【介護職】もう悩まない!髙口光子さんに聞く認知症の方へのスムーズな声かけ術

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2023/05/16

認知症ケアの基本が知りたい
認知症ケアがうまくできない
こういった悩みを抱える介護職の方や、自宅で介護するご家族の方は多いのではないでしょうか?

今回は『「どうしよう」「困った!」場面で役に立つ:認知症の人の心に届く、声のかけ方・接し方』(中央法規出版)の著者である髙口光子先生に、認知症の方へのスムーズな声かけ術を聞いてきました。

その時のインタビューの様子を記事にしたので、ぜひご覧いただき認知症ケアの参考にしてみてください。

インタビュアー:ケアきょう代表 向笠 元

髙口光子先生のプロフィール

髙口たかぐち 光子みつこ 先生

  • 現在は「元気が出る介護研究所」代表
  • 理学療法士の学校を卒業後 病院に10年ほど勤務
  • 特別養護老人ホームに寮母として10年ほど勤務
  • 介護老人保健施設の立ち上げや管理職を経験
  • このたび初の著書である本書を出版
    本の購入はこちらから
  • 公式サイト:https://genki-kaigo.net/

【実践】認知症の方の声のかけ方・接し方

本日は、高口先生も関わっている、富山県にある認知症デイサービス「かっぱ庵」さんにお邪魔させていただいております。
まずは、高口先生と認知症の方(ヤマモトさん)とのコミュニケーションをご紹介します。

認知症の方が便器の水で顔を洗っている場面

高口先生
高口先生
ヤマモトさん、どうされました?
ヤマモトさん
ヤマモトさん
さー分からんけどな。顔洗うとるらしいわ。あんたもちょっとべっぴんになるから。ここの水はね。栄養あるが。ビタミン
高口先生
高口先生
栄養ある?
ヤマモトさん
ヤマモトさん
うん、だからアンタも顔洗ったらもっと綺麗になるかもしれん
高口先生
高口先生
もっと綺麗になるかもしれない?いやーありがたいな。ちょっと私も洗ってみようかな。でもさヤマモトさん……

と言いながら、ヤマモトさんはまた便器の水で顔を洗おうとしている。

高口先生
高口先生
ヤマモトさんは綺麗好きだから、しっかり洗おうって思っているんですよね
ヤマモトさん
ヤマモトさん
そうそうそう。なんべん洗うてもええが。ビタミンが流れとるが。ここに溜まってるから
高口先生
高口先生
さすがやね。綺麗になるだけじゃなくて健康にも気をつけてるんですよね。すごいな。でもここの水冷たくないですか?
ヤマモトさん
ヤマモトさん
そんなに冷たいことない。ちょっと温かい
高口先生
高口先生
それでこんな腰曲げたら痛とうない?
ヤマモトさん
ヤマモトさん
うーん、痛い。腰曲げりゃことい痛いかもしれんねど、痛ないふりしとらんなな
高口先生
高口先生
私ね、もっと栄養がいっぱいあるお水が出るところ知ってるんですよ
ヤマモトさん
ヤマモトさん
そんな良いところどこ?連れて行ってくれるりゃあ?
高口先生
高口先生
私と一緒に。1人で行ったらバレちゃうからお願いします
ヤマモトさん
ヤマモトさん
ちょこっと連れて行ってくれんかな?人に内緒だぞ(満面の笑み)
高口先生
高口先生
内緒だね。ありがとうありがとう

接し方のコツ

実際に認知症の方とのコミュニケーションを拝見させていただきましたが、認知症の方とのコミュニケーションで意識されてらっしゃることを教えていただけますか?

