高齢者の性的問題行動はどうすればいい?適切な対応方法を実際の事例とともに解説
高齢者の性的問題行動に対して、どう対応すればいいかわからない方は多いのではないでしょうか?
高齢者にも性欲はあるの?と疑問に思うかもしれません。
本記事では、高齢者の性に向き合いながら、高齢者の性的問題行動に対する対応方法や、高齢者が性的問題行動を起こす理由などについて解説します。
高齢者の性について、正しい知識を学びたい方はぜひ参考にしてください。
高齢者の性について
高齢者の性的問題行動を解説する前に、まずは高齢者の性(セックス)について考えていきます。
当然ですが、高齢になれば生殖機能は衰えます。
だからといって、高齢者は性欲がないわけではありません。
精神分析の創始者フロイトによると、性的エネルギーは生きる上での基本的エネルギーであり、さまざまな活動の原動力であると唱えました。
高齢になり介護が必要になっても、性的な関心を持つのは自然なことで、人間として当たり前のことであるという認識が大切です。
アメリカのニューヨーク州にある老人ホーム「ヘブライ・ホーム」では、高齢者と性の問題について向き合い、オープンに取り組んでいます。
この施設では利用者様同士の恋愛を推進し、高齢者の性生活をさまざまな方法で支援しています。
たとえば、出会い系サービスの利用をサポートしたり、定期的にダンスパーティーを開催したりといった取り組みです。
さらには、性感染症を予防することを目的に避妊具を配り、施設内でセックスができるよう配慮しています。
日本の介護施設で同じようなことをするのは現実的ではありません。
しかし、高齢者が性に対して関心を持つことは、人間として当たり前の感情であるということをあらためて考えるきっかけにしてみてください。
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ケアきょう求人・転職の無料相談高齢者の性的問題行動とは?
高齢者の性的問題行動について、次の4つの視点から考えてみましょう。
- 介護職に対するセクハラ
- 他利用者様へのセクハラ
- 利用者様同士の性的関係
- 対象者のいない性的行動
まずはどのような性的問題行動が起きているか知ることで、対応方法も考えやすくなります。
ぜひ参考にしてください。
介護職に対するセクハラ
介護現場のセクハラの多くは、利用者様から介護職に対するものです。
日本介護福祉士会の調査によると、およそ4割の介護職が、利用者様またはご家族からセクハラを受けたことがあると回答されています。
性別で見ると、セクハラを受けたことがある8割の近くの人が女性ですが、介護現場での女性利用者から男性介護職へのセクハラがあるのも現状です。
参考:「介護現場におけるハラスメントの実態と対応策に関する調査」の報告|日本介護福祉士会
ケアきょうでも、介護職のセクハラについて解説した動画があるので、ぜひご覧ください。
▼関連動画
他利用者様へのセクハラ
介護現場のセクハラといえば、利用者様から職員への事例が多く挙げられますが、利用者様から利用者様へのセクハラも実際にあります。
しかし、利用者様同士のトラブルについては対応がマニュアル化されておらず、適切な対策ができていないのが現状です。
利用者様同士の性的トラブルについては、職員の目が届きにくく表面化されにくいのも問題です。
また、認知症をはじめとした疾患の影響で、セクハラを受けている利用者様が自分から訴えるのが難しいケースも多いのも問題でしょう。
利用者様同士の性的関係
高齢者の性については、セクハラ以外にも利用者様同士の恋愛が挙げられます。
アメリカのとある老人ホームでは、利用者様同士の恋愛を推進しているとお伝えしましたが、日本ではタブー視されているのが現状です。
恋愛をすることは生きる意欲につながり、利用者様のQOL向上に効果的です。
しかし、恋愛感情がエスカレートすると、三角関係やストーカー行為などのトラブルに発展することも少なくありません。
利用者様同士の恋愛については、見守りながらも関係を良好に保てるよう、仲介役としての支援が介護職には求められるでしょう。
対象者のいない性的行動
高齢者の対象者のいない性的行動は、いわゆる自慰行為(マスターベーション)が該当します。
冒頭でも述べたように、高齢者が性的関心を持つのは人間として当たり前の感情です。
利用者様の自慰行為を発見した場合でも、すぐに否定するのはNGです。
自分だけで性的欲求を満たすのはセクハラと違い、法に触れるわけでもなく、他者に迷惑をかけているわけでもありません。
なぜそのような行動をとったのか、介護職としてどのような対応を取るべきなのか、組織内で情報を共有し、今後の対応を考えることが大切です。
高齢者が性的問題行動をする理由とは?
