行動パターンを観察して、排泄の訴えがあるタイミングで声かけをするなどの工夫が必要です。

そして、毎日の排泄状況を記録することも重要です。

介護記録にも残しておくと、トイレ誘導やおむつ交換のタイミングの判断、おむつ選びなどにも役立つでしょう。

3.短く、わかりやすい言葉で声掛けする

認知症の高齢者に対しては、短くわかりやすい言葉で声かけをしましょう。

たとえば、「よかったらトイレに一緒にいきませんか?」ではなく、「トイレにいきましょう」とシンプルにすることで、理解しやすくなります。
なお、丁寧すぎる接し方や遠回しの表現、敬語を使うと、認知機能が低下している方には意味が伝わらず、不信感を招く恐れがあります。

また、難聴の高齢者にも同様に、簡潔で明瞭な言葉でコミュニケーションを心がけましょう。
たとえば、「お食事の時間ですね、いかがですか?」と伝える代わりに、「食事の時間です」と短く伝えるといいでしょう。

4.本人だけに声掛けする

多くの方がいる場で誰かに大きな声でトイレに行くように言われると、恥ずかしい思いをする方もいます。

たとえば、居室に戻った時に「〇〇さん、お手洗いはどうですか」とさりげなく声をかけたり、本人を散歩に連れ出すついでに「外に行く前にトイレに行ってみませんか」と提案するなど、本人の尊厳に配慮したアプローチが必要です。

5.信頼関係のある職員が対応する

認知症の高齢者の状況にもよりますが、できるだけ信頼関係のある介護者が対応するのが望ましいです。

たとえば、利用者様が受け入れやすい介護者が、声かけやスキンシップを通じて信頼関係を築き、気持ちよくトイレに誘導するような柔軟な対応が重要でしょう。

さらに、男性職員を好む高齢者の場合は、男性職員が対応するといった方法も検討できます。

まとめ

便失禁の症状は、多くの方が羞恥心から自分の問題について誰にも打ち明けられず、一人で苦しんでいる方が多い病気です。

介護者として、食生活の見直しや運動、排便習慣の見直しなどのサポートが重要であり、継続的なケアが望ましいでしょう。
便失禁の効果を実感するには時間がかかるかもしれませんが、根気強く取り組むことが大切です。

便失禁は、さまざまな要因が絡み合い発症します。
改善がみられない場合には、最寄りの医療機関へ相談しましょう。

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