高口先生:まず認知症の方は、私たちからすれば「なんでそんなことするの?」という、思わぬ行動を取られることがあります。その驚いた気持ちをそのまま認知症の方にぶつけたり、自分が受け容れられなかったりすると、嫌な気持ちや苦手な気持ちになります。そういった気持ちで介護をすると、認知症の方にも嫌な気持ちが移ってしまうかもしれません。ですからまずは、認知症の方が思わぬ行動を取ったら驚いていいです。当然ビックリしますからね。ビックリする気持ちまで否定されたら介護なんてできませんから。

そして、まずは一旦「どうされましたか?」と傾聴して「顔を洗ってるんですね」と受容して「綺麗好きですからね」と取って付けたような言葉ではありましたが、認知症の方を褒めることによって「この人はよく分からないけど、敵じゃないんだな」と受け入れてもらえます。そして「この水冷たくないですか?」とか「こんなに腰曲げていかがですか?」とかこちらの心配を伝えて、「もっと栄養があるお水がありますよ」と、認知症の方にとって、もっといいところがあることを伝えることで「じゃあ行ってみるかな」という気持ちにつながります。「さあ行きましょう」ではなく「連れて行ってください」と、こちらから頭を下げてお願いすることが重要です。

なかなか思い通りにいかないかもしれませんが、驚いた気持ちをそのままぶつけるくらいであれば、取って付けた言葉でも、①傾聴、②受容・共感、③繰り返し、④心配を伝え、⑤「一緒にしましょう」とお願いするという5ステップの関わりをしてみてください。この声のかけ方・接し方を頭に入れておくと、認知症の方と落ち着いて関わることができるでしょう。

先ほど拝見させていただいて、すごくスムーズに対応されていてビックリしました。

高口先生:今回の場合は、ヤマモトさんと私が顔馴染みだったことと、日頃から同じようなやり取りをやっていたこともあって、カメラで撮影はしていましたが、いつも通りの感じで進みましたね。

ヤマモトさんとは知り合って1ヶ月ほどでしたが、時間としての長さよりも、印象深いとか気持ちに残るといったことのほうが、認知症の方にとっては大事かもしれません。

1ヶ月ぐらいでも関係性は作れるものですか?

高口先生:認知症の方は、「いつ・どこで・誰が・何をした」という見当識は忘れてしまいますが「美味しくご飯を食べた」とか「気持ちよくお風呂に入った」などの感情や体験は残りやすいですね。

先ほどのヤマモトさんと私が、これまでに一番気持ちが合ったのは、ちょうどヤマモトさんが「トイレに行きたいな」と思う時に「そろそろおしっこじゃないですか?」という声かけで何回かパチっと合った時がありました。その時に「あんたよう声かけてくれたね」という気持ちが生まれたのでしょう。

ヤマモトさんは私の名前や顔は覚えていないかもしれません。でも「この人とだとトイレが上手くいく」「(排泄が)気持ちいい」というのが、私とヤマモトさんとの関係ですね。

本の中で特に大切なポイント

今回『「どうしよう」「困った!」場面で役に立つ:認知症の人の心に届く、声のかけ方・接し方』を出版されて、本の中で「皆さんにここは知っていただきたいな」というポイントがあれば教えていただけますか?

高口先生:私は今までずっと介護の現場で仕事をしてきました。その中で「なかなか認知症の方に気持ちが通じない」とか「ちゃんと仕事をしようとすればするほど、認知症の方と気持ちがすれ違っていく」という悩みを持つ人たちが、苦しんでいるように見えました。「ちゃんと介護をしよう」「ちゃんとお風呂に入れよう」「ちゃんと食べてもらおう」と思えば思うほど、認知症の方とは心がすれ違います。

反対に、ベテランの介護職の方が「上手くいった」という場面があるんですが、内容を聞いてみると「もう部屋から出てこなくなった」とか「大声を出さなくなった」などに対して「上手くいった」という表現をしてるんですよ。この場合「本人が部屋から出たいのに出ないようにした」とか「大声を出したいのに出させないようにした」というのは、介護ではなくて支配と言えます。

認知症の方が部屋から出たい理由や大声を出したい理由を捉えて、それが解決して本人が納得した上で「部屋から出なくてもいい」「大声を出さなくてもいい」となればいいんですが、理由も捉えず行動が止まったから上手くいったというのは、違うのではないかと感じますね。

高口先生のような介護職を目指したい方は多いと思いますが、上達するためのステップや考え方などを教えていただけますか?