高齢者が性的問題行動をするのには、以下のような理由があります。
- 認知症のため
- 麻痺や拘縮など身体的問題のため
- 悪いことであると認識していないため
それぞれ詳しい内容を見ていきましょう。
認知症のため
高齢者が性的問題行動をする理由の多くは、認知症による判断能力の欠如です。
介護現場で起こるセクハラは認知症高齢者によるものが多く、理性よりも本能で行動することが原因です。
認知症の場合は、セクハラ行為が悪いことであるという認識が薄い可能性があります。
行動の裏側には「他人と触れ合いたい」「自分にかまってほしい」など、人間の本能に基づいています。
また、相手を自分の配偶者や過去の恋人と勘違いしている可能性もあるため、認知症の方の性的問題行動については、行動の背景に目を向けながら対応方法を考えましょう。
麻痺や拘縮など身体的問題のため
麻痺や拘縮などがある高齢者の場合は、自らの意図せずに性的問題行動につながっている場合があります。
たとえば、体を自由に動かせないという理由から、意図せず陰部を露出したり、介護職の体に触れてしまったりといったケースです。
たとえ意図的ではなく本人に悪気はなくても、介護職からするとセクハラのように感じ、あの人はセクハラをする人だというレッテルを貼ってしまう可能性もあります。
身体的な状況によってセクハラであると勘違いしないよう、日頃から利用者様一人ひとりの麻痺や拘縮の有無をはじめとした身体状況を把握しておくことが大切です。
悪いことであると認識していないため
利用者様から介護職へのセクハラに関しては、利用者様自身に悪いことをしている認識がない可能性があります。
セクハラという言葉が法律にはじめて明記されたのは、1997年の男女雇用均等法の改正です。
そのため、多くの利用者様にはセクハラという概念はありません。
今考えるとあり得ないことですが、昔の日本は女性軽視の風潮があり、セクハラが黙認されていたのが現実です。
男性利用者が女性スタッフに対してセクハラ行為をするのも、当時の価値観が残っている可能性も考えられます。
実際にあった高齢者の性的問題行動
実際に介護現場で起きた、次のような高齢者の性的問題行動を紹介します。
- 訪問介護先でキスを迫られた
- 男性利用者が女性利用者にセクハラした
- 利用者様同士が裸で抱き合っていた
- アダルトビデオを見せてつけてきた
びっくりするような出来事ばかりですが、高齢者の性について考えるきっかけにしてみてください。
訪問介護先でキスを迫られた
高齢者のむけの賃貸住宅で、訪問介護サービスを提供しにいった30代の女性介護職Aさんが、脳梗塞で療養中の70代の男性利用者Bさんからセクハラを受けました。
具体的には、Bさんから「ベッドから体を起こしたいから手を貸してほしい」と言われ、Aさんが手を握ったところ、強く引き寄せられ抱きしめられてキスを迫られました。
振り払おうとしましたが、相手の力が強く、その後下半身も撫で回されました。
