認知症高齢者の転倒リスクはどのくらい?原因と予防対策7選

介護職あるある
2023/07/12

認知症高齢者による転倒は、介護職として働く上で最も避けたい事故の一つです。
しかし認知症の方に注意する職員による見守りを強化するだけでは、転倒を完全に防ぐことはできません。

そこで今回は、認知症の方が転倒しやすい原因や介護施設における転倒対策について詳しく解説します。

本記事を参考に、介護職として普段からどのような点に気をつけてサポートをしたらいいのか把握しておきましょう。

認知症高齢者が転倒を避けるべき3つの理由とは?

平成30年に介護労働安定センターが行った調査によると、介護施設内で発生した事故の約65%が転倒・転落と最も高い割合を占めています。
施設内における高齢者の転倒は、最も起こりやすい事故であるといえるでしょう。

ここでは、高齢者が転倒を避けるべき3つの理由を紹介します。

寝たきり状態になる

高齢者の転倒は、骨折などの大きなケガを引き起こし、場合によっては寝たきりになる可能性もあります。
さらにケガによる入院で寝たきり状態になり、認知症を発症することもあります。

寝たきり状態を避けるには、一日中ベットで過ごすのではなく、活動時間を増やす努力が重要です。

不安から自発的に活動できなくなる

高齢者の転倒は、身体面だけでなく精神的な影響も及ぼします。

「また転んでしまったら嫌だな」「転んで痛い思いは二度としたくない」などの恐怖や不安から、高齢者は自宅に引きこもりがちになり、活動量が減る傾向があります。
その結果、自発的な行動ができなくなり、体力が衰える可能性が高まるでしょう。

体力が一度衰えてしまうと、高齢者にとって回復は簡単ではありません。
なるべく身体を動かす機会を増やし、心身の体力を維持する必要があります。

介護施設の責任問題になる

介護施設は、「安全配慮義務」といわれる利用者の安全確保に努める義務を負っています。
契約書に記載がなくても、施設は利用者の生命や身体の安全を守る責任があるのです。

大きな事故が発生した場合、施設は損害賠償責任が問われる可能性があります。
現実問題として、介護スタッフが訴えられるケースは少ないです。

しかし施設内で問題追求され職場環境が厳しくなり、離職するケースもあります。
事故を防止する努力は、スタッフや施設、利用者すべてにとって重要だといえるでしょう。

高齢者が転倒するのはなぜ?4つの原因

高齢者の転倒には、いくつかの原因が複雑に絡みあっています。
転倒の原因を少しずつ解消すれば転倒リスクを徐々に低減できますが、結果がすぐに現れることは稀です。

ここでは、高齢者が転倒する主な4つの要因を詳しく解説します。

原因1.加齢による心身機能の低下によるもの

高齢になると身体機能が低下し、視力や筋力の衰えにより転倒しやすくなります
たとえばリビングを歩くだけのシンプルな動作でも、視力の低下によりカーペットの段差に気ずかず転んでしまうケースがあります。

また身体機能の低下は、反射神経の鈍化も招き、一つひとつの動作に時間がかかる可能性もあるでしょう。
反射神経の鈍化は、高齢者本人の焦りや緊張を引き起こし、転倒リスクが高まります。

原因2.病気や薬の影響によるもの

パーキンソン病や脳卒中などの疾患や服用中の薬により、高齢者は転倒しやすくなる可能性が増えます。
薬の副作用にはめまいやふらつきなどがあり、転倒のきっかけになります。

高齢者は複数の薬を服用していますが、体調の変化を告げることを避ける傾向があるため、細心の注意が必要です。

また、薬の副作用が転倒の原因になる事実は、一般的には知られていません。
高齢者を日頃から観察し、めまいやふらつきの症状がないか確認してください。

原因3.運動不足によるもの

高齢者の運動不足は転倒リスクを高めます。
体を動かす機会が少ないと、運動機能や感覚機能が自然に低下するのです。

たとえば関節痛や片麻痺を持つ利用者が、長期間体を動かさないと関節が硬化し筋肉が衰え、運動が億劫になります。
結果として、身体を動かす機会が減り、悪循環に陥る方も珍しくありません。

高齢者の身体機能の維持には、定期的な身体活動が重要です。

原因4.環境によるもの

生活環境も転倒の要因のひとつです。
住み慣れた家でも、少しの段差や物につまづいたり、濡れた床で滑ったり、常に転倒の危険性をはらんでいます。

転倒リスクの軽減には、手すりやスロープの設置や床の整理整頓などの対策が有効です。
また、本人の体調に適した環境を整えることも大切です。

できる限り危険な要素を減らし、大怪我を防ぐための工夫が求められます。

認知症高齢者の転倒リスクはどのくらい?