高口先生:上達するコツは「自分自身がどんな介護をしたいのか?」とか「何のために介護をしているのか?」などの意志を自分でしっかり持つことです。介護は「できるか」「できないか」といった考えではできません。大切なのは「やりたいか」「やりたくないか」です

「ご利用者に笑ってもらいたい」「元気を伝える介護をしたい」「良い介護に届かなくても、悪い介護だけはしたくない」などの意志を持つから学ぼうとか確認しようといった行動を起こし、上達につながります。反対に、「こういう介護をやりたい」という意志のない人が、何回テクニックや考え方を学んでも、上達にはつながらないでしょう。

「何のための介護か?」「どういう介護がしたいのか?」これらの答えを考える主体があるからこそ、知識や技術、資格や経験が活きてきます。この本も主体性を持った上で読んでいただくと上達につながるので、ぜひ参考にしてみてほしいですね。

髙口先生の新人時代

高口先生の新人時代のお話を聞かせていただけますか?

高口先生:私もこう見えても新人の頃がありました(笑)
最初に勤めたのは、いわゆる老人病院。寝たきり老人が大量にいて、薬漬け・検査漬け・点滴漬けという状況でした。入院しているお年寄りは、高いベッド柵に手足を浴衣の紐で括られ身体拘束されています。そのベッド柵の間からお年寄りの細い手が出てきて、手を開いたり閉じたり、手招きしたりしながら呼ぶんです。私は怖くてその手を握れませんでした。だから指でツンツンと触ってその場を離れました。人間って初めてのものを見た時は、真っ白になりますね。

今考えると申し訳なかったなと思う話なんですけど「認知症で分からないから急いでもいい」「どうせ分からないから黙ってやっていい」「どうせ分からないから閉じ込めてもいい」といった考えで、割り切ってするのが介護の仕事って教えられた時期もありました。

でも、認知症の方と関わらせていただく中で、お風呂が終わった後に「アンタも大変やったな」とか「私が行かんとアンタも困るん?」と言われた時に「えっ?」ってなって気づいたんです。認知症だから分からないと思っていたのは私の方で、認知症の方は私の名前も顔も分からないかもしれませんけど、今一緒にお風呂に入っていたことに対して労ったり感謝したりしてくれるんですよね。こういったことに気づくのには、1年かかりませんでした。ただ「今やってる介護は、なんかおかしくない?」とは早くから感じていましたが「何がどうおかしいのか?」ということを言葉にできませんでした。「言葉にしないと伝わらない。伝わらないと介護にならない」。このような気づきから、私なりの対応方法が生まれたという流れです。

まとめ

最後にこの本への想いを聞かせていただけますか?

高口先生:認知症に関する本の多くは、「認知症の原因疾患と治療法」とか「認知症を科学的にアプローチして考える」など、医学や心理学、脳科学の視点からの解説されたものだったりします。それらも素晴らしいとは思いますが、私は介護の視点から、介護する側の私たちが、認知症の方と出会うことで起こる気持ちの変化とか、捉え方をまとめたいなと思いました。

歳をとれば誰でも認知症になりますし、安心して認知症になれる環境づくりが、きっと私たちが暮らしやすい地域づくりにつながる。そういう思いで、1人でも認知症のお年寄りの介護を苦手にする人がいなくなることを願って書きました。
認知症の人へのまなざしが少し変わることで、関わりは大きく変わります。それをご自身の介護現場で実際に体験し、認知症の人とより良い関係が築けるようになれば、これ以上の喜びはありません。

本書は、高口先生のこれまでの経験と知恵といったエッセンスが詰まっています。ぜひ手にとって読んでいただけたらと思います。高口先生、本日はどうもありがとうございました。

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実際の様子がみられるYouTube動画はこちらから

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