大声で叫ぶと、ようやくやめてはくれましたが、Bさんは悪びれる様子もなく、その後も笑いながらいやらしい目つきでAさんを見ていました。
男性利用者による女性職員へのセクハラは、行動がエスカレートする前に担当職員を変更することが大切です。
セクハラ行為がひどい場合には、サービスの提供中止も検討する必要があります。
男性利用者が女性利用者にセクハラした
特別養護老人ホームに入居中の男性利用者Cさんは、職員の目を盗んでは日常的に同じユニット内で生活する女性利用者Dさんに対して、身体を執拗に触ったり卑猥な言葉を発したりするセクハラ行為をしていました。
職員がセクハラを確認した際は、その都度注意をしていましたが、逆に怒って職員に暴力を振るうこともありました。
他のユニットに移るといった対策をしましたが、そこでも別の利用者Eさんに対してセクハラ行為をしました。
Eさんはセクハラ行為がきっかけで部屋から出なくなり、引きこもり状態になりました。
利用者様同士のセクハラ行為は、QOLを大きく下げる要因です。
そのため、早い段階で情報共有し、当事者同士の距離を遠ざけることが大切です。
参考:女性入所者への度重なるセクハラ行為への対応|あいおいニッセイ同和損保
利用者様同士が裸で抱き合っていた
食事の時間が近づいたため、利用者のFさん(女性)を部屋まで迎えに行くと、利用者のGさん(男性)と裸になり、布団の中で抱き合っている光景を目にしました。
体を寄せ合っているだけで、そのほかの行為には至っていませんでしたが、対応した職員はビックリして他の職員に協力を依頼しました。
FさんもGさんも認知症の方で、職員が訪れても驚くことはなく「食事ですか?では行きましょう」と冷静でした。
利用者様同士の恋愛関係については、悪い行為とは言い切れないため、まずは施設内で情報を共有し、行動がエスカレートしないか見守ることが大切です。
アダルトビデオを見せつけてきた
介護付き有料老人ホームの一室に住む70代の男性利用者Hさんは、入浴以外は部屋に引きこもり過ごしていました。
ある日、女性職員が部屋に食事を持っていくと、Hさんはアダルトビデオを観ながら陰部を露出させていました。
ビックリした女性職員は、食事を置いてすぐに部屋から出ていきました。
その後は可能限り男性職員が対応してましたが、勤務の都合上、女性職員しかいない日もありました。
とくに若い女性職員が部屋に行くと、わざと音量を上げたり、テレビの近くにあるものを取ってほしいといった要求が聞かれたりしました。
個人的にアダルトビデオを観ることは問題ありませんが、他人に鑑賞を強要したり、陰部を見せ付けたりする行為はセクハラに該当します。
高齢者の性的問題行動への対応方法
高齢者の性的問題行動への対応方法は、以下のとおりです。
- ダメなことはハッキリとNoと伝える
- 他の職員に助けを求める
- 利用者様の家族に状況を説明する
- 上司や他機関などに相談する
- 高齢者の性と向き合うことも必要?