2016年日本転倒予防学会誌によると、認知症をもつ高齢者は、一般の高齢者に比べて1.6倍も転倒しやすいと報告されています。

認知症が進行すると、コミュニケーション障害により自分の意思や考えがうまく伝えられずに、さまざまな自身のニーズを満たしにくくなるのです。

たとえば、高齢者が「喉が渇いた」と感じても意思が伝えられず、飲み物を取ろうとして自力で冷蔵庫まで歩き、転倒するときがあります。
「飲み物をとる」行動の背後には、認知症高齢者の「自立したい」「周りの人に迷惑をかけたくない」などの本質的なニーズがあります。

転倒予防には、認知症高齢者の本質的なニーズを理解し、尊重することが必要不可欠といえるでしょう。

認知症高齢者が転倒しやすい場所3選

認知症をもつ高齢者の転倒リスクは、居室やお風呂場などのさまざまな場所に存在します。
この項目では、認知症高齢者がとくに転倒しやすい場所を3つ紹介します。

居室

居室は、介護施設の中で最も転倒が起こりやすい場所です。

居室はあまり段差がないイメージですが、高齢者はカーペットや畳などのわずかな段差でも転倒します。
とくに夜間は視界が悪く、転倒が増える可能性があります。

ベッド下にあるハンカチを拾おうと下を見て転倒してしまった、ポータブルトイレに移動しようと立ち上がった瞬間に滑り落ちてしまったなどのケースが考えられます。

床に段差がないか、カーペットの端がめくれてないか確認するとよいでしょう。

お風呂場・洗面所

お風呂場洗面所も高齢者が転倒しやすい場所です。
床が濡れて滑りやすくなったり、濡れたマットを踏んだり、急な温度変化により体調不良になったりと注意が必要な環境です。
とくにお風呂場では、衣類を着ていないため、転倒した際に大怪我をするリスクが高いとされています。

滑り止めマットの使用や手すりの設置、適切な温度管理などの転倒予防対策をしっかりと行いましょう。

階段

高齢者が転倒しやすい場所の一つは階段です。
段差があるとつまずきやすくなり、とくに視力が弱く、足腰が不安定な高齢者にとっては大きなリスクとなります。
手すりの設置や足元に照明を確保するなどの対策が有効です。

認知症高齢者の転倒予防7つのポイント

転倒予防には、いくつかのポイントを組み合わせることが重要です。
ここでは、認知症高齢者の転倒予防7つのポイントを解説します。

1.転倒予防の運動をする

高齢者の転倒予防は、運動が効果的です。
おすすめの転倒予防の運動を2つ紹介します。

座布団でできるバランス保持運動

  1. 座布団に座ったまま、右のかかとを約10cmあげます。
  2. まずは10秒間保持しましょう。
  3. 次に、左のかかとも同様に行います。

テーブルを使い、体が不安定にならないよう注意してください。

太ももあげで筋肉強化運動

  1. 立った状態で行います。
  2. 右の太ももをゆっくりとあげ、下ろしましょう。
  3. 左太ももも、同様に行います。

最初は、左右各10〜20回を目安に始めます。
太ももが上に伸びるようなイメージで動かすのがポイントです。

高齢者の体力に合わせて行いましょう。

2.栄養バランスのよい食事をとる

認知症の方は、骨が脆い傾向があります。
カルシウムの吸収を助けるビタミンDや、骨の形成を助けるビタミンKを積極的に摂取しましょう。
それぞれの栄養素は、以下の食品に多く含まれています。

  • ビタミンD…キクラゲ、いわし、カツオ、卵、サーモン
  • ビタミンK…ブロッコリー、モロヘイヤ、小松菜、ほうれん草、納豆

3.薬の副作用をチェックする

転倒と薬には深い関係があります。
薬の副作用は、体の機能や運動機能を阻害する働きがあります。

とくにハルシオンやマイスリーなどの睡眠薬や、アポカインやコムタンなどのパーキンソン病治療に使われる薬などは、副作用に「転倒」の記載があります。
認知症高齢者の様子をみてふらつきの症状が強い場合は、薬の副作用を確認してみてください。

4.階段や段差をなくす

高齢者は筋力の低下により、歩く時にすり足になりがちです。
そのため、つま先を上手に上げられない、階段を踏み外すなど転倒リスクが高くなります。

たたみやカーペットの上など段差がある場所には、カラーテープを貼り、視覚的に目立つようにしましょう。
階段には、手すりや滑り止めを設置する、照明をつけるなどの対策もおすすめです。

5.物を散らさないようにする

床や廊下に物が散らかっていると、足元が見えずに転倒しやすくなります。
ボールペンや広告のチラシなど、細かいものを床に置くのは危険です。
また高齢者は、普段使うものは自分の周りに置く傾向があるため、物が多くなります。

物を適切に整理し、歩行の邪魔にならないようにしましょう。

6.照明を明るくする

暗い場所は視認性が低いため、転倒の危険性が増します。
居室からトイレまで足元の照明を明るくする、センサー式の照明の設置を検討してください。

7.靴底が滑りにくいものを履く

滑り止めのついた靴を選ぶと、転倒のリスクを抑えられます。
軽くて足に負担の少ない靴が高齢者には最適です。
雨や雪の日でも使えるよう、靴底がラバー製の靴を選ぶといいでしょう。

転倒した認知症高齢者の対応手順

転倒事故は認知症高齢者に多く見られます。
しかし、事故が起きた際に冷静に対応するのは難しいでしょう。
事故発見時の対応手順を確認しておきましょう。

  1. 意識を確認する。
  2. 体調(バイタルチェック)とケガの有無を確認する。
  3. 応援要請をする。

下記の動画で詳しく説明しています。ぜひ参考にしてください。

認知症高齢者の転倒リスクを知り環境を整えよう

転倒は完全には防げない事故ですが、対策により転倒リスクを減らすことはできます。
もし転倒が起きても、落ち着いた対応が大切です。

常にさまざまなリスクを想定し、安全に配慮した環境整備に努めましょう。

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