高齢者から性的問題行動を受けた際の効果的な対策です。
ぜひ参考にしてください。
ダメなことはハッキリとNoと伝える
高齢者から性的問題行動(セクハラ)を受けた際は、ハッキリとダメなことを伝えましょう。
介護職からすると利用者様はお客様という認識があるかもしれませんが、セクハラ行為は犯罪なので、毅然とした態度で対応してください。
ハッキリと拒否する意思を示さないと「嫌がらないから同意していると思っていた」と言われる恐れがあります。
セクハラ行為は犯罪です。
嫌なことをされたら、必ずハッキリNoと伝えましょう。
他の職員に助けを求める
介護施設で利用者様から、セクハラをはじめとした性的問題行動を受けた場合は、他の職員に助けを求めましょう。
とくに、女性職員が男性利用者から問題行動を受けた際は注意が必要です。
高齢者といっても男性は力が強く、女性職員では対応できない可能性もあります。
男性利用者で頻繁にセクハラ行為がみられる方には、同性介助を徹底して女性職員に危害が及ばないような配慮が大切です。
利用者様の家族に状況を説明する
利用者様の性的問題行動がひどい場合は、ケアマネや管理職と相談して、利用者様のご家族に状況を説明しておきましょう。
万が一、さらなるトラブルに発展した際に、ご家族への事前報告がなかった場合、施設や職員が不利になる恐れがあります。
また、ご家族に事前説明をしておけば、表面上だけではわからない利用者様の過去の話が聞ける可能性があります。
たとえば、配偶者に先立たれたことをきっかけに、性的問題行動に発展している場合は、寂しさから他人に構ってほしい気持ちの表れかもしれません。
さらなるトラブル防止や利用者様の思いを知るためにも、性的問題行動の事実はご家族に説明しておきましょう。
上司や他機関などに相談する
利用者様からセクハラを受けた際は、他の職員や上司に相談することが大切です。
しかし、中にはまともに相談に乗ってくれないケースも考えられます。
その場合は、自治体にあるセクハラ相談窓口を活用しましょう。
たとえば東京都では、介護現場における利用者様やご家族等からのハラスメントに関する「法律相談窓口」及び「職員向け電話相談窓口」が設置されています。
気になる方はぜひ確認してみてください。
参考:介護現場におけるハラスメント対策について|東京都福祉局
高齢者の性と向き合うことも必要?
以前「高齢者の性欲とどう向き合うか」というテーマのもとに、全国の施設長クラスを集めた研修会が開かれました。
そこでは、高齢者の性を抑えるのではなく、しっかりと向き合うために介護施設にアダルトグッズを導入してみてはどうかという議論が展開されていました。
ただし、アダルトグッズを導入したからといって、高齢者の性的問題行動がすぐに解決するわけではありません。
また、導入することが正解とも限りません。
このような奇想天外な事例をきっかけに、介護現場では高齢者の性と向き合うことが、今後も求められてくるでしょう。
高齢者の性に関するよくある質問
高齢者の性に関するよくある質問は、以下のとおりです。
- 高齢者でも性欲はあるものですか?
- 施設内での利用者様同士の恋愛はどう対応すればいいですか?
それぞれの質問にわかりやすく回答します。ぜひご覧ください。
高齢者でも性欲はあるものですか?
高齢者になっても性欲はあります。
日本性科学会のセクシュアリティ研究会の調査では「この1年間に性交渉をしたいと思ったことはどれぐらいありましたか」という問いに対し、60〜70代の男性の場合は80%の方が「あった」と回答されています。
女性の場合でも、60〜70代の40%ほどの方が「あった」と回答されています。
男性も女性も高齢になったとしても、性的関心がまったくない人は全体の2割程度で、高齢者でも性欲があるということです。
とくに男子の場合は女性に比べて、高齢になっても性欲が強いということがわかりました。
施設内での利用者様同士の恋愛はどう対応すればいいですか?
施設内で利用者様同士の恋愛がわかった際は、以下の手順で対応していきましょう。
- まずは気持ちを尊重する
- 注意深く見守る
- 施設内で情報共有する
- 必要であればご家族にも知らせる
介護職でも社内恋愛に発展するように、利用者様同士で恋愛感情になるのは決して不思議なことではありません。
基本的には、利用者様の感情を受け入れ温かく見守ることが大切です。
ただ、過度な性的行動や他の利用者様の迷惑になるような行為がないよう、注意深く見守ることも必要です。
まとめ
「高齢者」と「性」は、世間ではタブー視されており、一見かけ離れているように思われています。
しかし、高齢になっても性的関心を持つことは、人間として当たり前のことです。
介護現場で、セクハラや自慰行為など、利用者様の性的な問題行動を見てびっくりすることもあるかもしれません。
そんなときに、「性的問題行動」=「悪」と決めつけるのではなく、行動の裏にある利用者様の想いを考えることが大切です。
本記事で紹介している、高齢者の性的問題行動の事例や対策などをご覧いただき、介護現場で起こる高齢者の性問題について考えるきっかけにしてみてください。
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